ざっくり解説 時々深掘り

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が今になってコロナ感染者を認めたワケについて考える……

カテゴリー:

朝鮮民主主義人民共和国当局が今になって「新型コロナの感染者を確認した」と発表した。なぜ今頃公表したのか?と当惑する声が多く聞かれる。色々な可能性はあるが「本当にこれまで感染を把握していなかった可能性がある」のだそうだ。色々な記事を読むと独裁国家の恐ろしさを再認識させられる。上が「コロナはない」と宣言した以上はその存在を口に出すことができなくなってしまうのである。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






北朝鮮当局はこれまで国境を閉鎖し完全隔離対策を取っていた。そして頑なに新型コロナ感染者の存在を認めてこなかった。日本人を含めて世界の多くの国が「北朝鮮当局はなんらかの理由で新型コロナの感染者を隠してきたのではないか?」と疑うのも当然である。だから、今になって公表したことから「ついに隠しきれなくなったのでは」と直感的に考える人が多い。確かに各種報道によると「当局はおそらくコロナの存在を知っていたのだろう」ということはわかる。だが知っていたとしてもそれを認めるわけにはいかなかった。トップが「ない」と言っているからだ。

だが今回、金正恩氏は「建国以来の大動乱」と表明し徹底的な対策を指示した。徹底的な対策といっても中国に学べと言っている。つまり、これまで何の対策もせず、いまになってようやく周回遅れでWHOからも批判されている徹底封じ込め作戦に舵を切ったことになる。何らかの理由で隠しきれなくなったのだろうが、自分のせいではないと言える口実も見つかったのだろう。

それが「中国」だ。

今回の騒動のきっかけは遼寧省丹東市のロックダウンだったようだ。丹東市には多くの北朝鮮派遣労働者が働いている。中国は徹底的な封じ込め対策を行なっており北朝鮮労働者も検査の対象になるので当然北朝鮮の労働者からも感染者がみつかった。ただし当局は北朝鮮との関係に気を使いそれを公表していなかったそうだ。

だが、おそらく内々には北朝鮮には状況が伝えられていたのだろう。前後して丹東市と新義州市の間の鉄道が再び閉鎖された。聯合ニュースによると丹東市から北朝鮮に入ってくるのを恐れて北朝鮮側が閉鎖を決めたようである。中国側の趙立堅副報道局長は「中朝が話し合って決めた」と円満な運行停止だったことを強調している。

いずれにせよこれで「謎の発熱」の正体がわかった。やはり「謎の発熱」は新型コロナだったのである。中国が検査をしてくれたおかげでそれが何なのかわかったということなのかもしれない。

朝日新聞は「朝鮮中央通信の13日の報道によれば、4月末から原因不明の熱病が全国的範囲で爆発的に広がった」と伝える。詳しい調査によると「現在まで18万7800人余が隔離や治療を受け、6人が亡くなったという」という。

4月は北朝鮮にとって独立のお祝いシーズンに当たる。金日成主席の誕生日である太陽節があるからだ。平壌に大勢の人が集まりそこから全国に拡散した可能性はある。だがあるいはもっと早くから謎の発熱は続いていたのかもしれない。

これまでプライドが高い上層部はアメリカにワクチンや経口薬について援助を求めてこなかった。完璧な防疫体制を誇る北朝鮮には必要のないものでだからという理由で援助を断ってきたわけだ。単純に上が「ない」というものは報告できず把握もできなかったという可能性がある。ところが国際的に広がり祝日によって拡散したことでついに隠しきれなくなってしまったのだ。

ただ金正恩氏は過去に一度報告を受けていることがわかっている。「金正恩氏の叱責」は2021年6月末にも報道されていた。つまり、だがここで強い叱責と何らかの処罰が行われていたとすれば、おそらく部下たちは「次は自分たちだ」と考えて金正恩氏に何も報告しなくなるだろう。金正恩氏は「自分がしっかりと叱ったから問題は克服できた」と考えていたのかもしれない。

では「隠蔽」はどのような手口で誰がやっていたのか。

文春オンラインは「「コロナ患者宅の扉にクギを打ち家族皆殺し」「隔離から脱走したら銃殺」北朝鮮“感染者ゼロ”の本当の理由」という記事を書いている。地方レベルでの徹底した隠蔽ぶりがうかがえる。治療法もわかっていないわけだから家から出られないように扉を釘で打って封鎖してしまうのだそうだ。また新型コロナの感染者がいないはずなのに「隔離解除」の数が報告されるということもあったようだ。

何かおかしなことが起きているのだが、トップが認めない以上それを認めるわけにはいかないという姿勢がうかがえる。それでも中朝国境を抜け出す「封鎖破り」の官僚が出ると軍法で裁かれるのだと記事は書いている。

一人の独裁者が全てを押さえつけているわけではない。保身を図る大勢の部下たちがその体制を支えており一般市民が犠牲になっているのである。

トップが「ない」というものを認めないという北朝鮮の姿勢は拉致被害者問題で日本人が長年感じて来てきた独裁国家の壁だ。拉致問題は解決したと上が宣言した以上認めるわけにはいかないというのが北朝鮮の「道理」なのだということを今回の騒ぎで改めて再認識させられる。

いずれにせよ、トップがその存在を公に認め当局を叱責したとことで防疫対策はやりやすくなった。テレビでも対策が放送されはじめ国民への指示も行えるようになった。過去に一度中国からのワクチン供与の申し出を断っているそうだが、金正恩氏が認めたことで中国からの国際援助を受け入れやすくなるだろう。

ただし全容の把握はこれからになる上にワクチン接種体制を構築するのにもかなりの時間がかかるだろう。さらに当局はコロナ対策よりも「金正恩体制の正当性」の擁護を第一優先順位として対策を講じることになる。その過程で、おそらく失われる必要がなかった命が失われるのだろうと考えると胸が痛む。

さらに金正恩氏がこれを知らなかったとしたら今度は内部で「誰が隠していたのか?」という犯人探しが始まるのかもしれないと思う。かなり大掛かりな隠蔽だが「金正恩氏だけが知らなかった」ということが十分に考えられるからだ。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です