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カリフォルニア・エクソダス(The Great California Exodus)

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アメリカは憧れの国だという印象がある。特に気候の良いカリフォルニアはアメリカの中でも憧れの土地だ。高度先進技術者がベイエリアにあつまるだけでなく中米からの格安の労働力も惹きつけられる。カリフォルニアにはアメリカ的な機会が溢れている。だが、そんなカリフォルニアで全く逆の現象が起きていると指摘する人たちがいる。これをカリフォルニア・エクソダス(カリフォルニア脱走)という。中にはGreatをつけて「大脱走」と呼ぶ人もいる。カリフォルニア州にはもう住めないという人たちがあらわれているのだ。CNBCが特集をだしている。

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主な問題意識は「なぜ人々が流出しているのか」という点だ。またこれが長く続くのかという問題もある。だが、そもそも本当にそんなことが起きているのかと疑問を呈する人までいる。

CNBCの記事は抑制的だ。だが最近のアメリカの物価高を知っている人はこのニュースから様々な情報を読み取りたくなるだろう。民主党に批判的な人ならなおさらである。

2021年には360,000人がカリフォルニアを去った。これをカリフォルニア大脱出と呼ぶ人もいる。多くの人はテキサス・アリゾナ・ワシントン州などアメリカの他の州に移住する。だが最近は別の動きも見られる。国境を越えてメキシコに移住する人がいるのだという。あえてメキシコに脱出というのがニュースのキモになっている。何かとんでもないことが起きている印象になる。

好意的に見ればリモートワークが一般化したことで選択肢の自由度が増したと捉えることはできる。日本でもよくみられるワーケーションの一環というわけである。つまり、アメリカの働き方改革が「選択肢を増やしている」と見做すことができるわけだ。

ただし民主党の政策に批判的な人はこの動きを否定的に見ている。アメリカの物価の上がり方が激しすぎるためにカリフォルニアを出ていかなければならないという人がいる。特に住宅費の値上がりは人々が許容できる範囲を超えている。インフレそのものは民主党政権のせいではないのだろうが、このインフレを放置している民主党は無能であると言いたい人はたくさんいる。自分自身の暮らしが維持できずよそに移った人ならなおさらそう言いたくなるだろう。

カリフォルニア州の最低最賃は15ドルだがメキシコの最低日給は約8ドルほどだ。アメリカで稼ぐことができる人はメキシコで生活すれば約二倍の豊かさで生活をすることができる。またアメリカの医療費はかなり高騰しているがメキシコではそれよりはマシな支払いで医療を受けることもできる。住宅費の他にもメキシコで暮らすメリットはたくさんある。

メキシコ側は今のところこの動きを好意的に受け止めているようだ。

カリフォルニアからの移住者が増えることによりバハ・カリフォルニア州の住宅価格は上がる。さらにアメリカ人向けの経済が過熱することで他の地域のサプライチェーンにマイナスの影響が出る。需要が特定地域に吸い取られると残りの地域の供給が制限されるのである。

このようなデメリットを上回るメリットもある。アメリカ人がアメリカで稼いだ金をメキシコで使ってくれることで地元経済が潤うという効果がある。またアメリカからの移住者が増えることによりその地域の治安が安定しアメリカ人が暮らしやすくなる水準の地域が生まれるという効果もあるようだ。つまりアメリカからの移住者は投資を携えてやってくるのだ。

では、このカリフォルニア大脱出は永続的なトレンドなのだろうか。この辺りからやや政治性を帯びてくる。もともとCaliforina Exodusは高額の税金を嫌う企業がカリフォルニアを脱出する現象に用いられていた。仕事の流出は政治的な失敗を意味する。現在の州知事はギャビン・ニューサムという民主党系の知事である。その前のジェリー・ブラウン知事も民主党だった。このため民主党の政治を批判したい人にとってはうってつけの宣伝材料になる。

CNBCの別のYouTubeフッテージは企業からの脱出について次のように説明している。カリフォルニアの経済規模は国に直すと日本とドイツに次いで世界第5位になる。またベンチャーキャピタルの投資も盛んだ。スタンフォード大学に代表される優秀な学生がシリコンバレーに揃っており経済を牽引してきた。だが、いったん企業が軌道にのるとカリフォルニアを脱出する傾向も出てきた。主な流出先はテキサスだったが最近は西海岸の多くの地域に広がっている。カリフォルニアの環境を意識した先進的な政策は意識が高い住民からは支持されるが、企業からは「ビジネス・アンフレンドリーだ」とみなされている。

これが従来語られてきたカリフォルニア脱出だった。

現在の様子はこれまで以上に複雑である。カリフォルニアは依然多くの移民を引きつける。単に豊かな生活を求めてやってくる人もいれば先進的な職場がカリフォルニア(特にベイエリア)にしかないという人もいる。一方で中間層の人たちは高いインフレで生活が成り立たなくなりカリフォルニアからの脱出を余儀なくされる。CNBCが紹介する調査では53%のカリフォルニア州の住民がカリフォルニアを離れることを検討しているという。ミレニアム世代だとその割合は63%になるそうだ。若い人に機会がなくなるというのは先進国ではよく見られる現象だ。特に優秀な移民に押しやられるという意味では政情不安定化の要因になることもあるだろう。

このようにカリフォルニア州をめぐる人の出入りは忙しい回転ドアのような状態になっている。

「リベラルな民主党の政策は人々のためにならない」と思われたくない。このため「カリフォルニア大脱出などあり得ない」と現象そのものを否定する人も多いようだ。

例えば、質問サイトのQuoraでは日本では全く話題にならないカリフォルニア大脱出についての議論がかなり盛り上がっている。ある質問には80件以上の回答がついておりかなり大盛況だ。カリフォルニアで暮らしを立てられなくなった人は「何もかも民主党のせいだ」として事態を誇張する傾向がある。一方「統計的にカリフォルニアは人口が伸びているのだからカリフォルニア大脱出など単なるたわごとである」と断定的に説明する人もいる。どちらも高い評価を得ていることから二極化の傾向を見て取ることはさほど難しくない。

また「みんながカリフォルニアを離れていますか」という別の質問にも289件の回答がついている。カリフォルニアに嫉妬している人が言っているだけという人もいれば住宅費の高騰を嘆く声もある。

つまり統計的に情報を見ても全体像がわからず、かといって人に聞いてもそれぞれ両極端な意見が戻ってくるだけで実際には何がおきているのかはよくわからない。

いずれにせよ「経済的に豊かになること」が必ずしも良いことばかりではないということがわかる。人々がリベラルで意識が高い生活を求めれば求めるほど脱落者も出てしまうという皮肉な事態がカリフォルニアでは起きているようだ。

カリフォルニア州が連邦にとどまる限りこうした先進的な政策が全て許容されることはない。一部の政策は連邦やアメリカ合衆国憲法の制限を受ける。高度先進移民と低賃金労働者をバランスよく惹きつけることに成功してきたかに見えるカリフォルニア州だが「先進地域」としてカリフォルニア州特有の問題に悩まされている。

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