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トルコがフィンランドとスウェーデンのNATO入りで造反の可能性を示唆

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困ったことになった。フィンランドは15日にNATO加入申請を公式に発表する予定になっていたのだがトルコが「反対の意向」を表明した。表向きの理由はクルド人武装勢力の扱いだそうだがキプロス問題などでながらく二級市民扱いされていたことに対する不満ものぞかせている。

今の所アメリカ合衆国は「トルコが反対すると言っているのかどうかは明らかでない」と慎重姿勢を崩さずにトルコの意向を確かめると表明している。つまりアメリカの受け止めはトルコは反対をほのめかしただけであり実際に反対を表明したわけではないということになる。ことを荒立てたくないという姿勢が伺える。

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ロイターの記事の表現は「トルコ、北欧2国のNATO加盟支持せず 「テロリストの拠点」」となっている。

支持しないというだけで反対をするとまでは言っていないというところがポイントである。だがトルコ側の表明にはヨーロッパにとって妥協が難しい問題が含まれている。

エルドアン大統領の説明によると表向きの理由は西側がクルド人武装勢力を匿っていることなのという。

クルド人は国家を持たない民族の中では最大規模の人口を抱えている。人口は3000万人程度とされており西側では「民族の自決権を認められていない」というような扱いをされることが多い。トルコの人口の2割を占めると言われているそうだが「クルド語を抑圧しトルコ民族に同化させよう」という動きがある。西側はこうした動きを人権侵害だと捉え独立派を擁護してきた。一方、民族意識を高揚させ支持基盤を確固たるものにしたいエルドアン大統領はクルド人問題で弱腰の姿勢は見せたくない。

だがエルドアン大統領が異議を唱えるのはクルド問題だけではない。キプロス島にいるトルコ系住民の保護を名目に作られた北キプロスを西側が認めていないことに対しても不満を募らせていたようだ。この問題でトルコはギリシャを敵対視しており「ギリシャをNATOに入れたのは間違いだった」と言っている。

キプロス問題はウクライナ問題に似ている。違いはキプロスの人口がわずか120万人程度で広さも四国の半分ほどの大きさしかないという点だけだ。この問題ではトルコはロシアと同じ立場に立っている。つまり「分断」を作り出す側である。つまりヨーロッパはウクライナ問題に対応するためにキプロスの現状を認めるとはなかなか言い出しにくいはずなのである。

  • キプロス島周辺に豊富な天然資源がある。
  • トルコ側は民族問題を掲げるが西側は分断に懸念を表明している。
  • エルドアン大統領の国内での基盤が揺らいでおりナショナリズムに訴えて支持基盤を維持したいという動機がある。

朝日新聞のこの記事によるとキプロスはエジプト・イスラエル・パレスチナを巻き込んで海底天然ガス共同開発プロジェクトを立ち上げた。この時に敵対するトルコは招かれなかった。トルコから見れば、アラブ・イスラエル・ヨーロッパから包囲され排除されたという図式である。

もちろん現時点でエルドアン大統領の意図は不明なのだが、現実問題としてトルコが賛成してくれなければフィンランドもスウェーデンもNATO入りができないというのは確かなだろう。

背景には西ヨーロッパ人が持っている異文化に対する「区別意識」もあるのだろう。例えば最近ではマクロン大統領がウクライナのEU加盟にはとても長い時間がかかるだろうと表明した。実質的にウクライナの即時EU加盟への反対の意思を示したことになる。同じキリスト教圏であってもスラブの影響を受けている人たちは我々とは異なるという「差別」に捉えられかねない発言だった。

同じようにNATO加盟国であってもイスラム圏であるトルコはEUには入れてもらえていない。熱心に加盟プロセスを推進していた時代もあったのだが結局加盟は果たされていないままだ。今回のマクロン発言では名前すら出てこず「長らく加盟が果たされていない国」として括られている。西ヨーロッパは本音ではEUはキリスト教圏だけのものであり異質なものは入れたくないという意識があるのではないかと思わせる。少なくともそうした被差別意識をトルコが持ってもおかしくはない。

こうした被差別感情がトルコ国内にある民族意識と結びつき対立の「火種」を作り出している。

それでもヨーロッパ、アメリカ、トルコが組んだのは連携してソ連を抑えるという共通の目的があったからである。だが、トルコは独自にロシアとウクライナの間の「和平協定」を開催するなど独自の動きを見せてきた。ヨーロッパが自分たちを仲間とみなさないなら横並びの勢力として台頭してやろうという意欲の表れといえる。

おそらくこのトルコの「造反」がすぐさまヨーロッパの妥協やNATOの崩壊につながることはないのだろう。ヨーロッパはこの手のいざこざに慣れているために粛々と対応するのではないかと思う。アメリカも「トルコの真意を確かめる」としてすぐさま敵対的なコメントを出すことはなかった。願わくばトルコが表明を取り下げ「円満な北欧2カ国のNATO入り」が果たされることを望みたい。

いずれにせよ、ロシアがすでにNATO入りを表明したフィンランドを敵視するコメントを出している点は見逃せない。つまり防衛上の穴があることは確かである。加盟申請がスムーズに認められたとしても実際に各国が承認するまでには4ヶ月から12ヶ月程度かかるだろうという見通しもある。見通しの不透明さが増す中でフィンランドもNATOも現実的な問題に対処してゆく必要がある。

アメリカ側が言っているように、エルドアン大統領がどの程度本気でフィンランドとスウェーデンをブロックするつもりなのかなどわからないことが多い。

今後の成り行きに注目したい。

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