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岸田政権が掲げる「金融所得課税」はまずは健康保険料から 金融所得捕捉のためのプラットフォームづくりが提案されている

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岸田総理が総裁選挙に出た時に新しい資本主義の一環として「金融所得課税」について言及していたことはよく知られている。総理大臣になった時「社会主義的だ」と非難されたため金融所得課税には言及しなくなった。その後、ロンドンで投資の拡大などを呼びかけたため「金融課税は撤回したのではないか」とか「いやいやまだ諦めていないのではないか」などと言われている。

ところが、今回別件を調べていて金融所得がらみの負担増の話が出ているのを知った。とはいえ別に政権も隠しているわけではなく骨太の方針の原案にしっかり書かれているし報道もされている。75才以上の健康保険料に株や配当などの金融所得を勘案しようというのである。国債がこれまでのような発行ができなくなることが予想される中でこのように小さな文字で書かれた負担増が増えるのは間違いないのだろうなと感じた。

ポイントになるのは対象者が誰かということではなく「所得捕捉のシステム」の導入である。つまりまずは所得を捕捉できるシステムを導入して実績を作ろうとしているのだ。あとは対象者を広げてゆけばいい。よく考えたものだと思う。

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この話は選挙期間に出てくるだろうなと思っていたのだが意外と気がつかれなかったようだ。今の所、争点になったという話は聞いたことがない。検索するときっちりと出てくるので岸田政権がこれを隠しているというわけではない。きっちり見せておいて選挙で通すというのが重要なのだろう。

政府側から見た成功の秘訣は「見た目の印象」への配慮だ。所得税ではなく保険料に勘案とすることで「増税感」が減る仕組みになっている。さらに一部の人だけの問題だと見せることで自分たちには関係のない問題だと感じられるようにもなっている。ここまで読んだ人の中にも75歳以上の話なら関係ないやと感じて読むのをやめてしまう人がいるはずだ。実は投資をする人全員に関わることになる話なのだがそれに気がつく人は多くない。

日本政府はこれまでも増税ではなく保険料の値上げで実質的な増税をやっている。可処分所得と呼ばれる「実質的な所得が減っている」という指摘も珍しくなくなった。日経ビジネスのこの記事はこの20年で会社員の可処分所得が11%も低下していると書いている。

記事によると可処分所得が減る理由はいくつかある。

  • そもそも給与が上がっていない。
  • 急速な高齢化による社会保険料の値上げが進んでいる。
  • 消費税のように逆進性のある税金も上がっている(ベースになる統計が2017年のものなので税率はまだ8%だ)

こうした複合的な要因で負担感が上がっているのである。

野党も実は隠れた負担の増大に加担している。消費税についてのみ問題にしすぎるのだ。だから消費税増税さえ阻止できれば負担は増えないと感じる人が増える。

繰り返しになるが岸田政権がこれを隠しているわけではない。日経新聞が詳しく書いている。単に字が小さくてあまり注目されないだけである。

75才以上となっている点も注目だ。現役世代の負担を減らすためにはやむを得ませんよという説明になっており「なるほどな」と思わされる。お金持ちの高齢者だけが負担させられるのだから多くの人には関係がないという印象だ。さらに賃金上昇の努力目標と一緒に掲げることで「政府としてもやっていることをやっている」と説明できるようになっている。

字が大きかろうが小さかろうが一度選挙で承認されてしまえばこれまでタブーとされていた「金融所得を所得に勘案する」という既成事実を作ることができる。一旦既成事実ができてしまえばあとはそれを状況に合わせて広げてゆけばいい。賃金上昇を最終的に決めるのは企業なので政府としてはそれを要請し続けていればいい。

しかしここで疑問が湧く。そもそもどうやって金融所得を把握しようというのだろうか。この辺りも実は余念がない。今回の話の最も重要なポイントはここなのかもしれないと思う。

日経新聞によると「金融機関に金融所得を報告させる」プラットフォームを作ろうとしているようである。これも参議院選挙で「たくさんある政策」の中に盛り込まれ国民から承認されることになる。契約書は小さな字もきちんと読んでおいたほうがいい。

厚生労働省が具体的な制度設計を進める。金融資産額は正確な把握は困難だが金融所得は証券会社が把握している。金融所得の情報を証券会社などから得るための根拠規定を盛り込むといった法改正を想定する。介護保険料での導入も視野に入れる。

後期高齢者の保険料、金融所得も勘案検討 骨太方針原案

一旦貯蓄として溜め込まれてしまうと誰がいくら持っているかわからない。だが金融所得は動かした時に所得が把握できるため一旦監視できるプラットフォームさえ作ることができれば把握が楽なのだ。政府が貯蓄から投資への転移を推し進める背景にはこうした事情もあるのだろう。

このように政府は着々と金融資産の課税の準備を進めている。だが「所得税」の形でとってしまうと大騒ぎになりかねない。そこでまずはプラットフォームを作って所得を把握できる環境を作る。あとはどの程度まで広げるかを政府が裁量するという世界になる。

人々は財務省から取られる税金には敏感になるが、厚生労働省も同じような「税」を取っているということには気がつかない。政府としてはどちらからとっても構わないわけである。あとは茂木さんのように「消費税をなくせば年金を三割カットだ」などと言っておけばいいのである。細かな根拠はわからないが与野党で言い合っているうちに投票日になり議論の中身は忘れられてしまう。後に残るのは年金は税で保障されているのだろうなという漠然とした印象だけだ。

厚生労働省は過去に別件で失敗している。今回はこれを学習したのではないかと思う。

政府はマイナンバーカードを健康保険証に転用しようとしている。このため申請した人に7,500円の報奨金を支払って転用を進めようとした。7,500円もし支払えばみんなこぞって申し込むだろうと考えたのだろう。

ところがマイナンバーカードを健康保険証にするためには医療機関側にも導入費用がかかるためそのままでは健康保険証としては機能しない。厚生労働省はその費用をこっそりと患者に負わせようとした。具体的には3割診療の場合初診で21円、再診時に12円、調剤で9円と細かくチャージしようとしたのだ。

この「こっそりチャージ」が医療機関からも反発されて見直しを迫られることになった。

こうした厚生労働省の「説明しない」態度は「紙の保険証廃止」提案でさらに反発されることになった。日本医師会の松原謙二副会長は「最初義務化しないといっていたではないか」と猛反発したそうだ。松原さんは日本医師会の会長選挙で松本吉郎氏に敗れたものの、松本さんも「国民に丁寧な情報発信が必要」としている。つまり、病院の負担を減らすために患者にこっそりと負担を負わせるような施策を認めてしまえば「医師会は政府と談合しているのではないか」などと言われかねない。これは新型コロナの対応で国民への説明が必ずしも十分でなく一期で退任することになった中川前会長の反省を踏まえてのものだろう。

今回のやり方はそれに比べればかなり用意周到に準備されている。選挙に合わせて「政策」として提案し「ついでに国民から承認してもらおう」という作戦だ

ただ「小さな字で書いてある」だけなので、あとで「いや聞いていない」という批判は浴びるかもしれない。

おそらく今回の金融資産所得の把握という方針も「小さく産んで大きく育てる」ようなやり方で既成事実化できるかもしれない。厚生労働省としては新しく獲得した宝の山である。

だがなんらかの形で反発を生むようなことになれば返ってややこしい事態を生む可能性はある。その時に「いやマニフェストに小さい字で書いておきましたけど」などといっても誰も話を聞いてくれないだろう。選挙の時にきちんと国民に説明しておいたほうが良いように思える。

政治家が「社会保障費の負担は増し国債にも頼れなくなった」と説明してくれればいいのだが、現代の政党はこうした負担増につながる説明を嫌がる。むしろ政治家は取り立てた以上に配りたがる傾向がある。税収はかなり好調だったようで2年連続で過去最高になった。だが衆議院選挙・参議院選挙と立て続けに行われたため選挙対策の持ち出しも増えたため財政状況は悪化した。このままでは財政が立ち行かなくなることは明らかである。

もちろん負担に関わる悪い話は聞きたくないとする国民の側にも問題はあるのだが、いずれにせよ細かなところを読まずにわからないままで投票してしまうと、あとで「いやあの話は聞いていなかった」ということになりかねない。契約書はしっかり読んでわからないことはいちいち聞いた方がいい。

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