イギリスのジョンソン内閣がまたも存亡の危機にある。重要閣僚二人が閣外に去り追随する人が出ている。きっかけになったのは男性要職者の男性に対する暴行疑惑である。この説明が二転三転したため「もうジョンソン首相は信任できない」ということになったようだ。ジョンソン首相は長い間ずっと同じような危機を抱えているのだが保守党はジョンソン首相不信任には至っていない。ジョンソン首相は「まだまだ続投する」と意気軒高だ。
きっかけになったのは保守党のクリス・ピンチャー議員の暴行問題だった。会員制クラブで泥酔し男性に痴漢を働いたのだという。詳しい内容は入ってきていないが単なる部下に対する暴力問題でなかったことは明らかである。以前にも元アスリートの活動家に「言いよった」過去があるということが明らかになった。人権上の配慮からなのか「男性が男性に言いよった」ことは問題になっておらず「地位を利用した暴行」だけが問題になっている。
こうした問題が総理の任命責任に発展するのは日本と変わらない。BBCが経緯を書いている。当初テレビでは「ジョンソン首相は知らなかったようだ」と説明された。ところがサイモン・マクドナルド卿が「報告はしていた」と明かしたことから事態は一変する。話を総合するとどうやらジョンソン首相は報告は聞いていたようだが気に留めなかったようである。そしてそのまま忘れてしまい「知らなかった」ことになったのだろう。ただ証言が出揃ったことで「嘘では防衛できない」ということになり説明が変わってしまった。
日本でも総理が「自分が関わっていたとわかったらやめる」と言ったばかりに大騒ぎになったという事例があった。この時は総理大臣をかばうために周囲が辻褄の合わない話を防衛する羽目になり文書改竄がおこなわれた。文書改竄は犠牲者も出した。
だが、イギリスは事情が異なっている。おそらくジョンソン首相は自分を特別な存在だと見なしており何をしても許されると思っているのだろう。つまり世間に配慮するつもりがないのだ。平然と他人事のように「ピンチャー氏は任命されるべきではなかった」と説明した。反省しているとは言っているのだが全く反省した様子がない。そして、謝罪をしているのだが特に悪びれた様子はない。ビデオを見ると面倒臭そうに早口になる場面はあるがさほど動揺した様子は見せていない。
これに反応したのが社会保健福祉担当大臣と財務大臣という重要閣僚二人だった。日本でいうと厚生労働大臣と財務大臣が二人でやめると言っているのに等しい。二人はバックグラウンドが似ておりスターウォーズ好きという共通点もある友人なのだそうだ。スナク氏は経済対策に対する姿勢についてジョンソン首相を批判している。
日本であればここまでの騒ぎを引き起こした総理大臣がポジションに居座ることはないだろう。議会から造反されることは目に見ている。まず、派閥の領袖が騒ぎ出し総理大臣が自ら辞職を願い出ているところだ。確かにイギリス保守党の内部でも不信任案の動議が出されたのだが動議は否決された。このため保守党は少なくとも一年間はジョンソン首相にやめろとは言えない決まりになっている。
ロイターによるとジョンソン首相自身にもやめるつもりはなく、財務大臣を再任し次々とやめてゆくメンバー(すでに30名が辞任しているそうである)も補充する考えだ。新しく財務大臣になったザハウィ氏は「聖域なき改革を行う」と意欲を示した。だがスナク前大臣の言葉を聞く限りはこの「聖域なき」がどの程度中身のある言葉なのかはわからない。
ある調査によると69%のイギリス国民がジョンソン首相はやめるべきだと考えているそうだ。保守党の中には「信任投票に対する規則」を変えようと動き出している議員もいるようだ。だが、現在の状況ではジョンソン首相が実際に辞意を表明するまで彼を首相の椅子から引き摺り下ろすことは極めて難しそうである。
ジョンソン首相の人格に問題があることは明らかだ。都合の悪いことは忘れてしまい平気で事実とは異なる説明もする。とはいえそれが守りきれなくなるとあっさり前言を撤回し気軽に謝罪する。そして悪びれることもなく同じ間違いを繰り返し続けるのだ。
と同時に本人がやめると言わなければ首相を退陣させることはできない。ある意味イギリスの首相はかなり強く守られているということもわかる。ジョンソン内閣は今や泥舟状態だがまだしがみついている閣僚もおりあえて乗り込んでくる強者もいるという状態になっている。
こうした状態でジョンソン首相のような人が「自分は特別で守られている」と感じるのは自然なことなのかもしれない。