時事通信が「米FRB、大幅追加利上げへ インフレ抑制で引き締め急ぐ―14、15日に金融政策会合」という記事を出している。ヘッドラインだけを読むと0.75ポイントの利上げに向けて動き出したように読めるというなかなか人騒がせな記事である。来週どうなるのかとヤキモキしている人は多いだろうからここから結論を読み取ろうとする人も多いに違いない。
記事は利率こそ書いていないものの「追加の大幅利上げに踏み切ることが確実視されている」と断定的に書かれている。だが、結論を下すのはまだ時期尚早だろう。15日の発表には注目すべきだろうが追加利上げには大きな副作用があり軽々に踏み切るわけにもいかないという事情もある。
なお当初タイトルを「緊急会合」としていたが通常の政策会合(FOMC)だ。すでにブログ側がのタイトルは修正したがフィードの修正が行われないものもあるかもしれない。お詫びして訂正させていただく。
市場は今の所0.5ポイントの利上げが9月まで続くことを織り込んでいる。Bloombergの記事から正確にきちんと書くと次のような表現になる。
いずれにせよ、どの見方もパウエル議長が示唆した目標への到達が近いとは捉えていないようだ。議長がすでに示唆している6、7両月の0.5ポイント利上げに加え、9月の0.5ポイント利上げも金利先物に織り込まれており、政策金利が年内に3%を上回るとの見方が優勢だ。
パウエル議長「明確」の意味、PCEコア価格の前月比上昇率-調査
つまり、このラインが維持されれば金融市場には大きな影響はなさそうだ。このシナリオから外れて時事通信がいう「追加」があれば市場が動くことになるだろう。15日の注目ポイントはその辺りになりそうである。
週末のロイターやBloombergの記事を読む限りFRBが0.75ポイントに踏み切るのかは微妙な情勢だ。パウエル議長が強すぎるブレーキを踏めばボルカー・ショックのようなことが起こりかねないからである。これでリセッション入りということになれば批判の矛先はパウエル議長だけでは収まらなくなりそうだ。ロイターやBloombergは金融市場関係者に読者が多いからなのか「牽制する声」を多く伝えており、しばらくは従来シナリオで動くのではないかと読み取れる内容になっている。
一方そうした事情をあまり忖度しない時事通信は「もっとも、FRBの積極利上げにより、米経済が景気後退に陥るとの懸念も根強い」と金融市場の懸念を「従」の扱いにしている。記事の構成としてはリセッション不安はあるが物価上昇があまりにも急なために「追加利上げを発表するだろう」と読み取れる構成だ。ただし予言的記事を書くわけにはいかないため、ダイモン最高経営責任者のハリケーン発言などを引き合いに出してバランスを取っているのだ。
つまりBloombergとロイターを読んでいる人と時事通信のこの記事だけを読んだ人では印象が全く変わってしまう。文章の主従関係が逆になっているからだ。
ここまで書くと「結局どっちなんだ?」と感じる人も多いだろう。例えば「パウエル議長「明確」の意味、PCEコア価格の前月比上昇率-調査」というBloombergの記事を読んだ人はよく内容がわからなかったはずである。記事には単にFRBが目標を達成したと考えている人はいないと書かれているだけで、パウエル議長が今後どんな判断を下すのかということは書かれていないからだ。
今の所はどちらに転ぶかわからないため派手な動きは控えてどちらに転んでもすぐさま行動が起こせるように準備を整えておくべきだということしか言えない。それくらい不確実な情勢になっているというのが現状である。少なくとも「緊急会合をやる」というニュースでドル円相場が急に反応するというようなことは起こらなかった。
パウエル議長の今後の意思決定を占う上で重要なのがバイデン大統領のコメントである。大統領はインフレ容認発言をしている。発言場所は批判者が少ない民主党のイベントで発言内容は「われわれはしばらく、このインフレと付き合っていくことになる。徐々に下がっていくだろうが、しばらくは付き合っていくことになる」である。
共和党と対立する議会で有効な対策を打ち出すことは難しい。とはいえFRBの金融政策もあまり効果は出ていない。そのため「インフレはしばらく続きますよ」と言っているのである。
パウエル議長が政治から「今すぐなんとかしろ」と急かされることはなかったわけで、それだけ時間的な余裕は残されていると解釈することができる。