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政府は消費税をたくさん取って予算を確保したものの実は使いきれなかったようだ

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最近「人々の生活に余裕がない」というような記事ばかり見ていたので、東洋経済のこの記事を読んだ時には驚いた。実は日本政府の税収はかなり好調だったというのだ。好調の理由は消費税増税だ。にも関わらず政府は集めたお金を効果的に使えていない。予算の執行率はかなり低いようである。つまり、政府はたくさんのお金を集めて来たが使えていないということになる。結果的に借金が返せるのではと記事は結論づけられている。本当にそれでいいのだろうか?と感じた。以下少し丁寧に記事を読んでゆきたい。

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今回は土居 丈朗慶應義塾大学経済学部教授が書いた東洋経済の記事をご紹介する。まず注目したのはこの一節である。消費税の是非については別の記事にまとめたのでここでは触れない。

もう1つの注目点は、税収である。コロナ禍でありながら、消費税率を10%に引き上げたこともあって、一般会計税収は過去最高を更新している。2020年度決算では、バブル景気末期の1990年度の税収60.1兆円を超えて、60.8兆円となり過去最高を記録した。さらに、2021年度の補正予算後の税収見込みは63.9兆円としており、過去最高を更新することが確実視されている。しかも、決算段階での税収は、この過去最高を想定している補正後予算の税収見込みよりもさらに増えるという予想が出ている。

「骨太方針」で財政健全化は骨抜きにされたのか

政府も色々と考えてお金を集めているのであろうからこれだけで政府を批判するのは筋違いである。きちんと使ってくれていればいい。だが土居教授は「ちゃんと使えていない」という。

こうみると、2021年度も2020年度と似ており、結局のところ予算をてんこ盛りにしたが使い切れず、2年連続で数十兆円規模の繰越か不用(使わず予算執行を取りやめる)かのどちらかが生じることが見込まれる。

「骨太方針」で財政健全化は骨抜きにされたのか

つまりせっかく集めて来たものの使えていないということになる。ただ土居教授の話を鵜呑みにするのも良くないので、実際にどう使えないのかを調べてみよう。

とにかく景気を盛り上げるためにコロナ対策をしなければならないということになったのだが2021年11月の日経新聞の記事は「未執行が3割もある」と書いている。景気刺激策は「国民がいくらかお金を出しそれに政府が助成する」というのが基本になっている。例えばGoToトラベルのように旅行に行きたくてもいけないという状態になってしまうと「プログラム全体が使えない」ということになる。この記事が書かれた時点では1兆5482億円の繰り越しが発生し未執行率は65%だったと書かれている。2021年11月に書かれているので2020年3月までの予算の執行率を見たということだ。

総括に半年もかかるのかとは思うのだが総括をしないよりはマシである。だがこの総括は無視された。反省がないままに2022年度の予算が組まれ「大型の経済対策」などと報道された。さらに選挙を控えて「これでは不十分だ」ということになり執行が開始されてから数ヶ月しか経っていないのに「大型の補正予算」が組まれた。おそらくまた使い残しが出るだろう。

ここまでの話は「執行されなかった予算」の話である。

では執行されたお金は有効に使われただろうか。民間の団体TANSAが無駄遣い統計を出している。TANSAは無駄使いを三つに分類する。

  1. 単に一般財源を置き換えたもの:主に老朽化対策などに使われている。税収が先細っているのでそれを置き換えようというものだ。
  2. 次に本来はコロナ対策とは関係ないもの:せっかく国がお金をくれるというのだからコロナにこじつけて使おうというものだ。
  3. 最後にとにかくばらまいてしまおうというもの:中にはお金ではなくお米や干し貝を配ったところもあるという

あまりにも長い間低成長が続いていたので「お金を使おう」としても使い道が思い浮かばない。だが経済が冷え込むからなんとかしなければという声がマスコミから上がってくる。そこでなんでもいいからとにかく申請しろということになった。だが実際には何に使っていいかよくわからなかったということになるだろう。

TANSAはかなり入念に調べており政府の政策について論じる上で貴重な資料になっている。最近調査報道に手を抜くようになった大手マスコミの中にはTANSAの調べ物にフリーライドしてTANSAの名前をクレジットしてくれないとTANSAは憤っている。中には「独自」と主張するコピぺ記者も現れているそうだ。もしTANSAの言い分が確かならきちんとクレジットするなりいくらかの対価を支払うべきだろう。

財政は短期国債依存に陥っているので「国にはお金が足りない」と思われているのだが、実は使い道がよくわからないという状態になっている。土居教授は「財政再建に回すべき」と言っているがこれについては様々な意見があるかもしれない。

国民が「国がお金を使ってくれるから未来も安心だ」と考えるならば「無駄でも国民に代わってばらまいてくれればいいのではないか」と思える。

政府が骨太の方針を決めた。ロイター通信は「防衛費」や「デジタル化・環境」などを名目にした支出が増やされていると書いている。名目にしているということだから実際の経済成長に寄与しなくても自分たちと関連がある業界が潤えばということを匂わせているのかもしれない。

共同通信は「安倍路線継承、分配は後退」と評価した。岸田総理の言う分配は地方への配分作なので「地方分配を削って特定の業界への分配を優先させた」と言うことだと解釈できるだろう。

国民は他に誰もいないからと言う理由で今の政権を支持している。2009年の政権交代の時のような混乱が起きては困ると言う人もいるだろう。だが政府の賃金上昇メッセージを信頼している人はあまりいないのではないかと思う。実際に、コロナ後のリベンジ消費の期待はすぐにしぼみ物価高を予想した生活防衛基調が支配的になっているようだ。消費者支出は一旦盛り上がったがまたマイナスに転じたと言う。賃金上昇なき物価高を多くの人が警戒しているためまた人々は支出を抑え込むことになりそうだ。

いずれにせよ、物価高は多くの国民をイラつかせているようで黒田総裁の「家計は物価高を容認している」との認識は攻撃され謝罪に追い込まれた。だがこれが政府の予算編成や経済対策への批判につながることはなさそうだ。どこからどう手をつけていいのかよくわからなくなっており、従って何を批判していいか誰にもわからなくなっているのだろう。

黒田さんはそこに通りかかっただけの運が悪かった人ということなのかもしれない。

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