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プーチン大統領をきっかけにした「食料獲得戦争」の可能性について考える

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ウクライナとロシアの戦争が終わらないため世界的な食料不足が懸念されている。現在人々は小麦について心配しているのだが問題はそれだけでは終わりそうにない。肥料の高騰も続いている。ベラルーシが制裁対象になっているからだ。国連によると食料不足は「少なくともこの戦乱が終わらないと解決しないだろう」と言われており長期化の可能性が出てきた。

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エジプトは3月に自国からの食料輸出を禁止した。また5月にはインドが自国からの小麦輸出を禁止した。インドの輸出制限はかなり意外なことだと受け止められている。

ウクライナ情勢の悪化に伴い食料確保の動き、経済にも影響(エジプト)というJETROの記事によるとエジプトはラマダンで食料の需要が高まることを理由に自国からの小麦製品の輸出を禁止した。6割を輸入に頼っているということなので不思議な気がするのだが、加工品などが流出するのを恐れているのかもしれない。この時にはインドがエジプトに小麦を輸入して救済するというニュースになっていた。

ところが今度はインドが自国産小麦の輸出を禁止する措置に踏み切った。4月には「今年はたくさん小麦が取れた」と発表していたため意外な発表だ。インドは世界第2位の小麦の生産国で周辺国にも輸出している。余剰小麦を流通させていたのである。

表向きの理由は「3月の熱波」である。これを素直に取ると「冬には気候が良くそれが春先になって熱波となりインドを襲っている」と解釈することができる。パキスタンも熱波が襲っており氷河湖の氷が溶けて麓の橋が崩壊したりしているそうだ。想定外の気候変動が起きており慌てて方針を変えたのだろうという解釈だ。

だが一方で「ウクライナ産の小麦の代替品獲得競争が過熱している」可能性も排除できない。各国が治安維持のために代替品の獲得に奔走しインド産の小麦の需要が急増したのかもしれない。とりあえず事態を整理し国内向け小麦を確保するためにインドが全ての物流を止めたとしても不思議ではない。

もちろんウクライナで小麦が取れなかったわけではない。マリウポリやオデーサなどの黒海沿岸の港湾施設では小麦が送り出せなくなっている。理由はロシアがウクライナ侵攻を諦めていないからである。国連食料農業機関はこのままでは貯蔵も難しくなるかもしれないと懸念を表明している。だが、被害者意識と独自の歴史観が入り混じったプーチン大統領にその声は届きそうにない。いずれにせよプーチン大統領の野望の波紋は世界各地に小麦不足・食料不足として広がっている。ロシアは国連常任理事国で核兵器も持っているため誰も手出しはできない。

そればかりかロシア軍は占領地でウクライナ産の小麦を収奪しているのではないかという西側のリーク情報も流れてきた。春小麦の種まきを制限されたうえに食糧貯蔵庫が襲撃され秋に蒔いて収穫した秋小麦も収奪されているという。ウクライナは過去にホロドモールの苦い記憶がある。ウクライナ側はホロモドールをスターリンによる人工的飢饉だとみなしている。実際にこうした略奪が計画的に行われているかはわからないのだがウクライナ側は「ホロドモールの再来だ」とみなしているようである。

NHKの取材によるとウクライナの農家は「今年作付けができなければ農家が続けられなくなる」と嘆いている。日本の農協のような貯金・経済支援システムがあればよいのだが、おそらくはそうしたものは存在せず今年の蓄えで来年のタネと肥料を買うという感じなのかもしれない。ウクライナの土壌は肥沃だがそれでも肥料は必要ようだ。その肥料の散布ができない。まともに作付けができたとしても収量は減るだろう。この問題はウクライナだけでなく世界的に波及する可能性がある。前回の食糧危機の時にはアラブの春と呼ばれる経済混乱からくる政権交代が多発した。FAOによるとウクライナは世界の4億人のために食料を生産しているそうだ。

肥料という文字を読んで「肥料は足りているのかな」と思った。実はウクライナの戦争の前から肥料不足が起きていたからである。ベラルーシはソ連時代からカリウム肥料の一大生産国である。ルカシェンコ大統領とEUの関係は悪化し続けており戦争が始まる前からベラルーシのカリウム肥料が制裁の対象になっていた。

この時点ではまさか世界の食糧事情がここまで悪化するとは思っていなかったのだろう。いずれにせよEUとロシア・ベラルーシの間の緊張は高まり続けておりカリウム肥料の制限が緩和することはないだろう。今年「肥料不足」がニュースにならなかったのはJA全農がモロッコから代替品を輸入していたからなのである。このため政府自民党では小麦だけでなく肥料についても補助が必要だという意見でまとまりつつあるようだ。日本農業新聞が詳しく伝えている。

コメは意外と肥料が多く必要な作物である。だから「小麦がダメならコメを食べればいいじゃないか」とはならない可能性が高い。肥料なしで育てられる食物に何があるのかはわからないが救荒植物として考えられるのはサツマイモなどだろう。ただいくら食物不安があるからといって「田畑を崩してサツマイモを植えろ」などと政府が指示することはおそらく民主主義国家日本では不可能だろう。戦争を知っている世代にとってサツマイモは貧しさの象徴でありあまり人気がない。

事態がこれ以上悪化しないようにするためには目下の食料危機を解決するしかなさそうだ。

ロイターは現在の食糧危機の背景を次のように整理する。

  • 各国企業が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのために活動を停止しサプライチェーンが圧迫された。
    • 農農家は牛乳を廃棄
    • 果実や野菜は腐るまま
    • 消費者が食料の備蓄に走った
    • ロックダウンによる移動制限で移民労働者が不足した
  • 世界各地で主要農産物に問題が発生した。
    • 大豆輸出量で世界首位のブラジルは2021年に深刻な干ばつに襲われた。
    • 中国における今年の小麦収穫量はこれまででも最悪の部類に入る。
  • パンデミックの中で食料安全保障への関心が高まったことで将来的な欠乏に備えて主要穀物の備蓄を積み上げた国もありグローバル市場への供給が絞られた。
  • 2月末に始まったロシアによるウクライナ侵攻は食料価格の展望を急激に悪化させた。

戦乱と気候変動という組み合わせがグローバル化した経済と絡み合い複雑な化学反応を起こしているようだ。ロイターの記事によるとこれがいつ終わるのかはわからないという。国連のグテレス事務総長は5月初め、ウクライナの農業生産とロシア産食料と肥料の世界市場への供給が回復しないかぎりグローバルな食料安全保障の問題は解決できないと述べている。

結局、どうにかして戦争の原因になっているプーチン大統領とロシアを止めるしか道はないということになる。

仮にこれが解決しないとなると、ロシア・ウクライナ・ベラルーシから入ってきていた小麦や肥料の代替品獲得競争が起きる。するとインドのように代替品供給地とされたところが輸出制限をかける。例えばモロッコも次はどう対応するかわからないということだ。あるいは値段を釣り上げる国も出てくるかもしれない。自国の資源を高く売りたいと考えるのは極めて自然なことである。

杞憂に終わればいいかもしれないのだが、ある程度の混乱は覚悟すべきなのかもしれない。

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