最近の株式市場のニュースを見ていると「カジノ化」が進行していると感じることがある。パウエル議長の言葉があまり信頼されなくなる代わりに人々が代替指標を求めているからである。
今回はNYダウが1164ドル安を記録したということだがきっかけはターゲットの決算だったようだ。結局東京もこの流れを引き継ぎ大幅に反落した。翌日になっても収まらず一時400ドルほど下げていたようだ。
実際にリセッションになるかという問題とは別に人々がリセッションに怯えているという現象があるのだ。
今回のきっかけとなったターゲットの件について日経新聞は短くこう伝えている。
- 18日には小売り大手ターゲットが2022年2~4月期決算を発表した。供給網の混乱や燃料費の増加などで大幅減益となり、1株利益(EPS)は市場予想を3割ほど下回った。
- 17日に決算を発表した最大手のウォルマートのEPSも市場予想に届かず減益だった。
- さえない小売り決算から、先行きの企業業績で利益率が低迷するとの不安が強まった。
確かにターゲットはアメリカでよく見かけるどちらかといえば中所得層・低所得層向けのスーパーマーケットである。だがそれがアメリカの小売市場全てを代表しているわけではない。ところが代替指標に敏感になっている株式投資家たちが反応した。
すでに機関投資家は引き上げていると言われている。ナスダック指数の最高値は2021年11月に出ているそうだが29%下回ったそうだ。日経新聞も「投資家は2001年9月の同時多発テロの水準まで現金保有率を引き上げている」と書いている。
詳しい報道は出ていないものの株価が高い状態で「株式市場に参戦」した投資家たちがちょっとした希望的観測に反応して株を買いちょっとした悪材料で株を手放しているという様子がうかがえる。
問題なのは株価が一方的に下がってゆくわけではないということである。中には引き続き株式市場に希望を持っている人たちもいるため一時的に株価が下がってもまた上がるという乱高下が続いている。これがさらなる不安を生んでいる。
確かにロイターの記事を読むと確かにターゲットの業績はかなり急速に悪化したようだ。ターゲットは四半期利益が半減したことで時価総額の25%を失ったそうだ。だが、これがアメリカの景気を代表しているのかどうかはわからない。全体像が発表される次のFOMC会合は6月だ。
インフレが便乗でないとは言い切れないようだ。ビジネスインサイダーにガソリン価格についての記事があった。アメリカでは原油調達価格が徐々に落ち着いているようだがそれが小売価格の下落に結びついているわけではないという。周りが物価高を予想するなら自分もそれに乗ってできるだけ利益を確保したいという小売業者が増えれば原油価格の高騰は続くことになる。
車で通勤するためにはガソリンが必要だ。収入が上がらないのなら何かを諦める必要がある。そのしわ寄せがターゲットで買い物をするような階層の人たちに及んでいると考えることができる。つまりアメリカでは「明日の生活」に関わる問題が急速に浮上しているのである。アメリカ市民は政治家に即効性のあるインフレ対策を求めるのだろうが政治家は何が起きているのかわからないという理由でうまく対策が打てていない。
ロイターは識者たちの見解をまとめている。今度の動向を知りたい人はぜひ目を通しておくべきだろう。次のFOMCで安心材料が出ることを望んでいる人が多いのだろうという印象を受けた。現在はどっちつかずの状態のため様々な指標に一喜一憂しつつ株価が乱高下するという状態が続いている。アメリカの景気と日本の経済状態は関係がなさそうだがなぜか東京の株価も影響を受けて乱高下している。
政治的には株価の安定よりも消費者物価の安定が優先される。中間選挙が近いので急速なインフレが政権の批判材料になってしまうからである。そのためイエレン財務長官は「インフレ抑制目標を据え置く」と強気の姿勢を崩さない。一方で株の投資家をいじめているという批判もFRBに向かっているようである。米カンザスシティー地区連銀のジョージ総裁は「現在のFRBの政策は米株市場を標的にしていない」と弁明した。だが「株価の安定に尽力する」とも言わなかった。「金融引き締めを実現するための道の一つ」と表現している。つまりインフレ抑制を優先するならば株価はおそらく影響を受けるであろうということになる。
いずれにせよバイデン政権は物価を安定させなければ中間選挙には勝てない。すでに共和党との対立姿勢を明確化しているため議会が共和党に支配されてしまうとおそらくは何もできなくなる。そればかりか共和党の中には「大統領弾劾裁判」をほのめかす議員もいる。バイデン政権にとっては難しい局面が続きそうである。