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アメリカの中間選挙の影の主役はやはりトランプ氏だった

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アメリカでは中間選挙が進んでいる。大統領の信任投票の意味合いが強いため表側の主役はもちろんバイデン大統領である。その一方で大手マスコミは「共和党の質」を心配しているようだ。つまりトランプ元大統領の影響力がどこまであるかを気にしているのである。

トランプ元大統領が応援した現在非現職候補者の68.4%が勝利していると時事通信が伝えている。元になったワシントンポスト紙の記事で「nonincumbents(非現職)」と表現されている候補者のうち2/3が勝っているという微妙な情勢だ。これではトランプ氏の影響力がどれくらい残っているのかがよくわからない。内容を細かく見てみた。

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色々な記事が出ているのだがどれも複数の州の複数の選挙を扱っている。上院・下院の他に州知事選挙がある。そこでどういう候補者がどこで勝ちどういう候補者が負けているのかを調べてみることにした。

どうやら2/3という微妙な勝率の原因はトランプ氏の気まぐれな候補者選びにある。過去に自分に協力してくれた人を応援し自分に協力的でなかった人を追い落とそうとする敵味方志向が強いことがわかる。

仮にキングメーカーを狙って計画的に選んでいれば「さすがトランプ氏」ということになるのかもしれない。だが一部無茶苦茶な選び方をしているために思うように勝てていない。裏返せばそれほど無茶苦茶なことをやっているのにそこそこ勝ててしまうほどトランプ人気は根強いということにもなる。

ジョージア州

トランプ大統領が大統領選挙の票の数え直しを要求したとき、共和党のケンプジョージア州知事は再集計に応じただけでそれ以上の協力をしなかった。それに腹を立てたトランプ氏は対立候補(ディヴィッド・パーデュ氏)を立てた。だがパーデュ氏には票が集まらなかった。おそらくパーデュ氏が弱い候補者だったからだろう。2021年の選挙で民主党候補に負けていた。

一方上院候補者選挙はトランプ氏が推した元プロフットボール選手のウォーカー氏が勝ち上がった。つまりジョージア州でのトランプ氏の影響力はよくわからないということになる。有権者は意外と冷静に反応している。

ノースカロライナ州

ノースカロライナ州の上院選候補にトランプ氏が支持するテッド・バッド下院議員が選ばれた。だが下院候補は問題のある現職を推したために通らなかった。

下院選候補では新人のマディソン・コーソン氏(現職)がトランプ氏から支持されたにも関わらず最終候補者に残らなかった。コーソン氏は26才で最年少の議員だったのだがコカインを使う乱行パーティーに誘われたなどと話したり飛行機に銃を持ち込もうとするなどの奇行で物議を醸していたそうだ。

トランプ氏は人物に問題があろうが自分に近い人を推薦してしまう傾向があることがわかる。共和党支持者もそこまで熱烈にトランプ氏を応援していない。民主党に負けてしまっては元も子も無くなってしまうからである。

ペンシルベニア州

州知事候補にトランプ氏が支持するダグ・マストリアーノ州議会上院議員が選ばれた。ダグ・マストリアーノ氏は2020年の大統領選挙で不正があったという間違った主張を繰り返し1月6日には連邦議会に向かって行進していたそうだ。現在アメリカでは1月6日の総括が進んでいる。アメリカでは民主主義を破壊したという評価になっているためロイターは「間違った主張」と断定している。

上院議員候補もトランプ氏が推薦した医師でテレビ司会者のメフメト・オズ氏が勝利した。対立候補は「リベラルなウォール街の共和党員」として攻撃していたそうだ。一方でオズ氏は人工妊娠中絶問題でリベラル寄りの対応をしており一部の共和党員から離反されていたという。主義主張ではなくあくまでも「トランプ氏を信奉しているか」ということが候補者選びの基準になっていることがわかる。

この結果からペンシルベニア州ではトランプ氏の人気は(少なくとも共和党支持者の間では)根強いようだ。

ニューヨーク州

ここまでは「気まぐれに」候補者を選んできたように見えるトランプ氏だが。実は影響力も気にしているようだということがわかるのがニューヨーク州の知事選挙だ。

ニューヨーク州では2022年に知事選挙が行われるそうだ。現職の現職クオモ氏はコロナ対応で死亡者を少なく申告したのではないかという疑惑やセクハラスキャンダルを抱えており再選が危ぶまれている。つまり共和党には追い風が吹いているのである。

共和党からはルディ・ジュリアーニ氏の息子のアンドリュー・ジュリアーニ氏が立候補を表明しているそうだがトランプ氏はアンドリュー・ジュリアーニ氏を応援するか決めかねているとポリティコが書いている。

ルディ・ジュリアーニ氏はトランプ氏と関係が近く陣営の顧問弁護士もやっていた。本来正当と認められない人物を大統領選挙人にしようと画策したり「大統領選挙には不正があった」という主張を繰り返し弁護士資格を停止されていた。そこまでの熱烈な支援者なのだから当然息子を応援するのではないかと思える。

だがそうはなっていない。

ポリティコによるとジュリアーニ親子はマルアラーゴに出向きトランプ氏の推薦を求めたが、共和党にはゼルディン氏という対立候補がいる。トランプ氏と側近は、親密すぎるジュリアーニ氏が負けた場合「トランプ氏の影響力が落ちた」と言われかねないことを気にしている。そこで、アンドリュージュリアーニ氏を応援する、ゼルディン氏に乗る、距離を置くという3つのパターンが出ているようだ時次は憶測している。

ポリティコの記事を読むと「スキャンダルのある現職クオモ氏とトランプ前大統領のどちらが嫌いか」という争いになりかねないことがわかる。また、トランプ氏が「自分を賞賛してくれそうな」自分を選んでいるが、もう影響力がなくなった人には意外と冷たいのだということもわかる。あくまでもエンドースメントは自己愛(ナルシシズム)的合理主義に基づいた判断基準で行われている。

総括

これだけ自分勝手な振る舞いで共和党を振り回しているトランプ氏だが意外と根強い支持があるということがわかる。判断基準は「自分が大統領になった時に自己愛を満たしてくれるのか」という計算だ。感情的合理主義に基づいて候補者選定をしている。

だが熱烈な個人崇拝という域には達していないためエンドースメント(支援)があっても最終選考に残らない場合があることもわかる。二大政党制の下で「最後には民主党に勝たなければならない」という意識があるため最終的には支持者は合理的な計算をするのである。一方でトランプ大統領の自己愛的性格も支持されている。それが有権者の自己愛を満たしてくれるからだろう。自由と民主主義の擁護がおもての原理だとすれば自己愛(ナルシシズム)的合理主義がおそらくはアメリカの現在の政治の裏側にある原理だ。

いずれにせよ中間選挙はバイデン大統領という面の主役の他にトランプ氏という影の主役がいる。最終的に11月にどれくらいの勝率を収めかたによって、トランプ氏が共和党の次の大統領候補が誰になるかが決まるのだろう。

敵味方を分ける分離志向が強いバイデン大統領の時代がもう4年続くのか、あるいは自己愛的民主主義の時代がまた4年やってくるのかという違いだと言えるのかもしれない。

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