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フィリピン大使が業界団体に値上げ要請:フィリピン産バナナは値上げされるのか?

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読売新聞の「フィリピン政府が小売通業界にバナナの値上げを直談判をする」という記事を読んだ。様々なものが物価上昇してゆくのにバナナまで値上げされては困る!と考えて記事を探したのだがどうもよくわからない。日本の小売流通が「はいそうですか」と値上げに応じてくれそうな理由も見つからなかった。読売新聞は業界団体のレスポンスは書いていない。のちにフィリピン大使が記者会見を開き値上げの必要性を訴えた。流通大手は店頭にポスターを貼り「値上げの必要性を消費者に説明する」と約束したそうだ。

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全てのバナナが強制的に値上げになればおそらくバナナ好きは買ってゆくのだろうと思う。だが多くの「バナナがそれほど好きではない」人はおそらくバナナを買うのをやめるだろう。そもそもポスターだけ貼って値上げはしないかもしれない。全ては大手小売次第だと感じた。

まず背景を調べようと思ったのだがフィリピンの媒体では全く報道されていないようである。かろうじてビジネス・ミラーという新聞社が記事を書いているのを見つけた。輸入業者がフィリピン政府に対して価格交渉を要請していた。生産コストが値上がりしているため何とかして欲しいと訴えたのだ。業者としては当然の要望だといえる。その後フィリピンでは大統領選挙があり政権が変わっている。

この事実自体がフィリピンの業者の置かれている立場の弱さを物語っている。供給者と客(小売・卸)では客の方が圧倒的に支配力が強く供給者がなかなか値上げを言い出せないということになる。フィリピンバナナ育成者輸入業者協会(PBGEA)のホセ・I.C.ラクイアン氏は協会の価格交渉力が弱いためにフィリピン政府に協力を依頼したこということになる。大使はその業界の声に押される形で今回の記者会見を開いたのだろう。

もともとフィリピンのバナナ栽培は病気に悩まされてきたそうだがそれに加えて最近では新型コロナ関連の状況にも苦慮している。輸送費が上がりラテンアメリカや東南アジア諸国のバナナもライバルになりつつあるそうだ。ラテンアメリカでは国がバックアップして価格競争力をつけるための手助けをしているとPBGEAは主張する。

NHKがバナナの病気について書いている。バナナの病気は新パナマ病というそうだ。パナマ病で壊滅したグロス・ミシェルという品種を代替したキャベンディッシュ種に広がっているという。バナナには種がないため交配による遺伝子の多様化ができない。遺伝的に一様な環境に病害が広がると一気に拡大するのだという。つまりバナナ農家は以前からかなり苦しい状態に置かれていた。

ではこうした状況にも関わらず日本でバナナの価格が安定しているのはどうしてなのだろうか。日本でバナナを買っているのは大手流通である。つまり買い手側の価格競争力が極めて強いのだ。このためバナナは「価格の優等生」としてチラシの華の扱いになっている。さらにバナナは青いままで輸入され「追熟」という工程が必要になる。この追熟工程は日本側で行われるためフィリピンのバナナ農家は日本国内の追熟業者とも競争する必要がある。

フィリピン政府が介入した程度でこうした基本的条件が変わるとも思えない。あとは小売業界の善意と理解に依存するしかない状況だ。

では日本の消費者は値上げに対してどのような姿勢を持っているのか。これがわかる事件があった。日銀の黒田総裁がうっかり「家計は値上げ容認」と発言した。普段、黒田総裁の発言に注目するのは金融市場関係者や投資家だけなのだが、この時は女性週刊誌の報道などをきっかけに世間が色めき立ち黒田総裁は発言撤回に追い込まれた。日本では値上げは絶対悪のような扱いを受けている。黒田さんでさえこうだったのだから選挙を控えている上に「公人度」が高い政治家は「適正価格化」のためにどんどん値上げすべきだなどと言えば袋叩きになってしまうということを痛感させられたに違いない。給与所得が上がらないことを国民は渋々受け入れているが納得しているわけではないのだ。

確かに市場全体が値上げ基調になれば「適正価格化」のための値上げもやりやすくなる。だがこのような状況を見ると「適正価格化」であっても便乗値上げとみなされるためバナナの価格の引き上げは難しそうだ。

なお価格が低く抑えられることは消費者にとってはいいことだがフェアトレードの観点からはかなり問題があるようだ。エシカルバナナで検索すると「零細業者が搾取されている」とか「日本では使えないような農薬が散布されている」など様々な情報が出てくる。小売流通業者はこうした問題のあるバナナは扱わないと宣言しているそうだが、実際には抜け穴もあるようだと指摘する記事も見つかった。

最近のSDGs流行りを受けて各社ともに「フェアトレード対応」を唄うことが多くなった。例えばイオンもフェアトレードの特設ページを作っている。だがバナナはその中には含まれていないようだ。ローソンが環境に配慮したバナナをエクアドルから輸入して売っている。価格は1本100円であり、廉価品のおよそ3倍の値段になっている。バナナの価格適正化と言ってもSDGsの箱の中に封じ込まれ「一部の余裕のある人の善意に頼る」という状態になってしまうのかもしれない。

ロイターの英語版は「Philippine banana growers plead for Japanese consumers to bear price hikes」と今回の件を紹介している。Japanese households on average spend 4,387 yen ($32.92) on bananas a year, more than any other fruit, according to data from the agriculture ministry.という項目がある。日本の家庭は平均で年間4387円分のバナナを買っていてこれは全ての果物の中で一番高いそうだ。つまり日本人は金額ベースでは他の果物よりもバナナを好んで食べていることになる。

いずれにせよしばらくしてポスターを見かけたら「ああこれだったのか」ということになるのかもしれない。小売業の対応に注目したい。

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