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コロンビアで左派政権が誕生:バイデン政権にとって「最後の砦」が崩れる

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南米のコロンビアで大統領選挙が終わりグスタボ・ペトロ氏が勝利宣言を行った。日本ではゲリラ出身の大統領であるという点が注目されている。中南米で次々と左派政権シフトしておりバイデン政権としては「最後の砦」が崩れた形になる。

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ブラジルとペルーより北の南米諸国はもともとヌエバ・グラナダと言われる一体の地域だった。北米大陸のような強力な連邦国家は生まれず各地の地方政権が独立して今の形になった。

同じヌエバ・グラナダのベネズエラは左派政権ができて石油産業を国有化したためアメリカとの関係が悪化する。アメリカは経済制裁で対抗したが却ってマドゥロ政権を強める形になった。ウクライナで戦争が始まると石油の輸出格だを狙ったバイデン政権はベネズエラに再接近を始めているのだが、アメリカの共和党からの反対もあり先行きは見通せない。

南米では次々と左派政権ができている。残りの大きな地域はポルトガル語圏のブラジルだがここも左派政権が誕生しそうなのだそうだ。残りの中道右派政権はエクアドルだけになる。

南米「左傾化」に拍車 米国の影響力低下不可避

コロンビアは人口5,000万人程度の国だ。経済がほぼ失敗したベネズエラよりはマシな状態にあるが一人当たりの名目GDPを見るとそれほど豊かな状態とは言えない。内戦が終結したのがつい最近の2016年なのだ。つまり「長い間内戦にあった割にはまともな状態」にあると言えるだろう。内戦を終結させたサントス大統領はノーベル平和賞を贈られたが、その後も政府と左派ゲリラとの間の緊張関係は続いている。

コロンビアは左派との内戦を抱えていたため政権自体は親米政権だった。つまり国民の間にはゲリラに対する忌避感情があったのだろう。内戦終結後に大統領になったドゥケ大統領は「左派ゲリラとの和平交渉を見直す」と宣言していたのだがBBCによれば2021年5月ごろまでには政権運営に行き詰ってしまう。痛みを伴う改革を国民に押し付けようとしたため反政府デモが起きていたのだ。その反動として誕生したのが今回の「左派系」の大統領なのである。

BBCは少なくとも24名が抗議で亡くなったと伝えている。人々が反発したのは経済危機脱却のための税制改革である。所得税免除の加減を引き上げて納税者を増やそうとしたことが反発されたようだ。法人税の引き上げも計画されていた。これが人々を刺激し「年金、保険、教育システム」への日頃からの不満を誘発した。内戦が終結して時間が経っていないため豊富な武器が残っていたことも問題だった。

コロンビアに限らず南米の議会は少数政党が乱立することが多い。別のBBCの記事によると地方にそれぞれ独立勢力のような人たちおりまとまりがない。議会は10以上の政党に別れているそうだ。それぞれの勢力が地方に利権を持ち腐敗が蔓延している。

こうした政治勢力にうんざりした国民が選ぶのは腐敗を魔法のように解決してくれる強力な大統領である。新しい大統領に決まったペトロ氏の約束する政策は大学の自由化・年金改革・生産性の低い土地に対する増税などだ。またFARCとの和平合意の全面的な実施も約束されているという。裏返すとドゥケ大統領は2016年の合意の遵守にはそれほど熱心でなかった。AFPによると就任当初のドゥケ大統領は「左派ゲリラ(FARC)との和平合意を反故にするのではないか」と言われていた。

すでに時事通信が書いているように、アメリカ合衆国にとっては新しい左派出身の大統領の選出はあまりメリットになりそうにない。産経新聞によると中南米では2018年メキシコ、2019年アルゼンチン、2020年のボリビア、2021年のペルー、2022年のホンジュラス、チリと左派の大統領が引き続き誕生しているそうだ。

中米にはそもそも自由主義的な経済繁栄がもたらされることはなかった。さらに南米でも資本主義・自由主義に対する懐疑が広がる。するとバイデン大統領の移民抑止政策や石油調達プランも中南米の協力が得られず国内世論を納得させられる成果が挙げられなくなるだろう。資本主義・自由主義の枠組みを十分に固めてこなかったことが国内政治を不安定化させてしまい、それがアメリカの国際的な地位を低下させてしまうのである。

Bloombergはペトロ氏は石油・石炭からの段階的な脱却という計画を打ち出して投資家の不信感を招いていると書いている。また、大地主への課税(これが生産性の低い土地に対する増税の正体なのだろう)石油探査ライセンスの付与停止、反米的なベネズエラとの関係改善などの不安要素を列挙している。また輸入関税を通じて農民と産業の保護をしようとしている点も「自由主義貿易に反する」と考えているようだ。

アメリカが指導力を失い自由貿易が妨げられることは貿易立国の日本にとってはあまりいいニュースではない。つまりコロンビアの「左派政権誕生」は単にゲリラ出身の大統領が誕生したというニュース以上に自由主義陣営にとっては深刻なニュースと言えるのではないかと思う。

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