IPEF(インド太平洋経済枠組み)ですれ違うアメリカのねらいと日本の期待

バイデン大統領が来韓・来日する。目玉の一つがIPEF(インド太平洋経済枠組み」)である。どんな経済連携なのか調べてみた。日本側は中国を念頭にアメリカをこの地域に惹きつけておきたいと考えている。一方アメリカ側には別の狙いがあるようだ。この2つが微妙にすれ違いつつも一つの像を結んでいるというのがIPEFだ。インドの参加は見通せないことから実質的には「太平洋経済枠組み」とも言える。






IPEF(インド太平洋経済枠組み)は4つの枠組みから成り立つ

  • デジタル経済を含む貿易の円滑化
  • 供給網(サプライチェーン)
  • インフラ・脱炭素
  • 税・反汚職

ところが日本側の報道ではこれらの詳細について触れた記事は皆無だ。あまり興味が持たれていないことがわかる。内容が漠然としすぎていて反対材料もない。またこれで恩恵を受ける産業もなさそうだ。ホワイトハウスの記者発表を読むとアメリカ側は「デジタル経済」にかなり強い関心を持っていることがわかる。

すでにこの地域にはTPPとRCEPという二つの協定がある。この中で一番広い枠組みは中国を含むRCEPだ。このままでは中国主導で話が進みかねないため、日本はTPPにアメリカを巻き込んで主導権を取り返したい。

ロイターの分析記事「アングル:米主導の新たな経済枠組み、参加を検討する日本の本音」はあけすけに「アメリカのTPP復帰が望めない今は代替策でもなんでもいい」が「経済的な実利は見込めないだろう」と言う日本の本音を伝えている。NHKも解説記事を書いているが項目を並べただけで「中国を念頭に」という言葉とTPPに復帰できないアメリカの事情を書いている。つまり内容自体にはあまり関心が持たれていない。

おそらくアメリカ側の狙いはトランプ政権時代に撤退したTPPの穴埋めをアメリカ主導で行うことなのだろう。つまり国内向けの宣伝である。アメリカの国内向けの宣伝には「アメリカは世界でトップレベルの国であり高いスタンダードを持っている」と言うメッセージが必ず入る。ホワイトハウスの発表によると今回のIPEFにはどんなものなのかはよくわからないが「デジタル経済」が強調されていた。ただ内容はよくわからない。また、税・反汚職というのも民主党政権らしい価値観の打ち出しだ。

だがこの「反汚職」との打ち出しに東南アジアの国やインドが乗ってくることはないだろう。アメリカ市場への参入が約束されていないのに一方的に政治情勢に口出しされては困る。RCEPはこの辺りの事情がわかっている。つまり中国は実利さえ手に入れらればパートナー国の政治状況には一切口出しをしないという枠組みになっている。

理想主義的な傾向の強い民主党政権はアメリカが主導して世界に高いスタンダードを作ったと言いたい。だが周辺国が期待しているのは「自分たちの国がどうやったらアメリカで儲けられるか」ということだけだ。これが微妙にすれ違っている。

日本にはまた違った期待があるようだ。NHKがIPEFについて紹介した記事には「中国を念頭に」と言う言葉が盛んに出てくる。日本がアメリカに対して期待しているのは安全保障面でのコミットである。アメリカの存在が揺るぎないものであれば日本は地域大国として大きな顔ができるが、アメリカがいなくなってしまうと中国に負けてしまうかもしれないという不安があるのかもしれない。ホワイトハウスの発表には「中国を念頭にした」と言う文言は入っていない。

ではアメリカのプレゼンスは今回の訪韓・訪日で揺るぎないものになるだろうか。防衛をアメリカに依存する日本としては是非そうあってほしいものだ。

ところが時事通信は「議会の承認がいらない政権下の約束である」と書いている。この一節がどうしても無視できない。時事通信は「政権が変わればまたなかったことになるかもしれない」との懸念を表明しているのだ。中間選挙で民主党が負ければ協定はあっても予算がつかないと言う状態に陥る。さらに2年後政権が変わるようなことがあれば協定そのものがなかったことになってしまうかもしれない。

もちろん、だからといって今のところIPEFに反対する材料までは見つからない。TPPの時には日本の農業が壊滅的打撃を受けるのではという懸念から当時の野党だった自民党が猛烈に反対をしていた。だが、今回のIPEFではそのようなインパクトのある変革はなさそうだ。アメリカとの間に「デジタル経済を含めた」貿易のルールが作れれば(それがアメリカンスタンダードであったとしても)それなりに恩恵はありそうだ。

懸念材料はやはり中国の反発である。アメリカ、日本、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、シンガポール、マレーシアが参加する見通しだそうだが「台湾」が参加を模索しているという。アメリカは中国との対抗上盛んに台湾をバックアップする姿勢を見せている。これが中国の反発を招くことは明らかだ。中国はIPEFというより今回の訪韓・訪日で「対中国敵視」の姿勢に不快感を見せている。中国外務省の汪文斌副報道局長は「分裂や対抗を画策するのではなく、アジア太平洋の団結・協力を協議してもらいたい」と表明している。

「インド太平洋枠組み」ということになっているがインドの参加は見通せない。武器やエネルギーの供給をロシアから受けていることもありアメリカとの結びつきを強めることには一定の警戒心がある。とはいえ中国との対抗上アメリカや日本の関心は惹きつけておきたいという駆け引きを行なっている。ただ、インドが入らないと「単なる太平洋経済枠組み」ということになってしまう。いよいよTPPの劣化版というような印象になってしまう。

デジタル経済を含めた貿易のルール(それがどんなものかはわからないのだが)に一定の成果が得られれば「取り組んでよかった」となるのだろうし、インドが参加せず中国を苛立たせただけで終われば単に地域に災いを招き入れ他だけということになる。こうなるとあとで高い代償を支払うことになるのかもしれない。内容が漠然としており今の時点でどちらに転ぶのかはよくわからない。

アメリカ合衆国・バイデン政権の一番の課題は中国の離反でもインドの説得でもなく「国内の反バイデン勢力」の説得なのかもしれない。議会を通す自信がないために「議会承認のいらない」制度を選択しているように見えるからだ。

だが岸田政権には今の所これといったマイナス材料はない。支持率もある程度のところで横ばいになっている。日本側の報道は今回の訪韓・訪日で「バイデン大統領の力強いバックアップが得られた」と宣伝することで「これまでどおり日本の地域における地位が約束された」という印象を与えるようなものになるだろう。

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