前回は政権の骨太の方針を軸に各党の政策を比べて見た。今回は「各党は財源をどこから持ってくるつもりなのか?」について考える。政権を担当している自民党とかつて担当した人が多くいる立憲民主党は財源について明確なことは書いていない。安倍元総理とれいわ新選組は同じような提案をしている。つまりこのまま国債に依存していれば増税は必要ないと言っている。これに国民民主党の教育国債を加えるとこの3者が「国債依存」論者ということになる。維新は大胆な社会保障の組み替えを提案しているが当座のつなぎについての言及は曖昧だ。日本の金融市場はアメリカの景気に連動して動いているためこうした財政議論が株価や為替金利に影響を与えることはない。ただし岸田政権は金融資産課税を公式には撤回していない。金融関係者は引き続き警戒感を持っているようだ。参議院選挙を乗り切れば3年ほど選挙がないことから金融資産課税の他に炭素税などの増税の可能性を示唆するコラムを見つけたのでついでに読んでみた。
前回は各政党の政策集を比べてみたのだがほとんど読んでもらえなかった。どうせ政策集には何も書いていないし、政権が変わるわけでもないのだから関心を持っても無駄だろうという気持ちがあるのかもしれない。そこで今回は少し方向性を変えてみたい。何かを配るには元手がいる。その元手をどこから持ってくるのかという話だ。外国からの援助でもない限り政府の支出は国民によって支えられている。つまり有権者から見れば「誰が何を徴収されるか」という議論である。
財源議論がない自民党と立憲民主党
まず最初は自民党だ。政府の方針に財源について明記したものはない。現状を維持するためには現在の日銀の金融政策を続ける必要があるのだが、円安基調が続いた場合このままでいけるのかもよくわからない。
さすがにそれでは分析にならないので財源についての記事を探して読んでみたのだが、Blombergで唯一見つかった記事は「新資本主義は「売り」か「買い」か、岸田首相の真意探る金融市場」というものだった。内容は「金融所得課税をやるかやらないか」程度のものであり特に新しい材料はない。あまり関心を持たれていないということがわかる。
Bloombergは「岸田政権の政策には左派色が強い」と断定している。市場関係者からは新しい資本主義ではなく社会主義としか見られていないようだ。
立憲民主党の政策集にも財源に関する目立った言及はない。おそらくこれまでの支出を見直して「賢く」教育や子育てなどに再編成するということなのだろう。前回の政権交代ではこの路線に失敗して最終的に消費税増税に踏み切ったことで政権を失っているのだから財源議論に慎重になる気持ちはわかる。立憲民主党は自公政権の対立軸として政権を担う気持ちは持っているのだろうとは思う。
自民党と立憲民主党は現状維持政党である。現状は経済がほとんど成長していないのだから財政健全化に向かうことはできない。現在政権を預かっている自民党側は「財政健全化を諦めた」とも言えない。このため黒字化目標は維持したが「できなさそうな時はその都度考える」と言っている。NHKは山際経済再生担当相の「財政健全化の方針 変えていない」という主張をそのまま掲載しているが事実上の判断先送りだ。
目的を明確化した上で国債に依存すべきという安倍自民党・玉木国民民主党・山本れいわ新選組
一方で目的を明確化した上で国債に依存すべきと主張する人たちもいる。ただしその立ち位置はバラバラである。政権内外に目的限定型の国債制度創設を訴える人たちがいる。ただし使い方は異なる。
安倍元首相は「日銀は政府の子会社」であるという独自の論を唱えている。このため国債は単に借り換えればよく返済の必要はないのだという。この理論を背景にして防衛費も国債で対応すれば良いと提案する。安倍元総理は岸田政権を内側から支えているため今後のこの提案がどの程度政策に反映されるのかが気になる。
国民民主党は教育国債を発行して教育を無償化するという独自のアイディアを出している。教育国債の発行には財政法の改正が必要だ。教育国債の発行総額は50兆円になると国民民主党は説明している。
れいわ新選組はこの安倍元総理の「子会社論」と同じことを言っている。物価が2%に上昇するまで今の金融政策を続けていいのだったら財源は心配する必要はないというのだ。
つまり、安倍自民党、玉木国民民主党、山本れいわ新選組は「これまでも国債が発行できていたのだからこれからもできるだろう」という前提を置き、その使い道をどうするのかという議論をしている。れいわ新選組の支援者たちは「自分たちのところには恩恵が回って来ていない」と言っているのだが、実は持続化給付付近とそれに類する支出だけで国は7兆円も分配している。件数は852万件だそうだ。れいわ新選組の活動があまり活発でないのはすでにもらっている人が多いからなのだろう。
社会保障の大胆な組み替えを提案する維新
「昭和の否定」というわかりやすい政策を出していた維新は社会保障を大胆に再構成することで大幅な支出削減をやろうとしている。ただし社会保障改革にはかなりの時間がかかるはずだ。維新の政策集を注意深く読んでも「この間のつなぎをどうするのか」という議論は全くない。
この辺りから「実は財政議論は選挙後に出てくるのではないか?」と考える人がいる。
ダイヤモンドオンラインが「財務省が狙う参議院選後の増税」というコラムを掲載している。この増税自体には特に根拠はないようだ。「岸田政権は財源は明確にしていないが宏池会は財務省と近いため何らかの増税を狙って来るだろう」といっている。
だがその中身にはなるほどなと思わせられるものがある。野党が反対しにくいものは国会では上げやすいだろうと言っているのだ。つまり、各党とも「触れなかったところ」や「小さく書いてあるところ」があると指摘している。こういう読み方もあるのだなと感心させられた。その上で筆者は注意深く増税に関する議論を拾っている。
野党が反対しにくい増税として記事が挙げているのは「金融資産課税」「炭素税などのグリーン税制」「法人税」などだ。どれも主に法人を狙っている。社会保障の負担は増えすぎてしまいこれ以上上げられそうにない。消費税は政治的なコストが高すぎる。選挙後に消費税議論が出てくればおそらく岸田政権は民主党と同じ末路をたどるだろう。すると残っているのは企業と資産家だけなのである。これが金融市場を冷え込ませることになるだろうと記事は指摘する。
この著者が一番困っているのが維新の分析である。大胆な改革政党という看板を打ち出す維新だが確かに「財源議論がよくわからない」という評判はよく聞く。金融資産課税をほのめかしつつも決して名言はしないという方針だというようなことが書かれている。
総合的に考えると、成長戦略がない中で「まずは財源議論を棚上げにして選挙を乗り切ろう」という態度は各政党とも一致している。だが細かく読んでゆくと特に狙われているのはやはり企業と資産家のようだ。
岸田政権は国民を投資に誘導するとは言っているのだが、まだ影響を受ける人は少ないと考えると「政党にとって最も有権者の不興を買いにくい税金」といえる。そう考えると政策集の読み方が変わる。言いにくいこと、書いていないこと、小さく書かれていることの方が重要なのだ。