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暫定議長だったFRBパウエル議長の再任が上院で承認される

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アメリカ合衆国上院でパウエル議長の再任が超党派で承認された。賛成は80票、反対は19票だった。反対票を投じたのは主に共和党員だったそうだが数人の民主党員も含まれるという。パウエル議長は2月から「暫定」の地位でインフレ抑制を行なっていたことになる。政治の仕事は任用までだ。あとは強い独立性を持った中央銀行がたとえ副作用があったとしてもなすべきことをなすというフェイズに入る。

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実はパウエル氏が再任されることは決まっていた。もともとトランプ政権の任用であるため共和党から支持が得られやすかったというのが理由である。ロイターによると評価されたのはパンデミックの難しい時期を乗り切った実績だったそうだ。

当初はインフレそのものを認めてこなかったバイデン大統領だが最近ではインフレを問題視するようになっている。共和党も含めインフレ対策は喫緊の課題とされており最近のパウエル議長の「タカ派シフト」はこうした政治家への配慮だった可能性もあるのだと感じた。よく中央銀行の独立性ということが言われることがあるのだが、実はそれは自明のものではなく常に政治との関係性が意識されているということでもある。

パウエル議長はトランプ大統領の任用だったため共和党から離反者が出たのは意外とも言える。むしろ民主党左派のウォーレン氏などは「トランプ任用だったからパウエル議長ではダメだ」と主張しており一貫した態度を貫いたかたちだ。

パウエル議長はすでに任期が2月に切れており「暫定職務」状態だった。問題になったのはパウエル議長人事ではなく金融規制担当の副議長の任用問題だったようだ。日経新聞では「パウエル「暫定」FRB議長職の危うさ」として暫定任用について懸念を示しつつFRB人事が難航した理由について説明している。

当時渦中にあったラスキン副議長候補はバイデン氏に辞退を申し出た。民主党の中の穏健派と急進派では折り合えなかったことになる代わりに副議長になったのはブレイナード理事だった。ブレイナード氏の登用は賛成52票、反対43票という僅差だったそうだ。

パウエル議長は承認を受けてラジオ番組のインタビューでは再びインフレ対策の重要性を強調したと言う。再任プロセスが進行中だったため思い切った発言はできなかったパウエル氏だが「ようやく正式に続投が決まった」ことで、有権者や金融界とのコミュニケーションが円滑になることが期待される。

人々が現在懸念しているのはこうした強硬なインフレ対策がリセッションを引き起こすのではないかと言う点である。アメリカ人の記憶には1980年代のボルカー・ショックの記憶が残っており急激なタカ派政策がリセッションをもたらすのではないかと言う根強い不安がある。このためパウエル議長の「タカ派転向」について語られる時には必ずボルカー・ショックについての言及がある。

任用プロセスが進行している間、パウエル議長は「自分はボルカー・ショックを起こすことなく経済をソフトランディングさせることができる」と主張しておりバイデン大統領も期待を表明していた。イエレン財務長官もその見方に同調し有権者の不安を払拭しようとする。政権はパウエル議長を推しているのだから当然彼の能力について肯定的な評価をしなければならなかったわけだ。

アメリカでは引き続きひどいインフレが続いている。ピークは越えたと言われているのだがいつ収束するのかということはよくわかっていない。

原因の一つとされているのは加熱する労働市場である。豊富な資金と旺盛な需要に支えられる形で求職者1名に2件の求人があるという状態になっている。「今事業を拡大すれば誰でも儲けられる」という状態になっているのだろうということがわかる。労働市場の加熱はおそらく人々の期待によって支えられているのだから人々の期待を冷やす強烈な政策が求められる。

1970年代は継続的なインフレの時代だった。結局これが止まったのはボルカー・ショックが起きた後だ。このことから今回も「強烈な副作用なしではインフレが止まらないのではないか」という懸念がある。アメリカ合衆国のメディアが盛んにリセッションについて取り上げているのは1970年代のインフレの苦い記憶とその後に起きた企業倒産などを多くの人が記憶しているからだろう。

実はアメリカ合衆国でも中央銀行の独立性が担保されたのはこのボルカー氏以降のことなのだそうだ。つまり、インフレを制御するためには中央銀行が独立していなければならないという了解は実はこの時代に作られている。イエレン財務大臣もバイデン大統領も「ソフトランディング」を期待しつつ、一旦任用してしまった段階で「お仕事は終了」ということになる。あとはたとえなんらかの副作用が出たとしても中央銀行の仕事を見守ってゆくということになる。なぜならばアメリカでは中央銀行は独立しているべきだと考えられているからである。

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