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Amazonは社員全員がリクルーター:世界的な人材不足の中で優秀な社員獲得競争がますます加速している

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日本で給料が上がらない謎について継続的に考えているのだが、東洋経済に面白い記事が見つかった。Amazonが一定以上のレベルの社員にLinedInというサービスを使わせているというのである。LinedInはプロフェッショナルが経歴を登録するサービスで転職活動にもよく使われている。だがこの記事は「Amazonは社員に転職を勧めている」と言っているのではない。逆にリクルーターとしての活動を期待しているのだという。つまり社員総出で新しい人材を探しているのだ。

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ただ、この記事を読んでも「何が書かれているのかがよくわからない」という人がいるかもしれないと感じた。

  • そもそも人材獲得は人事部の仕事であって一般社員が関わるというイメージがない。
  • LinedInというサービスにどんな意味があるのかがわからない。

プロフェッショナルたちは常にSNSを通じて自分たちの職業的知見を発信し続けている。日本ではジャーナリストと学者の一部がTwitterを活用するようになった。例えばTwitterでロシア関連の情報発信をしていた識者がテレビ関係者の目にとまりコメンテータとして採用されるというような事例は今では珍しくない。

例えば新興企業の社長などはSNSで自由に発言ができるのだが雇われている側の人たちがこうした活動に参加することはあまりないだろう。会社の考えと個人の考えが違っている時に問題になる。また「誰が見ているかわからない」という理由でSNSの活用を控えるという人もいるだろう。

学生たちも就職活動目前になるとSNSのアカウントを閉鎖してしまう。企業側は「裏アカウント調査」と称して学生のSNSでの活動をチェックしている。むしろ自分自身の考えを持っているような学生は「危険人物」扱いされてしまう可能性がある。

記事には「Amazonではどんな社員もリクルーターでありまた社員を育てなければならない」と書かれている。常に問題意識を持ち学び深く考えることが求められるのだという。

インサイダーの記事なのでAmazonの企業文化を賞賛しすぎている可能性はある。だが、それを割り引いても参考になる点はある。注目すべきなのは、Amazonですら優秀な社員獲得に苦労しているという点である。Amazonに限らず成長している会社は常に新しいビジネスのチャンスを探している。そのためにはそのビジネスにふさわしい人材が必要だ。そして多くの企業がすでにそのような人材獲得競争をやっているのである。

以前、このブログでは日本のAmazonのために働く配送業者たちの賃金が上がらない問題について考えた。この時に問題になったのは「労働者に選択肢がない」という点だった。

アメリカでLinkedInのようなサービスが成り立つのは「今の会社では実現しそうにないビジネス」でも他の会社では高く売れるかもしれないという環境があるからだ。つまり労働者が「スキルを売れる」市場がある。逆に全ての会社が横並びで同じようなことしかやっていないのであればこうした環境は成り立たない。このような市場では社員は自分のスキルなり人脈を高く売ることができない。だから社内での売り込みに失敗してしまうとそのスキルは死蔵されてしまう。こうして人材を死蔵している企業側も「なぜ社員は新しいビジネスを考えてこないのだ」と苛立っている。

日本は失業率を低く抑えるために雇調金特例という制度を作り5.8兆円の支出をした。確かに失業率は抑えられたが雇用保険全体で約6兆円あった積立金はほぼ枯渇し社内失業者である「休業者」は20年平均で256万人にまで膨らんでいる。日本はお金を出して休業者を増やすという政策を選択したのである。

参議院選挙に入り「どうして日本の賃金は上がらないのか?」という問題が語られるようになった。だが、日本の労働市場をマイナーチェンジしている間は正解はなかなか見えてこないだろう。どうしても「身分の安定」を優先してしまうからである。

ただしアメリカも急激にこのような人材獲得型の社会になったわけではない。つまり日本が「明日から労働市場を流動化します」などと言ってもおそらく混乱が広がるだけだろう。またこうした人材獲得型の産業の恩恵に預かれる人ばかりでもない。おそらく必要な教育が得られないという理由でスタートラインに立てないという人も多いはずだ。。最後にアメリカでの人件費高騰は様々な産業分野に渡っており現在はかなり急激なインフレが進んでいる。つまり労働市場の流動化には恩恵だけではなくそれなりの副作用がある。

いずれにせよ、日本と欧米の雇用環境はこれくらい大きな違いがある。日本は「終身雇用の安定」を優先したため労働市場の流動化が起こらず賃金の抑制が起きている。かつてあったような終身雇用の保護も消えかけており、労働者は「賃金抑制と身分の不安定化」という二重の圧力に晒されているのである。

日本が急速にアメリカ化することはないだろうが、このままの停滞状態が長く続くとも思えない。そうなると我々にできるのは「自分たちができる範囲での情報発信を始める」ということなのかもしれない。社会が変わってくれることを待っていても変化は起きないだろうが、一人ひとりが変わって行きさえすればいずれ社会も大きく変わるからである。

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