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バチェレ国連人権高等弁務官の訪問に合わせて新疆ウイグル自治区に関連する中国側の内部資料が流出

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AFPによると、新疆ウイグル自治区に関連した資料が流出した。新疆の抑圧的な中国の政策について西側諸国は以前より中国政府の直接の関与を疑っておりそれが「証明された」形になる。

一方で中国当局は国連のバチェレ国連人権高等弁務官を招き事態の収束を図っている。今回のリークはバチェレ氏の訪中に合わせて行われており情報戦という側面も持つ。

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国連の発表によるとバチェレ高等弁務官は5月23日から28日まで新疆ウイグル自治区を訪問する。訪問地は広州・カシュガル・ウルムチだ。記者会見は5月28日に予定されている。広州から新疆ウイグル自治区を訪問する予定なのだそうだ。北京に入らない理由は説明されていない。

欧米・中国とは距離を置いているアルジャジーラの記事はバチェレ高等弁務官はすでに広州入りしており王毅外相に出迎えられたと伝えている。さらにいかなる国の記者の帯同もないことが強調されている。アルジャジーラの記事を読む限りこの件についての報道が少ないのはそもそも記者が帯同していないからである。今回の訪中が双方の宣伝合戦に利用されるのは明白である。政治利用されないためには賢明な判断なのだろう。

内部資料が流出したと報道されたのは5月24日だ。資料には数千点の写真や公文書などが含まれている。人権活動家はかねてから100万人以上の少数民族が収容されていると主張している。特にBBCはこの件について熱心に報じている。今回は収容所に入った人たちの顔写真と悲嘆にくれる家族について紹介している。

中国側は習近平国家主席が新疆ウイグル自治区を訪問していた時にウルムチの駅で襲撃されて以来「テロリスト対策」を行なっている。国家主席がテロにあうという国家の威信に関わる重大事件だった。CNNによれば今回もバチェレ国連人権高等弁務官とオンラインで会談し、「他国に指図する説教者はいらない」などとけん制したそうだ。強い共産党の指導がある中国で習近平国家主席の「賛同」なしで独立した調査を行うのは難しそうである。

中国にとって新疆政策は安全保障という側面がある。だが、北京からは誰が反中国思想を持っているかはよくわからない。そこで教育訓練という形で幅広い強化活動を展開することにしたようである。

この実態がよくわかるのが時事通信が報じた別の記事だ。5月23日に事前に公開された「名簿」の流出について扱っている。形式上は新疆ウィグルの少数民族も中国国民のはずなのだが中国政府は名簿を厳重に管理しており家族ですら誰が収監されているかはわからないそうだ。彼らは行方不明者扱いということになっているという。誰が思想犯なのかはわからないため「まず捕まえてから」選別する。そして対象者以外は訓練センターに連れてゆき職業訓練(あるいは再教育)を行うという。

漁に例えるとまず広く網をかけて一斉に捕まえてその後じっくり選別するというやり方である。おそらく西側のスタンダードでは決して許されないだろうし漢民族の多い地域でこんなことをやればおそらく大問題になるだろう。中国が新疆とそうでない地域を区別していることがわかる。区別される側から見れば単純に「差別的待遇」ということになる。

資料の公開がバチェレ高等弁務官の訪問に合わせて公開されたことから宣伝戦・情報戦の一環とみなすこともできる。AFPはBBCやルモンドなどの複数のメディアによって信憑性が確認されていると主張する。さらに離散して外国に逃れたイスラム系の新疆ウイグル自治区の住民らの証言に合致するものが多い。全ての主張を鵜呑みにすることはできないが何か問題のあることをやっているのは確かなのだろう。

建前では諸民族が一致して理想的な社会を作るということになってい中華人民共和国だが実態としては一部の住民が民族的背景を理由に差別されている。ユダヤ人の集団的な抹殺を経験したヨーロッパから見るとこれはまぎれもないジェノサイドであり「決して許容できるものではない」と考えるのも無理からぬ話だ。

だが読売新聞のヘッドラインのつけかたを見ると「中国に対する印象作り」という思惑も透けて見える。読売新聞は弾圧隠しのために中国側が監視台を隠したりモスクの礼拝を行うように指示をしている」というヘッドラインで情報を伝えている。新疆地域でイスラム住民が自分たちの文化を守っている様子を演劇的に見せているという主張だ。ヘッドラインだけを読んだ人は「バチェレ高等弁務官の訪問は中国側によって管理されている」と感じるだろう。

アメリカはバチェレ高等弁務官の訪問自体に懸念を表明している。バイデン大統領の「中国を念頭に置いた」韓国・日本訪問に前後して中国に対する悪い印象を温存したいという思惑ものぞく。

こうした「西側の工夫」は却って中国政府の態度硬化を招き事態の解決は難しくなるだろう。犠牲になるのは新疆地域にいるイスラム系の住民である。

冒頭で紹介したようにバチェレ氏も「北京政府がお膳立てした調査」という印象を持たれないように北京を訪問しないなどの配慮をしているようだ。いずれにせよ記者がいない以上は5月28日にバチェレ高等弁務官がどのような記者会見をするまで何が行われていたのかはよくわからないということになる。西側のメディアがバチェレ氏の会見をどの程度扱うかも含め成り行きが注目される。

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