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マイナンバー・カードの健康保険証化はなぜここまで抵抗されるのか?

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毎日新聞がマイナンバー・カードを健康保険証化を報道している。Twitterでは様々な理由で反対する声が広がっている。これを見ていて「もともと反対されていた理由」は忘れられているんだろうなと感じた。もともとは納税の捕捉のために検討されていた番号で社会党などが反対していた経緯ある。現在の反対意見は初期の議論の影響をいまだに受け続けている。

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時事通信が経緯を書いている。元々は佐藤栄作内閣で提案された制度だった。当時の自営業者の収入が捕捉できないために「クロヨン」と呼ばれ不公平感があった。サラリーマンは副業を除き収入が捕捉されるのに自営業と農業は捕捉率が低かったのである。ロクヨンどころかトーゴーサンだという声もあるそうだが平成生まれにはなんのことだかさっぱりわからないかもしれない。

日経新聞によると総背番号制という名前をつけたのは佐藤政権だったようだ。だがこの総背番号制という言葉を頻繁に使っていたのは社会党だったという記憶がある。社会党はこのラベルに「刑務所に入った人が番号で呼ばれるような」連想づけをすることに成功したのだろうと思うが当時のことを書いた記事は見つけられなかった。

このため今では「総背番号制」というネガティブな言い方を政府が使うはずはないと思い込んでいる人もいるのではないかと思う。だが正確には発信者は佐藤内閣でありネガティブなイメージをつけたのが社会党などの当時の野党だ。今でも共産党や社会党は「国民監視社会への一歩だ」として反対している。

社会党流入者が多い民主党が政権を取ると「国家事務の近代化」が喫緊の課題であるということが痛感されるようになる。特に危機感が強かったのは「消えた年金問題」で年金事務がかなり混乱していたからだろう。民主党政権時代から国家事務の近代化が政府の重要課題になるのだが、デジタル庁の混乱からもわかるようにいまだに道半ばといった感じである。

当初の議論では「プライバシー侵害」とは「収入を捕捉されたくない自営業者の抵抗」という実利的なものだった。社会党や共産党が「監視社会」と主張をエスカレートさせる一方で、政権に就いた側は昔の疑念を払拭するために「税だけでなく社会保障の番号ですよ」というリラベリングを行おうとした。

ところが、いったんついたイメージを払拭することはできなかった。さらにインターネットの発達で個人情報の漏洩が問題視されるようになると当初の懸念は個人情報漏洩とごっちゃにされてさらに議論が混乱するようにもなっていった。ネットがない時代の総背番号制の議論で個人情報の漏洩を気にする人など誰もいなかったのだから冷静に考えればおかしな話なのである。

こうして議論が錯綜する中で、マイナンバーが導入された時点では当初の懸念も払拭できていなかった。日経新聞の記事を読むと「所得の捕捉」も依然心配されていたことがわかる。国民の漠然とした反発は根強かったため医師会は「マイナンバーとは別に医療IDを作れ」と要望している。医師会の記事は2014年のものだ。

さらに政権交代もマイナスに作用した。元々の民主党の戦略はマイナンバーにより出費を捕捉し後で割り戻すという制度だった。つまり最初は税金の払い戻しのための制度だったわけである。サラリーマン世帯が減ると政府の所得捕捉は難しくなる。そこで最初に多く取っておいて後で割り戻すことで支出を捕捉しようとしたのだろう。当然反発は大きかった。

安倍政権はこれを封印し食料品などの特定製品をあらかじめ指定し軽減税率を適用するという方向に舵を切った。このため当初のマイナンバーの目的は失われたままプロジェクトだけが生き残り制度化されたということがわかる。

共産党の当時の反対記事を読むとプライバシー漏洩は二番目の懸念事項だった。一番目はなぜか所得が捕捉されると政府が勝手に「この人には給付が必要ない」として給付を渋るようになるのでは?というものだ。反対した政党は社会党・共産党・生活の党だった。生活の党は「山本太郎と仲間たち」になる前の時代なので「小沢生活の党」時代の話である。今ではスマホなどで当たり前になった生体認証なども当時は「政府が指紋を採取するとは監視社会だ」という理由で反対されている。

マイナンバーそのものは2013年5月に制度化され2015年10月からマイナンバーが通知された。一度政権を取って事務効率化の必要性を痛感していた民主党はこの時には賛成に回った。日経新聞の記事で「財務省の悲願だった」と書かれていることから「税金捕捉」のための制度だった認知されていたことがわかるが、軽減税率関連では使用しないことが決まっていた。つまり税金とはあまり関係がない制度になっていたのである。

こうした根強い不信感がうっすらと残っているため今でも「政府が熱心に何かをやる裏にはきっと後ろ暗い動機があるのだろう」と心配する人が多い。それでもマイナンバーはなんとか導入され人々はそれに慣れていった。だがカードにはネガティブな印象がつきまとった。当初の具体的な心配ではなく「なんとなく不安だ」という人が多い。

政府は国民は所得をごまかすであろうと疑っており国民は政府を信頼していない。この相互不信は結果的に非常に高くついている。国民は「直接のメリット」がないと動かなくなってしまったのだ。このため何かやってもらうたびに「ポイントで還元しますから何かうまいものでも食べてください」と言わざるを得なくなっている。ポイントも税金なので結局は国民が支出していることになる。事務作業の煩雑さで不利益を被るのも結局は国民である。

繰り返しポイントキャンペーンをやったことで普及率はようやく50%近くになったそうだ。国民の二人に一人が持っているというのは驚きだが、やはりそれでも「マイナンバーカードありき」の政策が実行できるような普及率ではない。

この状態ではとても「原則健康保険証をマイナンバーカードに」というようなことはできそうにない。マイナンバーカードを読み込むためには機器の導入が必要なのだが「マイナンバーを使う人が少ないのに機器を入れたくない」という病院が多いからである。

当初「機器の負担も患者に負わせますから」という形で医療機関を納得させようとしてきたのだがこれは国民の批判が多かったために見直すそうである。

今後も、世論の動向を気にしつつマイナンバーカードの健康保険証化が推し進められることになる。マイナンバーに国民の抵抗感が強かったためマイナンバーカードが無理強いされることはなかったが、結果的に普及が困難になっている。

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