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ソロスする? 中央銀行に挑戦する人々とその対抗策

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FOMCは週明けからの予想通り0.75ポイントの金利上昇ということになった。FRBはあくまでもインフレ対策を優先する構えであり強いメッセージを発信した格好だ。日本ではこれを受けて1ドル140円を指摘する声も出始めている。だがドル円市場が直線的に円安に動くことはなかった。臨時の欧州中央銀行(ECB)理事会が開催されることが決まりドルの独歩高がなくなりそうだという観測が出ているからである。ヨーロッパではもう一つ重要な動きがある。投機的な国債売買を防ぐための「新ツール」の開発である。この発表により市場から挑戦を受けていたイタリアの国債の利率は落ち着きを取り戻したそうだ。ブルーベイが日銀にたいして「ソロスのような」戦いを挑む一方でヨーロッパECBは入念に対策を取ろうとしている。

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かなり変動の多い数日だったので中央銀行の発表に一喜一憂したという人が多かったのではないかと思う。

まず週明けからFOMCが0.75ポイントの利上げをするのではないかという観測が出始めニューヨークの株式が売られた。蓋を開けて見るとFOMCは実際に0.75ポイントの利上げを決めた。

投資家を除く一般の人々の関心はドル円相場にあるだろう。つまり円安が進みすぎると物価高に拍車がかかるのではないかと恐れる人が多い。実際にこのままでは「円も140円代まで下落するのではないか?」と予想する人がでてきた。ロイターはJPモルガンのストラテジストの声を伝えている。

だがドル円が直線的に下落することはなかった。ロイターは次のように説明している。

  • 市場では日銀のイールドカーブコントロール(YCC)の修正観測が高まっており、債券相場の急落も相まって円買いにつながっている。
  • きょうの米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果を見極めたいとして様子見ムードも強く、持ち高調整の動きもみられた。
  • ユーロ/ドルは1.0462/66ドル付近。ECBが臨時の理事会を開催し市場の現状を協議すると明らかになり、ユーロ買いが強まった。

市場が「日本銀行のYCCはもう持たないだろう」と考えているという指摘は今後の日本の財政を考える上で極めて重要である。

と同時にヨーロッパの動きにも注目したい。アメリカの金融市場がFRBの発言に一喜一憂し激しく動いている点を憂慮しているのだろう。ヨーロッパはアメリカの状況をにらみ様々な対応策を協議している。

市場がパニックに近い反応を見せるようになると「パニックを狙って一旗あげよう」という人たちが出てくる。様々な隙間に挑戦し利益を得ようとする動きである。彼らが成功すれば勇者となり失敗すれば愚者と呼ばれるだろうが、自分たちで取れるリスクを取り巨利を上げようとする。

日本の関係者の間ではブルーベイというヘッジファンドが「日本銀行の屈服を狙っている」というニュースが評判になった。Bloombergは「日銀が屈するまで日本国債をショート-ヘッジファンドのブルーベイ」とかなりショッキングなタイトルでこれを伝えている。

このニュースを受けて「いよいよ日本経済崩壊」と断じる人もいれば一つのファンドが中央銀行に挑戦してもそれは無謀な挑戦でしかないと冷ややかな見方をする人もいる。

中にはこれを「ソロス氏の挑戦」になぞらえる人もでてきた。つまりブルーベイは「ソロス」しているというわけだ。従来より日本銀行の政策に懐疑的だった藤巻健史氏は「ついに出て来たか」というTweetを出した。氏によればファンド側には「低リスク」な勝負なのだという。

一方でイタリアの国債もかなり荒っぽい動きを見せていたそうだ。だがこちらはECBが早速対応策を発表したため落ち着きを取り戻したという。Bloombergが「ECB、国債利回りの不適切な上昇に対応する新ツール開発を指示」と伝えている。10年余りで初の利上げを前にした市場の緊張に対処するための措置という位置付けだという。ヨーロッパもインフレ対策を迫られているが当然アメリカのような市場の反発やリセッション不安にも対応しなければならない。このためアメリカの状況を研究しつつ準備を進めているのである。

ここからわかることは「国債に対する挑戦」はかなり広く行われており今後も行われる可能性があるということである。そして中央銀行が実効性のある対応策を講じれは金融市場は撤退する。つまり、日本銀行も市場を納得させることができるような実効性のある対応策を即座に講じるべきタイミングに来ているということが言えるのかもしれない。もちろん日本政府も「日銀に期待」するだけでは不十分だ。だが官房長官は「期待を滲ませるだけ」で従来通りの発言に終始している。これはやや不安の残る発言だ。

冒頭のロイターの記事に戻ると市場は「各国中央銀行が利上げに踏み切る中従来通りのYCCコントロールを続けることはもはや不可能であろう」と予想しているようだ。日本円の直線的な下落が起こらないのはそのためである。日銀の政策決定会合は金曜日まで行われその後対応策が発表されるはずである。財務省と日銀は連絡を取り合っているはずだが、十分な対策が取られるように期待するばかりだ。

これを書いている現在のドル円レートは少し忙しい展開だった。FOMCの発表を受けて一旦円下落に向かって大きく動いたもののその後は円高方向に転じた。とはいえ直線的に円が上がるわけではなく「一進一退」の動きを繰り返している。

株式市場も債券市場も「逃げ場がない」とされるなか市場は様々な挑戦をしつついかにして利益を得るかを模索しているのかもしれない。

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