日本政府が失業手当の財源をほぼ全て溶かしてしまう

「すでに知っているよ」という人も多いと思うのだが、6兆円あった雇用保険の積立金がほぼすべて溶けてしまったそうだ。コロナ対策の雇用調整助成金(雇調金)が2020年春の特例開始から累計で5兆8159億円に達したと時事通信が伝えている。新型コロナ対策のために仕方なかったとはいえ今後不景気で失業が増えた場合の財源確保には困難が予想される。日本政府は一般会計(税金)からの補填と雇用保険料の値上げで対応するそうだ。

もちろんすぐに失業手当が出なくなるというような話ではない。だが、この先日本政府が思い切った賃金上昇を起こすために流動化(痛み)を伴う選択肢を取ることは難しくなるだろう。






新型コロナ禍が始まった時には経済が冷え込み「このままでは雇用が維持できない」ということになった。対策は待ったなしだったのだからその時の対策が正しかったとか間違っていたなどと断じることはできない。問題は「待ったなし」で決めた対策に対して見直しを進めなかったという点にある。さらに繰り返しになるが「失業給付金」が今すぐ支給されなくなるというような話でもない。日本の労働状況はほぼ完全雇用に近いため今の状態が続くなら失業給付はそれほど必要とされない。

いずれにせよ、雇用調整助成金は当座の痛みをやり過ごすという効果はあった。だがそれと当時に生産活動に従事していない休業者の数も増えたそうだ。また企業は「雇用調整助成金依存」に陥ってしまった。驚くべきなのは長年の低失業状態に支えられて蓄積された余剰金がわずか2年で枯渇してしまったという点である。これまで失業給付があまり必要ないとされていたからこそ予備があったわけだからそれと同じ額が2年で使われたというのは驚くべきスピードである。

時事通信が懸念する点を挙げると次のようになる。

  • 企業内で「労働力として生かされない人」が増えており機械損出になっている。つまり社内失業が増えている。休業者は256万人もいる。
  • 働かなくても食べて行けるため転職機会が阻害される。
    • 中小企業に人が集まらない
    • 転職の際に「スキルアップをしよう」とする人の意欲が阻害される
  • 雇用調整助成金そのものに雇用環境をよくする効果はない。あくまでも緊急対策なので、緊急対策を行っている間に、何か効果的な対策を打ち出すべきである。

時事通信は挙げていないのだが企業の側としても「自社内で雇用調整を進めなくても国がなんとかしてくれる」という依存体質が生まれるのは目に見えている。これは企業内賃上げに悪影響を与えるだろう。労働者は逃げない上にそもそも余っているわけだから企業が賃上げなど行うはずはない。つまりこの政策そのものが「賃上げが起こらない」理由になっている。よく日本だけ賃金が上昇しないのはなぜか?という議論がある。おそらくわざとやっている人は誰もいないのだろうが「賃金抑制」につながる政策を選んで実施しているのだ。

この賃金抑制トレンドが非正規雇用にも波及する。また年金生活者も連動して年金が下がる形になっている。そこに今回のような物価高が重なれば「賃金上昇なき値上げ」が起こる。「誰が悪い」というわけではないのだろうが、全体のメカニズム自体は非常に明確だ。

2年間に及んだコロナ禍はどうやら収束に向かいつつあるようだ。だが今度は日本経済が不況に陥る可能性が出てきた。理由は二つある。アメリカ経済の冷え込みと金利差の拡大だ。FRBのタカ派シフトが持続すれば少なくともしばらくの間は経済が冷え込むことになる。日本は諸事情により金利があげられないため金利差の差異も恒常化するだろう。これが円安を加速させそうだ。これを書いている時点のドル円レートは136円まで悪化している。

現在雇用保険のプールは枯渇寸前だがこれがすぐさま危機的な状況につながることはない。厚生労働省もことの重大さを強調するために積立金相当額の支出があったと言っているのだろう。だがやはりそれだけの金を2年で使ってしまったということは確かである。さらに時事通信が指摘するような問題も出てきている。

この状態では新しい財源を探してこない限り失業基本手当の大幅増加につながる思い切った労働政策の変更はできないだろう。また、リカレント教育の費用を国が持つとしてもおそらく大規模な一時失業を前提とした賃金上昇策を講じることも難しい。つまり政府は労働力を流動化させるような賃金上昇策はあらかじめ封じられているといえる。厚生労働省の危機感をべつにすればおそらくこれが今回の問題の最大のデメリットだ。連合に依存する野党も流動化を前提にした賃金上昇策を提案することはできないことから日本の労働政策はかなり限られた枠の中で動かざるを得ない。

その限られた枠とはおそらく「企業にお願いして賃金を上げてもらう」ことだけだろう。目の前に不況の予兆がありさらに社内に余剰労働力を抱えている状態で「賃上げ」が合理的な経営判断ではないことは誰の目にも明らかだ。仮に不況がないとしてもまずは社内労働力を生産に戻すことが先決である。

時事通信が指摘するように労働者が自分で「休業している間に自分で金を出して新しいスキルを身につけよう」と思ってくれない限りは新しいスキルの獲得は人材の再配置は進まない。

さらにこのニュースは厚生労働省の思惑を超えたところに広がるかもしれない。企業と労働者がコツコツと貯めた余剰金を使い果たしてしまったと取られかねないからだ。恩恵を受けている労働者がいることも確かなのだが「払った人」と「受け取った人」の間には大きな感覚の違いが生まれそうだ。

日本政府の打ち手が限られているのだとすれば、あとは岸田総理がなんらかの魔法のような手段を使って経済を正常化してくれるのを願うばかりである。結局「日本が元のような状態に戻り全てが丸く収まった」となる以外に落とし所はなさそうだからだ。

参議院選挙が始まり岸田総理の経済観・国家観について聞くことができる機会は増えそうなのだが、今の所「経済にはいろいろ難しい問題があるためそれぞれ整理して考える時間が必要だ」と言っている。このロイターの報道が確かならば総理から答えが聞けるのは当分先になるのかもしれない。その間国民は国がなんとか答えを探してくれるのを待ちながら自助努力でこの経済状態を乗り切ることになるのだろう。

もちろん悲観的なニュースばかりではない。大手企業のボーナスは4年ぶりにアップしたと日経新聞などが伝えている。これまでの落ち込みを回復するためにアップ率は過去最高だったそうだ。

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“日本政府が失業手当の財源をほぼ全て溶かしてしまう” への1件の返信

  1. 自賠責といい、雇用保険料といい、全く所得倍増、資産倍増に繋がらない事ばっかり。政権与党いい加減に嘘つくのはやめろ。

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