最近アメリカの株価が元に戻った。円も若干円高気味に振れたことから「アメリカの投資家は安心しつつあるのだろう」と勝手に思っていた。だが、経済ニュースを読むと全く違うことが書かれている。規模はわからないが嵐になると言っている人がいるのだ。最初は「証券会社が保身のために勝手に言っているのだろう」と思ったのだがどうも違うようである。
詳しく読んでみると「ショックがあると言ってもらった方が備えができる。逆にソフトランディングを強調すると何か起きた時にパニックになるのではないか」と心配している人がいるようだ。この記事ではJPモルガンのCEO、ゴールドマンサックスの社長、著名投資家、銀行のCEOの発言を拾って読んでゆく。
まずBloombergの記事だ。JPモルガンのCEOのジェイミー・ダイモン氏は「投資家は経済のハリケーンに身構えるべきだ」と警告しているという。当初5月に嵐が来ると主張していたのだがその予想を更新したと説明した。JPモルガンは保守的な姿勢でこの乱気流に備えると言っている。
ロイターも同じ発言を取り上げている。こちらはさらに深刻な書き方をしている。現在誰もが「晴天が続いている」と考えているが実はハリケーンが近づいているというのだ。ただしそのハリケーンが小型なのかサンディのような大きなものになるのかはわからないという。
さらに「連邦準備理事会(FRB)は景気後退(リセッション)回避に向け、強力な措置を講じる必要がある」と主張している。FRBはバイデン政権のインフレ抑制を優先しているため株価対策は後回しにされている。
だがこの記事を読んだ時点では「なんだJPモルガンが保身のために言い訳をしているのだろう」と感じた。将来JPモルガンが投資家から責められるようなイベントが近づいているということはわかる。これについて「JPモルガンが悪い」と言われるのを恐れて「これは政府・金融当局のせいだ」と言いたいのだろうと考えたのだ。
ゴールドマン・サックス・グループのジョン・ウォルドロン社長もこの意見に同調する。世界経済を揺るがすショックが相次いでおり「この先さらに厳しい経済状態が続く」と言っている。これもBloombergの記事だ。「キャリアの中でもっとも危機的な状況の一つであり」「前代未聞だ」という表現になっておりなかなかのイベントが近づいていることがわかる。こちらも「自分たちは景気が低迷しても収益を上げられる」と言っており顧客を動揺させないようなポジションを取ろうとしているが実際に自分たちが失敗しても「それは金融政策の失敗や環境変化によるものであって自分たちのせいではない」と言い訳をすることができる。
実際に違った意見を持っている人もいる。こちらはForbsの記事である。「積極的な利上げしなければ米経済崩壊」 著名投資家アックマンが警告というタイトルがついている。こちらはタカ派政策でインフレを想起収束させなければ投資意欲は減退するだろうといっている。
JPモルガンやゴールドマンサックスと一見真逆のことを言っているように感じられるのだがどうも違うようだ。つまり、いずれにせよ何らかの急激な変化が起こることは避けられないという認識では一致していることになる。
どうやら「何かが起こるだろう」ということはアメリカの金融業界では幅広く共有された認識になっているらしい。ところが「今はまだ晴れている」と多くの人が思っているわけだ。キュ速に天気が悪化すれば人々はそれを「世界の終わり」だと誤認するかもしれない。
米金融大手ウェルズ・ファーゴ(Wファーゴ)のチャーリー・シャーフ最高経営責任者(CEO)の意見を聞くとアメリカの経済が今後経験するものの正体がさらによくわかる。
シャーフCEOはソフトランディングはほぼ不可能だと考えているようだ。つまり運転席で急ブレーキがかかるのだから何らかのショックは経験するだろうというわけだ。インフレ抑制に景気は減速する必要がある。短期間の景気後退があったとしても、それほど深いものではなく、その間に多少の痛みはあるだろうが、全体として見ればそこから皆がうまく抜け出すだろうと言っている。運転手がブレーキを踏むのだからバスは揺れる。「ショックは受けるがパニックは起こすな」と警告している。
おそらく本来こうしたメッセージを発するべきなのはバイデン大統領かイエレン財務長官だろう。あるいはFRBのパウエル議長なのかもしれない。バスの運転席に座っているのは彼らだからだ。
だが、イエレン財務長官は中間選挙を控えてネガティブなメッセージを出したくないがために「FRBが何とかするから大丈夫だ」と主張し続けている。
細かな点で意見の相違はあるもののどの関係者たちも「何か起こるだろう」と言っている。「何か起こるかもしれないが対策をとるから大丈夫だ」と言ってくれれば乗客たちは安心するだろう。だが「何もないから心配するな」ではかえって不安が広がるかもしれない。座席に座っている乗客たちには前が見えない。
前の方に座っている乗客たちは「このバスの運転手は大丈夫なのか?」と心配し始めている。Bloombergの記事によると米ユニバーサ・インベストメンツを創業したマーク・スピッツナーゲル最高投資責任者(CIO)は、金融システムには「人類史最悪のクレジットバブル」が迫っていると警告しているそうだ。一度「金融不安系」のニュースを検索すると関連記事が多く出てくる。読めば読むほど恐ろしいことが書いてあり不安な気持ちになる。誰もが「あまり考えたくないことだが」とか「起きないことを祈るが」などと言っており事態の深刻さが伺える。つまり誰も正確には何が起こるかがわからないのである。
ウェルズ・ファーゴのシャーフ氏の意見を信じるならばおそらく「嵐」について過度に恐れる必要はないのだろう。だが、なんらかのイベントには備える必要がある。これはあくまでも景気が過熱したアメリカの話であって長期的に安定・停滞した日本の話ではない。だが、アメリカ経済の影響を直接的に受ける日本の投資家たちもなんらかのイベントは覚悟しておいた方がいいのだろうと感じる。