イスラエルで連立政権が崩壊した。長期政権だった反ネタニヤフという理由だけでまとまった寄せ集め内閣だったが結局のところ意見をまとめることができなかったようだ。2019年以来4回選挙が行われており10月には5回目の選挙が実施されることになる。当面はラピド外相が首相を務める。7月にはバイデン大統領のイスラエル歴訪が予定されている。
ネタニヤフ氏は1996~1999年から首相を務めた。さらに2009~2021年にわたって政権を担当してきたのだが、最近の選挙では組閣に必要な議席数を集められなくなっていた。その隙に反ネタニヤフ・リクードの8党で政権構想がまとまり2021年6月に新しい政権が成立した。
BBCによると構成政党は次の通りだ。
- イェシュ・アティド(中道、ラピド党首、17)
- 青と白(中道、ベニー・ガンツ党首、8)
- イスラエル我が家(中道右派~右派国家主義、アヴィグドル・リーベルマン党首、7)
- 労働党(社会民主主義、メラフ・マイケリ党首、7)
- ヤミナ(右派、ベネット党首、7)
- 新しい希望(中道右派~右派、ギドン・サール党首、6)
- メレツ(左派、社会民主主義、ニツァン・ホロウィッツ党首、6)
- ラアム(アラブ・イスラム主義、アッバス党首、4)
このニュースを漠然と聞いていた時にはパレスチナ問題をめぐってアラブ系政党と右派政党の折り合いがつかなかったのだろうと思っていたのだが実は右派政党の内部で折り合いがつかなかったようだ。アラブ系の政党が入っているためにアラブ系の意見を聞きすぎたことに対して右派の政党の一部から反発が起きていた。5月に連立を離脱したなかには実はベネット首相が率いる「ヤミナ」の議員たちもいたそうだ。
中東調査会の記事によると連立崩壊の要因は次の三つだ。
- 東エルサレム情勢の緊迫化
- 国家宗教関係の変更を求める宗教右派に政府が応じなかった
- 首相がアラブ系政党の主張に配慮した
連立政党の右派はネタニヤフ政権の時に成し遂げられなかったユダヤ教の強化を成し遂げようとした。ところが連立政党内にはアラブ系の政党も入っているためにこれが実現しない。加えて東エルサレム情勢が緊迫化したことが問題になった。
だが直接のきっかけはまた別のものだった。西岸入植地に国内法を適用するという時限立法があった。国際社会はイスラエルが西側入植地のイスラエル支配を既成事実化することに反対している。政権から排除された形になったリクードがこの時限措置の延長に反対した。この法律が失効してしまうと西岸入植地の治安が危険な状態になる。そこで連立政権は国会を解散してしまえば失効を6ヶ月遅らせることができるという条項を使ってこの法律の再延長を図ったのだそうだ。「党利党略のためならなんでもやる」というイスラエルの政党政治の恐ろしさを感じる一方で時限立法に支えられて西岸入植地の経営を行なっているという危うさもあるようだ。
党利党略のためならなんでもやるという姿勢がよく表れているのが予算である。実は「2021年11月に2021年と2022年の予算がまとまった」というニュースがあった。本来は年度始めに決まっていなければならない予算だが成立したのが11月だったことになる。この件について伝えている朝日新聞の記事によると2020年度の予算は成立せず「期限内に予算を決められなかった」という規定で国会が解散になっているそうだ。選挙をしても支配政党が決まらないために予算や法律を人質にとって選挙を繰り返すがそれでも支配政党が決まらないという状態になっているようだ。
特に右側の人たちは選挙のたびに「今度こそは自分たちの主張が通るだろう」と感じるようで今回も「選挙を歓迎する」とのコメントを出している。さらに右派といっても「中東系ユダヤ」の他に「ロシア系ユダヤ」などがいるため実はその出自もさまざまだ。つまりまとまりは「ユダヤである」というだけで民族的に同一とまではいかない移民国家なのである。その点は自由主義でまとまるアメリカ合衆国と似ている。つまりいつでも分裂の危機があるということになる。
このため、実際に選挙をやっても特定の「右派」の主張がそのまま通るというようなことは起こらない。かといって大負けもしない。リクードも下野したとはいえ第1党であることは変わらない。さらにリクードが再び組閣を目指したとしても出自が異なる「右派」の人たちが素直に応じるかどうかはわからない。
普通なら「国が分裂するのではないか」と思うような状態なのだがイスラエルはアラブに囲まれているため内乱・分裂というような激しい混乱に陥ることもない。予算が成立しない中どうやって国家運営をしてきたのかは大いなる謎だが、予算が決まらなくてもなんとかなるという状態に依存し政争が繰り返されているのだろう。このため世界でも珍しい「全くまとまらないのに崩壊するわけでもない」というような状態がずっと続いており今後もまたその状態が続くことになる。
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