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プーチン大統領がサハリン2を強引に接収し、ただ見守るしかない日本政府は「注視砲」で対応

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プーチン大統領が新しい大統領令に署名した。ロシア側は「契約を組み替えるだけでガスを売らないというわけではない」と説明しているが、日本側ではすぐさま「これはサハリンからLNGが入ってこなくなる」というニュースだと理解された。契約更新に応じなければ権益がなくなってしまうからだ。岸田総理は記者団に短く対応したが視線が泳いでおり少なくともバックアッププランはなかったものと思われる。状況を注視すると言っているところから「ただ見守るしかない」状態だ。直ちにLNGの供給が止まるわけではなく電力需要が逼迫する冬の影響が心配されている。

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岸田総理や日本政府のこの「注視砲」は何も珍しいものではない。円安対応の時にもよく見られる姿勢である。日本はサハリンから9%のLNGを輸入しており供給が止まればエネルギー価格のさらなる上昇につながる。このためロシアから一方的な契約変更を突きつけられるというリスクがあってもそれを考えないようにしてきたのだろう。岸田総理がプランBを持っていなかったのか、周囲の人たちがあえて報告していなかったのかはわからないのだが、少なくとも総理は「突然の環境変化」にただ「注視します」としか対応できなかった。

各社はこれについて批判的な報道はしなかった。NHKはウクライナの戦争を有利に展開したいプーチン大統領が日本を一方的に突然揺さぶってきたという組み立てで報道し、こうした事態が予想される中で日本政府代替案を作ってこなかったという点には触れなかった。

ただ、ロシア側が過去にも同じような現状変更を試み成功したことがあるということは広く知られている。もともとサハリンプロジェクトは外資だけが権益を持つプロジェクトだったのだが、環境への懸念を表向きの理由として50%の権益をプーチン大統領に近いガスプロムに認めるという契約変更をしている。サハリン2事件と呼ばれる事件だ。

ロシアは開発コストはかけたくないが外国に黙って国富を持ってゆかれるのは我慢できない。さらにガスプロムというプーチン大統領に近い企業に利益を誘導することでプーチン政権を支えるのにも役立ててたい。許認可権限を全面的に押し出して国益と政権への利益誘導を図るというのはロシアの常套手段であり、こうした経緯を知っている人たちには同じようなことが起こることは容易に想像できたことだろう。

西側との関係改善が望めない今となっては日本に天然ガスを輸出しても得られるものは少ない。であれば中国などに売ったほうが有利になる。プロジェクトが軌道に乗った今となっては日本は用済みということなのかもしれない。こうした環境変化に対応したシェルの影響は限定的だったが三井物産と三菱商事の株価はそれぞれ5%強下落したそうだ。

ロシアは「これからも天然ガスを売ってあげようというのに日本が契約更新を拒否した」という理由で権益を全て取り上げることができる。一応権益を取り上げた際の「補償金」は出るようだがロシアの取り決めによって管理されるため日本が引き出せるかどうかはよくわからない。つまり日本が西側陣営にとどまる限りは一方的に権益を取り上げられても不思議ではないという状態である。

おそらく、日本がロシアとの契約を更新するのは難しいのではないかと思われる。G7の間の取り決めがありロシアに有利にな形での取引は厳しく制限されているからだ。つまり、今後日本政府はロシアの言い分を飲むかG7の取り決めに従って権益を手放すかという選択を迫られることになる。日本には選択の自由はないため、日本政府が「一方的な契約変更について考えたくなかった」のも当たり前といえば当たり前と言えるだろう。

これまで「中国に権益を取られると困るから」という理由で頑なに代替案を作ってこなかった日本政府だが今後は遅れてエネルギー獲得競争に加わることになる。産油国のはずのアメリカ合衆国でもガソリン価格の値上がりが起きている。もっと高値で売れると期待する人たちが高い価格を維持しているためと言われる。バイデン大統領は石油元売に怒りの手紙を出したり、サウジアラビアとの関係改善を模索する。さらに共和党時代に封じ込めていたベネズエラとの関係改善にも取り組んでいるようだ。

事情はヨーロッパでも同じである。急速な状況変化のために「環境派」の政策を見直し石炭火力を組み入れるドイツような国も出ている。支持者は離反するだろうが経済を止めないためにはやむを得ない措置だ。

なお今の時点でも日本政府は権益を諦めるとは言っていない。ロシアからのLNG供給が滞れば数兆円の追加コストが発生するそうだ。特に電力の逼迫が予想される冬の状況は厳しいものになる。とはいえ現在は選挙期間中のためあまりネガティブなニュースは流したくないのだろう。

代替案といっても「電力料金の値上げ」か「我慢してもらう」しか対策はなさそうだ。現在節電のために日本政府が検討しているプランは民間の節電プログラムに参加してもらって2,000円ほどの参加料を払うという程度のものである。もう一つ考えられるのは、原発の再稼働だが、これも参議院選挙にはあまりプラスにならない。話が浮上したとしても「計画停電が頻発し国民の側から原発再稼働してくれ」という機運が盛り上がるまでは議論の俎上には上がらないのかもしれない。

参考文献

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