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もう値下げ競争に付き合えない コカ・コーラの急激な値上げは成功するのか

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コンビニによってコカ・コーラの値段は様々だ。どうも容器によって価格に差があるらしい。ペットボトルコーラは高い。ペットボトルの100円コーラもあるが容量が小さい。そこで100円の缶入りコーラがあるところを探して飲んでいる。ところがあるコンビニから缶のコーラが消えファンタで埋め尽くされた。安いコーラをブロックされたのかと思い別のコンビニに行ったところまだ缶のコーラが置いてあり「今後はここで飲もうかな」などと思った。

そもそもどうしてこんなことになっているのだろう?と思い調べてみた。意外なことに最近のコカ・コーラ社は経営がかなり圧迫されているらしいということがわかった。

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まず手始めに「コカ・コーラ社が10月に値上げに踏み切るらしい」というニュースが見つかった。つまりまだ値上げの影響は出ていない。NHKが値上げのニュースをまとめている。対象となるのはペットボトル入り飲料など120品目だそうだ。その値上げ幅は6%から18%になるという。理由はペットボトルや砂糖などの調達コストだ。

このニュースが大きく扱われるのは小型容器に入った飲料の値上げが日本ではほぼタブー視されていたからである。TBSはこのインパクトを「消増税の影響を除くと1998年以来、およそ24年ぶり」と的確に表現している。

アルミの価格も上昇しているはずだがペットボトルの価格上昇がかなり大変なことになっているのだなということがわかる。これは世界的な傾向で中南米やアフリカなど新興国市場ではガラス瓶の再導入が検討されているというニュースすらある。実験的にアメリカ南西部でも導入を進めているそうだ。

NHKが取材しているのはコカ・コーラボトラーズジャパンという会社である。時事通信によるとコカ・コーラボトラーズジャパンは1都2府35県でコカ・コーラを売っている。つまり、コカ・コーラはライセンスをアメリカにある会社から買って日本で容器に詰めて売っている。さらに経営の効率化のために会社を統合したということもわかる。この経営効率化が実は今回の話の一つのカギになるようだ。

実は大型容器に入った飲料はすでに5月に値上げされているそうだ。確かにこのニュースは聞いたことがあるが、意外と実感できなかったという人が多いのではないだろうか。その実情は東洋経済の記事を読めばわかる。デフレマインドに慣れきった業界がリベート漬けになっているのである。つまりメーカーが価格を上げてもあとで割り戻されるという仕組みになっているのである。

リベートとは売り場を確保してくれた小売店に対して報奨金を支払う制度だ。たくさんの報奨金を支払えばメーカーは棚を確保することができる。また小売店もチラシに印刷して「他社より安く売っていますよ」と宣伝をすることができる。

ところがこのリベート政策が立ち行かなくなりつつある。希望小売価格300円のものが100円で売られたりしていたのだが原材料費の値上げを吸収できなくなったというのだ。このためにはリベートをやめたい。だがリベートを止めてしまうと他メーカーが売り場をすべて持って行ってしまうかもしれない。こうしてリベートによる自縄自縛に陥り実質的な値上げが難しくなっている。2019年に物流費が高騰した時に「各社で一斉値上げ」したもののまた価格が下がってしまった。ライバルが値上げをしている時に自分達だけがリベートを積んでシェアを伸ばそうとする傾向があるからだ。

ではなぜ飲料メーカーはリベート依存に陥ってしまったのか。似たような商品が多数売られているからのようだ。例えばお茶は「社員でも味の違いがわからない」のだという。盛んにCMでうちのお茶はここが特別だとやっているが「実はわからない」というのはなかなかに衝撃的な情報である。

だが、それでもコカ・コーラ社は値上げに踏み切るかもしれない。コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスはこのところ赤字に陥っている。理由はシェア拡大を優先させたためであると日本経済新聞が書いている。この記事でも過度なリベート依存が利益を圧迫していることがわかる。売り上げは上がるが利益が生み出しにくいという構造が生まれているのである。

巣篭もり需要が増える事を予想したコカ・コーラとサントリーが棚の争奪戦をやり価格競争が激しくなった。小売店は喜んだが二社の営業収益は落ち込んだ。ところが、需要は思ったより伸びなかったようだ。結果的に過剰リベートのコカ・コーラ社は赤字に転落してしまったのだ。利幅の縮小を売り上げという規模でカバーできなかったということなのだろう。

自動販売機は小売量販店より高いというイメージがある。だが、面白いことに自動販売機での実質的な値下げも進んでいるそうだ。こちらはリベート・バックの代わりにポイント・バックしている。コークオンというアプリを使うとポイントが払い戻されるという仕組みがあるのだそうだ。このため実質的な価格は下落傾向にあるという。

こうまでしてシェアを拡大したいというのはコカ・コーラ社が昔からの成功体験に基づくのだろう。とにかく市場の売上高「金額シェア」を重要視する文化があるのだという。だが、いわゆるデフレマインドがもはや日本の消費文化と言ってもおかしくない状態で定着している。これに原材料費の高騰が重なり「もう派手なシェア獲得合戦ができない」という状態になっているのである。

日経新聞の記事には気になることも書かれている。乱立していたボトラーを束ねて2017年まで12ボトラーを統合し900人をリストラしたそうだ。人が減れば当然細かな店頭支援はできなくなる。だからアプリを使った報奨金合戦やリベートを使った棚の確保という「実弾戦」に頼ることになったのだろう。ここでシェアを落とせばさらにリストラが加速しかねないのだという。

社員の立場では売り上げが落ちれば自分のポジションがなくなってしまうかもしれない。だから売り上げを上げるために利益を度外視するという状態に陥っている。だがコカ・コーラが営利企業である以上はいつまでもこうしたシェア獲得競争はやっていられない。これがコカ・コーラの値上げが「急速になるかもしれない」と考える理由だ。

コカ・コーラ社がこうした状態から脱するためには新製品を作って「売れる商品づくり」を進めるしかない。コカ・コーラ社は中でも材料を混ぜるだけで簡単に作ることができるレモンサワーに注力しており檸檬堂の売り上げは好調なのだという。他の缶チューハイよりも30円高いという微妙な特別感で「プチプレミアム感」を出すことに成功しているそうだ。

この檸檬堂の成功がコカ・コーラの赤字体質を抜本的に解決することはないのだろうが、こうして一歩一歩実績を積み重ねてゆくしかない。

消費市場全体に染み付いた節約志向を簡単に払拭することはできない。おそらくは賃金上昇が始まってもしばらくは「お金を使うリハビリ期間」というような状態になるのではないかと思う。それくらい人々は節約に慣れている。そもそも賃金上昇が始まっておらず社会保障費の値上げなども予想されている。ここで政治がデフレマインドの払拭に成功しなければおそらく日本企業の苦境はこれからも続くのだろう。

黒田日銀総裁は日本の家計は値上げを許容していると言っているがおそらくそんなことはない。少しでも安い飲料や食料を求めて複数のスーパーマーケットを比較しコンビニや自動販売機などの検討対象に入れるようになっている。人々はコツコツとポイントを集めて10円でも安くコーラを買おうとしているのだ。

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