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黒田日銀総裁が「ちょっとばかり物価が上がったとしても別に心配はいらない」と主張

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おそらく新聞の見出しにはならないちょっとした記事を見つけた。黒田日銀総裁が「コロナで消費できずに貯金が貯まっているだろうからちょっとくらい物価が上がっても別に平気だ」と主張したというのだ。生活実感とは合わないために共同通信は「議論を呼びそうな発言だ」と書いているが、おそらく「ちょっとくらい騒ぎになった方がいいのでは?」と思っているのではないかと思う。

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まずはロイター通信が書いた記事を読む。実際にはこう言っている。

コロナ禍の消費抑制で積み上がった「強制貯蓄」が家計の値上げ許容度の改善につながっている可能性があり、「強制貯蓄の存在等により日本の家計が値上げを受け入れている間に、良好なマクロ経済環境をできるだけ維持し、これを来年度以降のベースアップを含めた賃金の本格上昇にいかにつなげていけるかが当面のポイントだ」とした。

緩和継続「揺るぎなく」、来年度以降の賃上げ焦点に=日銀総裁

経済に興味がある人が読む媒体なので難しめの書き方をしている。平たく言えばコロナ禍で外に出られずお金がたまっていることを「強制貯蓄」と言っている。人々はコロナでお金が溜まっているから物価高に耐えられるはずだという理屈である。この間に給料が上がれば景気の好循環が始まるのだから「全て丸く収まるのではないか」という主張をしていることになる。

確かに日銀総裁の役割は経済のベースを作ることであって賃金を上昇させる役割を担っているわけではない。賃金を上げるのは企業の社長さんの役割である。なので役割としては間違ったことを言っているわけではない。

これは共同通信の「きさらぎ会」という会合で行われた発言だ。共同通信はこれを受けてこう書いている。政治的議論が起こることを期待しているようだ。

日銀の黒田東彦総裁が6日、共同通信きさらぎ会で講演し、商品価格の引き上げが相次いでいることを背景に「家計の値上げ許容度も高まってきている」と述べた。2%の物価目標の達成を目指す上で「重要な変化と捉えることができる」と期待を込めた。食料の価格高騰に苦しむ家庭は多く、発言は議論を呼びそうだ。

日銀総裁「家計は値上げ許容」

家計の値上げ許容度も高まってきているという表現が難しい。記事全体を読み通すと、全体的に値上げ基調ができているのでちょっとばかり企業が値上げしたとしても「ああまたか」と考えて値上げを受け入れるだろうといっていることがわかる。確かにお金に余裕があり将来に楽観的な希望を持っている人であればそう感じるだろう。日銀総裁ともなればそこそこの給料をもらっているはずだ。

スーパーであれも上がったこれも上がったとなっているのだから、その中に紛れて値上げしても構わないと言っていることになる。どっちみち消費者は品物を買ってくれるのだからどんどん値上げすればいいということだ。すると企業は十分儲かるだろうから賃金にまわせばいいということを言っている。

共同通信は「多くの国民が相次ぐ値上げに悲鳴を上げている」と考えている。さらに企業が賃上げに消極的だということも知っている。このため「発言は議論を呼びそうだ」と書いているのである。ただ、議論を呼んだとしてもそれは日銀総裁の資質に関する議論ではなく「なぜ国民は苦しい生活をしているのか」とか「なぜ賃金は上がらないのか」という議論であるべきだ。

いずれにせよ普通の生活をしている人がロイター通信や共同通信を読むとはとても思えない。だから黒田総裁の発言がそれほど非難されることはないだろう。

さらに言えば黒田総裁を誰が任命したのかということもよく知られてはいないだろう。日銀総裁人事は内閣が決める。つまり政治任用なのだ。だが政府と日銀総裁を結びつけて政府の政治姿勢を問うのはかなり政治に詳しい人なのではないかと思う。もっとも政治と日銀を結び付けられる人がいたとしても黒田さんを任命したのは岸田総理ではない。

フジテレビはこの辺りを少しわかりやすく書いている。黒田総裁は自分で買い物をすることはあまりないそうだ。家計は家内が担当しているとの答弁を紹介している。ヘッドラインも好意的なものではない。黒田総裁「家計が値上げ受け入れ」 日銀トップ発言に異論続出 “買い物は基本的に家内”答弁もとなっている。確かにスーパーに買い物に行かず統計だけ見ている人に生活実感を求めるのは間違っている。だがもう少し言いようがあるのではないかという気はする。

この発言に最も強く反応したのはやはり値上げを実感している女性誌だったようだ。「日銀総裁「家計が値上げを受け入れている」発言に「世間知らず」「月給20万円で生活してみろ」と非難轟々」と書いている。ただTwitterを見た限り世間がそれほど強く反応している様子はない。「異論も続出」していないし「非難轟々」でもない。日銀総裁の発言を注目している人はそれほど多くないのかもしれないし物価高は現実として受け止められているのかもしれない。

政府・財務省もそれほど困っていない。実は消費税を上げたおかげで税収は好調だった。東洋経済の硬めの記事なうえにヘッドラインが財政健全化なのであまりこの箇所に注目した人はいないと思うのだが土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授はある記事の中でこう書いている。

もう1つの注目点は、税収である。コロナ禍でありながら、消費税率を10%に引き上げたこともあって、一般会計税収は過去最高を更新している。2020年度決算では、バブル景気末期の1990年度の税収60.1兆円を超えて、60.8兆円となり過去最高を記録した。さらに、2021年度の補正予算後の税収見込みは63.9兆円としており、過去最高を更新することが確実視されている。しかも、決算段階での税収は、この過去最高を想定している補正後予算の税収見込みよりもさらに増えるという予想が出ている。

「骨太方針」で財政健全化は骨抜きにされたのか

物価高で生活者から悲鳴が上がろうがなんらかの消費活動をして食べて行かなければならない。政府・財務省はきっちりこの辺りがわかっているので消費税をとって万全の備えをしている。だから政治の側が効果的な景気対策をやらなくても政府は困らないのである。

政府・財務省は景気がどうあろうが「黙って消費税さえきっちり収めてくれればいい」と考えているのだろう。税収が好調であればそれで構わないのだ。

さらに岸田政権の支持率は高い値をキープしている。日経新聞がそれを疑問に思い独自の分析記事を書いているくらいだ。

こうした状況を考え合わせるとこの黒田発言が共同が書いているような「政治議論」を呼ぶことはないのかもしれないと感じる。黒田総裁の任期は来年切れる。それまで悪役(ヒール)をやってもらえれば政府としても願ったり叶ったりなのだろう。黒田さんを叩いているうちにどうせ新しい人が決まる。そんな感じなのかもしれない。

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