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理由がよくわからないまま進む円安と広がらない野党の「岸田インフレ」批判

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アメリカで特別なイベントがなかったにも関わらず再び円安が進んでいる。きっかけはオーストラリアの予想外の利上げだったようだが因果関係はよくわからない。ECBも利上げを決めたため黒田日銀が取り残された形になっている。野党はこれを岸田インフレと名付け政権批判につなげたいのだが世論の支持は得られていない。単なるレッテル貼りに意味がないことに人々が気づいているのだろう。いずれにせよ円安が進めば国民生活が苦しくなることは確かである。賃金の上昇なしには悲惨なことになると警鐘を鳴らす人もいれば、「政府には打つ手はなさそうだから円安に慣れるべきだ」と主張するエコノミストもいる。

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円安が進んでいる。一旦は128円台で落ち着いていたがこれといったイベントもないのに再び134円台まで下落した。こうなると後付けで「円高に振れる要因がない」といった記事が出る。日経新聞も「三つの制約がある」などと書いている。読売新聞も「円安進行、20年ぶり1ドル=134円台…黒田総裁の「緩和継続」強調が拍車」などと書いているのだが、黒田総裁は以前から緩和継続を主張し続けており目新しい材料はない。どちらも「実はよくわからない」ということなのだろう。

きっかけになったタイミングではオーストラリアの予想外の利上げというニュースがあった。また最近になってECBが7月に11年ぶりの利上げに踏み切るというニュースも出た。こうなると黒田日銀だけが利上げ政策に踏み切っていないということになるわけで、当然円がターゲットになる。つまり「黒田円安」という図式になっている。

これといった選挙用の目玉がない立憲民主党・社民党・共産党の野党は黒田総裁=アベノミクスという印象をつけてアベノミクス批判につなげたい。インフレも「岸田インフレ」と命名し内閣不信任案を提出したが世論からの共感は得られず儀式的に否決されて終わってしまった。本来なら状況を冷静に観察した上で対応策を提案して欲しいところだが、立憲民主党は単にレッテル貼り・印象操作をしているだけにしかみえない。

とはいえ岸田政権も国民は印象でしか動かないと感じているようである。黒田批判が政権批判んい延焼しないようにと警戒感を強めており、様々な対策メニューを掲げてイメージの払拭に努めたい考えのようだ。時事通信は「物価高対策、参院選争点に 政府・与党、「岸田インフレ論」警戒」という記事を出している。

与野党共「国民は難しいことはわからないが風評で大きく騒ぐ」という認識を持っているのだろう。この物価高の要因を解消しようという動きは見られず、風評対策に終始している。とはいえ選挙が近いことから、当面実質的な物価高対策は行われないものと思われる。選挙は順当にゆけば6月22日に公示され7月10日に投開票となる見込みだ。

いずれにせよ与野党ともに「国債をもっと発行して財政を支えよ」ということになっており日本銀行は利上げができない。利上げしてしまうと新規国債発行が難しくなる。短期国債を借り換えて綱渡りしているような状態だとすれば利払い費がかさみ財政はかなり厳しいものになるだろう。つまり物価高の風評対策を熱心にやればやるほど円安を容認するという皮肉な図式も生まれている。

財源がどうなるかは見通せない。さらに国債を発行せよということになるのかもしれないし金融資産課税のような新たな増税案が浮上するかもしれない。

岸田政権の政権公約集となる「骨太の方針」についてTBSは「岸田政権初の「骨太方針」が決定 防衛力5年以内に抜本的に強化 財源は示さず」と書いている。政権としては財政再建の道筋をつけたかったがロイターが政高党低と呼ぶように自民党重鎮からの圧力が強く財政支出を強調した政権公約集となった。

対する野党も「財政再建」は訴えられない。国民がさらなる支出を期待しているからである。国民民主党のように教育国債の発行を訴えるところもある。だから野党の側も根本的な治療方針が示せずレッテル貼りのような攻撃しかできないのだ。

ただ、野党がわかっていてレッテル貼りをしているのかそうでないのかはよくわからない。ごまかしているだけなら緊急時に退避行動が取れる。だが本当に理解していないとすると運転席で誰もハンドルを握っていないバスに乗車していることになる。与野党の議論を見ているとどうも誰かがハンドルを握っているように思えないのだ。だがバスはかなり悪い道を走っているようだ。

ロイターには次のような一節で始まるコラムを掲載している。

今後、賃金や消費の伸びが3%を上回らないと実質値はマイナスを続け、物価上昇の打撃の大きさを多くの国民に知らしめることになるだろう。

つまり誰かが賃金上昇を積極的に主導しなければこの先「大打撃」が来るといっている。

このコラムが心配しているのは「十分に貯蓄ができなかった階層」の広がりである。黒田仮説は「家計」を一般化している。つまり富裕な家計もそうでない家計も含まれている。だが実際には富裕な家計が貯蓄をしているだけでそれが富裕でない家計に行き渡っていない可能性がある。

同じような兆候は日経新聞も掴んでいる。株価は「脱デフレ」を期待して動いているそうだ。値上げ容認が広がると適正価格化は進めやすくなる。そこで投資家は企業業績が上向くと期待しているのだそうだ。だがこれは一部上場企業の話である。地方や中小がこれに追いつける保証はない。

つまり黒田発言は「一部の富裕な人たち」の事象を補足しているだけということになる。政府の再配分機能が損なわれ国全体としてはいい兆しが見えているものの数としては多数派の国民にその恩恵が伝わっていないという世界だ。風評対策に終始する政府与野党ともに冷静な分析はしていないので実態がどうなっているかは全くわからない。

本来は野党の側が「ここは冷静になって格差の広がりについて確認しよう」というべきなのだろうが、そうした兆候は見られない。

Bloombergの記事を読むと鈴木財務大臣にも打ち手がなく「もう円安は仕方ないから円安を活かした経済活性を模索すべきだ」とする識者の声が見つかった。

  • 第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、現在のような構造的に円安が進みやすい局面では「円安環境を生かした成長戦略」が重要だと語る。コロナ前と現在を比べると物価を加味した日本円の為替レートは20%超も安くなっているとし、インバウンドの受け入れ再開は「観光・消費を輸入するという観点で、最も目に見える円安メリットだ」とした。
  • UBS証券の足立正道エコノミストは円安の「うまい使い方をする必要がある」と指摘。輸出企業が設備・人的投資を行い、日本が「構造改革をしていくことが必要だ」と話した。

冷静な議論が行われないまま選挙に突入してしまうと国民は「ありのまま」を受け入れるしかない。円安を容認して観光業で食って行けというのはいかにもやぶれかぶれだがもうエコノミスト達もそういうしかないという感じなのかもしれない。

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