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金利の「黒田防衛線」突破と財務省の新しい評価会議

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昨日の午後のTwitterは円安と株価下落で大いに荒れていた。FOMCを前にした慌ただしい動きだ。日経新聞は「日本売り」という記事を出しそれを引き合いにTwitterで騒いでいる議員もいた。その裏であまり注目されなかったニュースがある。それが金利の0.255%ラインの突破である。合理的な動きではなく関係者はその意図を測りかねているようだ。しばらくすれば解説記事が出るのではないかと期待していたのだが今のところ何が起きているのかは不明だ。そんな中、財務省が「日銀依存を改めるため新しい有識者会議を立ち上げた」というニュースが出ていた。いよいよ氷山が動き出したようである。

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もともとこの記事のタイトルは「黒田ライン突破」にしようと思っていた。だが「黒田ライン」という言葉はドル円相場125円を指すようだ。このラインはすでに突破されており回復の見込みはない。重複を避けるために便宜的に「黒田防衛線」としたが今の所そのような用語はない。

日銀は長期金利を低く抑えている。これは政府を財政面から支えるアベノミクスの一環だが、「実質的な財政ファイナンス」と呼ぶ人もいる。日銀がいくらでも高値・低金利で国債を買ってくれるため多くの金融機関がこのオペレーションに応じてきた。

だがこの防衛戦が突破された。ロイターは戸惑う関係者の声を伝えている。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の稲留克俊シニア債券ストラテジストは「日銀が毎日0.25%でいくらでも買うと言っている中、理屈が成り立たない」としたうえで、「何らかの理由により、損得を度外視してでもどうしても国債をきょう売らなくてはいけない人がいたのではないか」と推測している。

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経済について素人が憶測してもろくなことにはならない。このため関係者の解説を待っていたのだが合理的な説明をする人は出てきていない。関係者が「理屈が成り立たない」と言っているのだから、おそらくはこの「わからない」ということが重要なのだろうと感じた。

7月に日銀の政策委員に就任する高田創さんは以前から「日銀と金融機関のコミュニケーション」を問題にしてきた。こうした外部の心配をよそに黒田総裁は様々な手段でこのコミュニケーションを無効化した。これは金利を安定させ国債発行を容易にするという意味では政府にとって恩恵になっている。と同時に金融市場が今何を考えているのかということがわからなくなった。つまり経済のバロメータとしての機能が失われているのだ。日銀自身もオペレーションの実施自体がシグナルになると困ると発言しコミュニケーションを拒否しているような状態だ。

このため今回の金利上昇は一時的かつ僅かものであっても人々を動揺させる。様々な憶測が飛び交っている。「日本売り円安」と絡めて末期症状だとつぶやく人もいれば、日経新聞の記者のように「あえて表で揺さぶる動き」を疑う人もいる。

このTweetは正確には円安について言及しているのだが長期金利の抑制と関連づけられている。

一方でただ単に「面倒なオペレーションに応じなくても構わない」という人が出てきただけなのかもしれない。日本円が急激に減価するとなれば手っ取り早く国債を売ってもっと金利が高い債権なり金融商品に乗り換えた方が得だと感じる人が出てきてもおかしくはない。

かなり騒ぎが大きくなっているようなので「一旦落ち着こう」と考えて様々な記事を検索した。中で財務省が新しい有識者会議を作ったというニュースを見つけた。日銀に代わって現在のリスク評価をやろうという若手の集まりなのだそうだ。

新たな「国の債務管理に関する研究会」は早大の小枝淳子教授ら5人で構成する。金融論などの先端研究に携わる40代の若手学者らを登用した。

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若手(といっても40代中心だそうだが)によるこれまでとは違った斬新な提言が聞けるのかもしれない。

記事を読むと「次の国債を発行するにあたり金利をどう設定すべきか」という問題について財務省独自で精査する機能を持っているようだ。黒田手法は金利をあらかじめ決めておいて何が何でもそのラインに収めておくという手法がとられているのだが、それを改めようということなのだろう。日銀はアベノミクス配下では一定の役割を果たしてきたがそれなりの副作用も出てきたためにそれに対処しようという動きに見える。つまり岸田政権は密かにアベノミクスからの離脱を考えていることになる。

リスクへの対処法の1つが、管理手法の高度化だ。米財務省に国債発行を助言する国債発行諮問委員会(TBAC)はマクロ計量経済モデルを使って今後20年の経済変数やイールドカーブ(利回り曲線)をランダムに生成し、利払い費と上振れのリスクを試算する。こうした事例について日本の財務省も研究会で議論を深め、可能なものから毎年の国債発行に採り入れる構えだ。

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いずれにせよ、黒田日銀総裁に頼って国債を発行しやすい環境を作り「いくらでも借金ができる」と政権が主張していた時代は終わりを迎えつつあるようだ。

岸田総理は決算委員会でも防衛費の財源を明らかにしなかった。おそらくこうした財源の積み上げ評価が出てくるまで全体像が示せないということなのだろう。

だが参議院選挙を控える現在岸田政権は安倍元総理などに配慮しアベノミクスの否定は極力控えている。このため少なくとも選挙の結果が出るまではこうした新しい試みがあまり表向きに宣伝されることはなさそうである。このことが不透明さを生み「岸田総理は何もしていない」とか「岸田インフレだ」という批判の原因になっている。

いずれにせよ事態が動き出しているのだからあまり時間的余裕はないように思える。政権の新たな取り組みがどれくらいの時間で立ち上がり実際に機能し始めるのかという点に注目したい。

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