パレスチナで殺害されたアルジャジーラの記者は実はアメリカ系パレスチナ人だった

アルジャジーラの記者がパレスチナで殺害された。アルジャジーラ側はイスラエル兵が狙って撃ったと言っているのだがイスラエル側はパレスチナのテロリストに殺されたのだろうと弁明した。このニュースは西側から無視されるのだろうと思っていたのだがどうやらそれではすみそうにない。このアブ・アクレ記者はパレスチナ系アメリカ人だった。つまり、アメリカはイスラエルに自国人を殺されてしまったのである。






最初にこのニュースを知ったのはAFPのニュースだった。ロイターも書いているので間違いはないだろうと感じた。

アルジャジーラ側はイスラエルに狙い撃ちにされたと言っているのにイスラエル側はパレスチナ武装勢力に殺されたと強弁しているという点で共通している。これはアメリカにとっては不都合な事実だ。

「民主主義を擁護する戦い」を展開しているアメリカ合衆国だが、実はイスラエルに関しては全く反対の立場をとっている。ユダヤ系アメリカ人は政治活動に熱心な人も多い。アメリカのエンターティンメント界や金融界には熱心に活動するユダヤ系アメリカ市民が多く影響力も強い。このためユダヤ系は両党にとって有力な支持基盤になっている。選挙を前にしたバイデン政権は親イスラエルのユダヤ系市民に配慮してこの問題を大きくは取り上げないだろうと感じた。世界から「ダブルスタンダード(二重基準)」だと言われようが内政のことを考えると他に選択肢はないだろう。

さらに、この問題を正面から捉えることはアメリカ人の自尊心を傷つける。他国の人権問題に積極的に関与し民主主義を世界に広める役割があると信じているアメリカ人は多い。現在、ロシアに対して強い態度に出ているのもその一環と言って良いだろう。民主主義の擁護者であるという自意識はアメリカ人に強い満足感を与える。外国に対する多額の支援予算や武器の供与が正当化されるのはそのためである。

もちろんアメリカのメディアもこの問題を伝えている。だがあくまでもパレスチナ人がイスラエルに対して説明責任を求めるという体裁になっている。ABCは「Palestinians mourn slain Al Jazeera journalist, blame Israel」という記事を掲載した。CNNも「Thousands mourn slain journalist Shireen Abu Akleh as Palestinians call for accountability」という記事を出している。イスラエル政府当局の言い分を信用せず国際刑事裁判所(ICC)に提訴するだろうと言っている。個人の戦争犯罪を裁く裁判所である。パレスチナは準国家格を持っておりICC条約を批准しているそうだ。

確かにこれだけを見ると十分に報道されているように思える。日本は欧米のソースから情報を取ることが多いので「これが世界の常識」ということになるだろう。

こういった問題はできるだけ源流に近いソースに当たるのが良いのだろうと思った。アルジャジーラには日本語版はないのだが英語版は出ている。特集ページができていた。当然ながらジャーナリストやパレスチナ側はこの件でイスラエルを非難している。

アルジャジーラによるとアブ・アクレ氏は防弾チョッキを着ていたにも関わらず頭を直接打たれたそうだ。距離は1メートル以上の範囲だったという。これはパレスチナ側の発表だ。またイスラエルの発表によると軍隊から150メートル離れた位置にいた。武器はM16ライフルだったそうだ。イスラエル側は誰が撃ったのかは「まだ不明」としている。このことから流れ弾に当たったのではなく直接狙われた可能性が高い。

どうやら「発信力のあるジャーナリスト」として誰かに狙い撃ちにされたことは確からしい。

アブ・アクレは職務で殺された12人目のアルジャジーラ記者だったそうだ。イスラエルとパレスチナで殺されたジャーナリストは1992年以降では18名いるそうだ。アメリカもEUも「徹底的な調査」を求めている。

EUは「独立した調査」と言っているがアメリカ国務省のスポークスマンであるネッド・プライスは「イスラエルが説明する責任がある」と言っている。聞きようによってはイスラエルが事態を収集すべきだと言っているようにも思えるのだが「独立した調査」は望んでいないのだろうということになる。ペロシ議長も「徹底的で客観的な調査」と言っているが独立した調査が必要とは言っていない。

アメリカが詳しく報道していないことがある。それはラシダ・タリーブという民主党議員の主張だ。この人は実はパレスチナ系なのだ。ユダヤ系と同等の関心をパレスチナ系にも向けるべきだという主張がにじんでいる。

ラシダ・タリーブ議員は議会で黙祷を呼びかけた。タリーブ議員は「イスラエルが調査すべきではない」といい「アメリカ合衆国政府が調査すべきだ」と主張する。なぜならばアブ・アクレ氏はアメリカ市民だからである。アメリカ人が殺されたのだからアメリカが捜査すべきだという主張には一定の説得力がある。だが、一方でアメリカ合衆国はできるだけこの不都合な事件から距離を置きたい。おそらくこの訴えはあまり広く聞き入れられないのではないかと思う。

この事態は本来ならばバイデン政権に新たな難題を与えるはずだ。第一にウクライナでのロシア側の人権侵害行為が非難されるならばイスラエルにも同じ基準を適用しなければならない。第二にアブ・アクレ氏はユダヤ系アメリカ人と同じ「アメリカ市民」であるはずなのだから同じような姿勢をイスラエルにも向けるべきだ。

この問題がここまで大きくなってしまったのは、最初にイスラエル側がとっさの判断で「パレスチナ側がやった」と言ってしまったからだろう。これはこの数ヶ月アメリカがロシアに対して散々批判してきたのと全く同じ「やり口」である。だがユダヤ系を刺激したくないバイデン大統領は強い態度には出られそうもない。

アルジャジーラは、目撃者の証言、パレスチナ側とイスラエル側の言い分を伝えた上で次のように結んでいる。国際的に注目が集まる別の地域との格差を非難しているのだろう。実は御都合主義の現状を苦々しく思っている国も多くあるのである。

How much international pressure will be put on Israel, particularly by the United States, for the killing of Abu Akleh is yet to be seen.(国際的な特にアメリカ合衆国のプレッシャーがどれくらいのものになるのかわからない)

ただアメリカの報道を見る限り、アメリカでこの問題が良心の問題だと捉えられることはなささそうだ。できれば不都合な事実として「イスラエルとパレスチナの揉め事」にしておきたいのではないかと思う。

ただ、これではすみそうにないんだろうなあと思わせる点もある。

実は2022年4月にベネット政権は議会の過半数を失っている。内政が行き詰まると外交・防衛に打開策を見出そうとするのは実はよくあることである。別の報道によるとイスラエルはシリアにも侵攻しているそうだ。こうなるとバイデン政権はロシアの拡大主義を非難しつつイスラエルを擁護するというかなり難しい立場に立たされるのかもしれない。

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