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バチェレ国連人権高等弁務官によって認知された新疆ウイグル自治区の人権侵害

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バチェレ国連人権高等弁務官の中国訪問が終わった。国連として中国が主張するテロ対策が人権上問題があると認めたという意味では画期的な訪問だった。民主主義やイスラムといったものを危険思想として否定する中国は「テロ対策」と称しておそらく中国本土ではやらないような人権侵害を行っている。バチェレ氏は新疆ウイグル・チベット・香港の状況に懸念を表明している。

一方でバチェレ氏が中国を悪し様に批判しなかったことからニュースバリューはあまりないものと受け止められたようだ。アメリカや日本のメディアにはほとんど取り上げられていない。

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声明の前段でバチェレ氏は今回の訪問が「調査ではない」ことを表明し中国政府に配慮した。今回の訪問が人権団体に反発されアメリカのメディアに無視されたのはおそらくそのためである。

中段では中国が主張する「テロ対策」への懸念を表明している。さらにチベットや香港についても言及し中国政府に対するバチェレ氏の要望を明確にした。声明の本旨はこの中段部分にあったものと思われる。

後段は中国に引き続き対話を呼びかける内容になっている。

バチェレ氏には「どの国にとってもテロ対策は重要なのだがそれが人権侵害を引き起こすものであってはいけない」と主張する。つまり国連は新疆ウイグル自治区で何らかの懸念すべき状況が起きていると認定したことになる。

中国は習近平国家主席が襲撃されたのをきっかけにして新疆ウイグル自治区のイスラム教徒への締め付けを強めている。誰が危険思想の持ち主かわからないためまず広く網をかけコミュニティ全体を捕捉した上で選別するというやり方を取っている。危険度が高いとされた人の中には行方不明となった人たちがおりそうでない人たちは教育と称するプログラムに組み込まれる。これはおそらく中国本土ではやらないやり方だろう。つまり新疆ウイグル自治区のイスラム系住民は植民地的な二級市民として扱われていることになる。

バチェレ氏はこうしたプログラムは人権上の懸念を引き起こしていると指摘している。法執行には司法の監視がないため「現場による行き過ぎ」が黙認されている。また国連として「行方不明者者の家族から訴えが寄せられている」ことを認識し弁護士や人権活動家の懸念を共有していると表明した。つまり国連としては中国政府や当局は人権侵害を行っているという認識を持っていると宣言したことになる。ただし中国共産党の直接の関与までは認定していない。これはリークされた情報によって知られているのみである。

バチェレ氏はチベットに関しては民族の独自性が守られるべきだと言っている。また、香港では弁護士、活動家、ジャーナリストが逮捕されておりこれに関しては懸念を表明している。新疆ウィグル自治区で行われていることはこうした一連の問題の一つであり全体ではないということになる。

この声明をまとめると「中国では治安維持を名目にした人権侵害が行われており国連はそれを認識した」と言っていることになる。情報流出と西側メディアの検証により中国当局の組織的関与はほぼ明らかなものになっている。中国は明らかに新疆ウイグル自治区を本土とは違った植民地のような扱いで統治している。

第二次世界大戦中に組織的なユダヤ人のエスニッククレンジング(民族浄化)を体験したヨーロッパはこの状態を決して強要することはできないだろう。民族浄化は旧ユーゴスラビア地域でも起きておりウクライナ東部でもおそらく今後問題になるはずだ。ヨーロッパは統治上こうした人権侵害を含む治安維持対策を認めることはできない。

中国の問題を指摘したバチェレ報告だが、西側ではそれほど大きく取り上げられないだろう。まず中国に配慮をしているためまず中国を認めたうえでところで「問題もありますよ」と言っているからだ。批判一辺倒ではないので極めて分かりにくく物足りないという印象を与える。例えば共同通信と時事通信では全く伝え方が異なっている。

共同通信は「中国に配慮した」ことを前面に打ち出し新疆不明者の情報提供要請 国連高官、「調査」は否定というヘッドラインをつけた。共同の記事は様々な新聞社にこのまま配信されるため「これでは物足りない」とか「国連は中国に配慮しすぎている」と感じる人が多いのではないかと思う。

一方時事は「中国は対テロ政策見直しを 新疆視察の国連人権弁務官」と書いている。つまり中国に現在の人道状況を改めるように要求したということが強調されている。両方を見比べる人はあまり多くないだろうがたまたま両方を見た人は「結局どちらだったのだろう?」と感じるだろう。

アメリカや日本は中国を切り離したいという段階に入っているため、そもそもこのバチェレ声明はおそらく無視されるだろう。実際にCNNは習近平国家主席がバチェレ氏を牽制したことと、アメリカや人権団体が訪中に懸念を表明しているということを伝えたのみだった。読売新聞は「ウイグル訪問終えたバチェレ氏、中国に「対テロ」政策の見直し促す…香港巡り「深い懸念」」というタイトルをつけた。香港についての懸念も強調した上で「どちらにせよ国連の介入で問題が明らかになることはないだろう」と言っている。国際社会で中国と共存することを諦め切り離しを図りたいという姿勢がにじみ出る。価値観が違いすぎるためお互いにやってゆけないだろうということだ。

バチェレ氏の今回の声明はそれ自体を見れば長年懸案になっている新疆ウィグル自治区の問題を取り扱っているだけのものである。会見から国連は「新疆ウイグル自治区で何らかの問題が起きている」ことを認知したことになるのだからそれに呼応してこの地域のイスラム系住民を助けるために協力すべきであろう。つまり、このあとで国際社会が圧力をかけて中国に政策の見直しを要求すべきタイミングである。

だがその反響を見ると西側世界が「もはや中国のような異質な国とはやってゆけない」と諦めていることがわかる。経済制裁もあまりうまく行っているとは言い切れない。だからあとはどう切り離すかという切断だけが問題になるのである。

ただし実際に本当に切り離せるのかという点は問題になりそうだ。経済制裁一辺倒のやり方に追随しない国もあり、中国で引き続き経済活動をしている企業も多い。ロシアのように切断してしまいたいと考える人は多いだろうが、それを実行するのはなかなか難しそうだ。

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