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ルビコン川を渡りつつある日本銀行とその先にある増税議論の行方

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Bloombergが日本銀行は「ルビコン川を渡りつつある」という記事を書いている。株式に投資している人は「もう知っているよ」という話ではあると思うのだが、そうでない人は全く気がつかないニュースだろう。これまでの政府・日銀破綻論と違って派手なインパクトはないのだが、日銀が金融政策を変更せざるを得ない時期は意外とすぐそこまできているのかもしれない。国債がこれまでのように発行できなくなると考えると次に出てくるのは政府サービスの縮小か増税議論だろう。つまり現在参議院選挙の各党のキャンペーンにはあまり意味がないかもしれない。「その後」について語っている政党はどこもないからである。

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Bloombergの記事そのものは非常に短いものだ。日本銀行が金利を抑えるために国債を買っている。日銀の作戦は金融投資家からのチャレンジを受け続けている格好だ。幅広い年限の国債を購入してはいるのだが10年ものを除く国債の利回りは上昇している。このため日銀が持っている国債の割合はほぼ50%というところまで来た。

ただそれだけである。日本政府を称賛するつもりもないのだろうし逆に政府を批判する意図もないだろう。さらに「これが即座に問題になる」とは書かれていない。ただ「そんな国はどこにもない」ことが問題になっている。つまり何が起こるのか誰にもわからないのだ。

これを深刻に受け止めた人がいる。記事が転載される時にタイトルが変わったのだ。原題は単に現象について述べているだけだが日本語版では説明がつき、日本の経済誌は「断定は怖い」と考えて疑問文にした。これが却って問題の潜在的な深刻さをうかがわせる。

この記事は外国の目線で書かれた翻訳記事のようだ。このため日本政府がどうなろうがあまり関心はないだろう。何が起こる変わらず居心地が悪いのだから「距離を置いた方が無難」というだけの話である。日本経済全体を見渡すと世界的なインフレの影響を日本も受けており通貨は安く売られている。ところが日本銀行はとにかく長期金利を死守しなければならないため打ち手がない。つまりここでも「日本経済がこの先どうなるかはわからない」ということが書かれている。単にそれだけである。

問題は日本政府や日銀に次善策やプランBがないという点にある。事態が動いても対応できない。

Bloombergの別の記事では海外投資家が記録的な量の日本国債を売り越したと書いている。YCC政策を微調整するというのは「高値=低金利」を維持している日銀の政策がもう持たなくなるだろうと多くの海外投資家が予想しているということを意味している。下落の可能性が高いものを持っている必要はないのだから少し損をしてでも(つまり金利が高くなってでも)この際片付けてしまおうと考える人が増えているということなのかもしれない。

Bloombergは海外情報なのだからそのような配慮はしてくれないし、またその必要もない。逆に野党の立場に立って自民党・公明党政権の政策を批判するようなこともない。彼らは単に自分たちの読者の金融資産を守るためにどのような判断をするための情報を出すだけだ。

現在参議院選挙が行われており、各党は誰にどれだけ分配するかという「政策」を競っている。だが、その「前提が崩れた時に何をやります」と掲げる政党はない。

いずれにせよ、進む円安対策に自民党・公明党政権は打ち手を示さなかった。口先介入と「懸念砲」は多く聞かれたが、鈴木財務大臣は「注視しています」以外の言葉を発することはない。おそらく「打ち手はない」と判断するべきなのだろう。日銀が持ちこたえているうちはなんとか持ちこたえてもらうがそこが突破されてしまえば当然次の手段を考えて財政を支えなければならない。

そうこう考えると、各党の今の政策の差異にはあまり意味がないのかもしれない。国債がこれまでのように発行できなくなったとき時にそれぞれの政党が何ができるのかを考えると解決策は単純に「縮小」か「増税」になる。ただ、現在は国債の状況が未踏の領域に入ったというだけなので「いつ頃現在の政府のファイナンスが行き詰まるのか」とか「どの程度行き詰まるのか」は誰にもわからない。

風船を持ちながら簡単なクイズに答えるテレビのバラエティーショーみたいなものだ。クイズに答えたら風船を次の人に渡すことができる。日本の政治もそんな状況だ。どこかの時点で「やはり消費税を上げさせてください」というようなことになればその政党が負けというゲームだ。国民は最終的にその判断を受け入れるだろうが、防衛的に消費を控えるようになるかもしれない。さらにその提案をした政党や政権はおそらく次の選挙ではあまりいい勝ち方はできないだろう。野田政権の末期を見ているとそのことがよくわかる。

ただし政府も何もやっていないわけではない。すでにご紹介したように財務省や厚生労働省が「持続可能性がない政策はもうやめましょう」と言っている。店じまいを提案するのは政党ではなく官僚の仕事だ。

また痛みを伴う改革(当時の課題は国鉄の解体民営化だった)を「民間主導」で言わせた「臨調」の再来を思わせるような組織も新しく作られた。政党は選挙中に「どう分配するか」ということを盛んにアピールするのだが、その裏では「その後」のことも考え出しているかもしれない。

臨調には岸田文雄首相(自民党総裁)と立憲民主、公明、日本維新の会、共産、国民民主の各党の代表者が参加したそうだ。この提案が「行政改革」になるのかあるいは「増税提案になるのか」などはわからないのだが、こうした「民間主導の会議」で誰が誰に何を言わせるのかということの方が重要なのかもしれない。部会は統治構造、財政・社会保障、国土構想と3つ作られる。構想は年内にまとめるそうだ。

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