FOMC後のパウエル議長の発言に振り回されアメリカの株価が乱高下してからしばらくがたった。いわゆる株式市場のカジノ化が起きている。この現象を4日前に予言していた人がいるそうだ。伝説の投資家ウォーレン・バフェット氏である。日経新聞のコメンテータである梶原誠さんの有料記事「露呈した市場のだまし絵 バフェット氏、株急落「予告」」でその時の逸話が紹介されている。この記事は日経新聞に登録すると読むことができる。
バフェット氏はSNS化された金融市場をあまり信用していないようだ。
記事によるとバフェット氏の予測は単純なものだ。投資家は当初これまでの思い込みにひきずられてパウエル議長の発言の背景を誤解するだろうと言っていた。つまり「株式市場に対する優しさがある」と思い込むだろうと予測した。ところが後になってよくよく考えてみると実はそうでないと気がつくだろうとも分析した。実際にその通りになった。
梶原さんの記事には詳しい背景事情は出てこないのだが、おそらくバフェット氏はカジノ化の裏にSNS化する金融市場を見ているのではないかと思う。
バフェット氏はスマホで簡単に投資ができるロビンフッドマーケッツの例を引き合いに株式市場のカジノ化を説明したそうだ。「ロビンフット」は株式市場を民主化したとしてもてはやされたスマホアプリだ。このアプリのおかげでコロナ禍でスポーツの賭けができなくなった人たちが株式市場に殺到した。一時は業績が伸びるかに思えたのだがすぐに業績不安が露呈した結果株価は暴落してしまったという。
梶原さんによるとこの時引き合いに出されたのはロビンフッドマーケッツの株そのものでロビンフットアプリの話ではなかったようだ。だがスマホで誰もが簡単に株を売り買いできるという仕組みそのものも批判の対象になっているのではないかとも思う。
バフェット氏の意図するところは正確にはわからないのだが、こうした現象が「株式市場全体を覆っているのではないか」とバフェット氏は考えているようだ。マネーにはだまし絵の半分を占める不都合な真実は見えていなかったと記事は書いているのだが、あるいは見ようとしなかったということなのかもしれない。
これまでインフレは一過性のものであるとしてなかなか認めてこなかったパウエル議長だが方針を転換し今度は急速な金融引き締めのタカ派政策に転換した。だが「株式市場」は希望的な観測を維持したいあまりその転換を無視する。パウエル議長の発言に一喜一憂する人がまず株価を押し上げたからだ。そしてその裏にいるもっと冷静な人たちが別の判断をしているということがわかると一斉にそちらに向かう。こうして人々は期せずして株式市場をカジノ化してしまっているということになる。
観測は実際の株価乱高下で的中することになった。結局パウエル議長の真意に気がついた株式市場は4営業日で1900ドルも下げたそうだ。株式投資家がパウエル議長に裏切られたのである。ところがアメリカの物価が落ち着きはじめていると気がつくとやや反発した。各種指数によって動いている人もまだ相当数残っているということになる。
つまり「株式市場」と言ってもその参加者は一様ではない。アプリで株の売買に熱狂する人もいれば冷静なプロの投資家もいる。
冷静な投資家はすでに株式市場が歴史的に割高な状態にあるとして密かに逃げ始めていると梶原さんの記事は書いている。景気循環を加味したPER(株価収益率)で、ノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授が考案した「CAPEレシオ」は、大恐慌の引き金を引いた1929年の株価大暴落「暗黒の木曜日」の前と同じ水準なのだそうだ。
こうなると「カジノ」というよりは壮大なババ抜きゲームである。つまり割高な株を誰が押し付けられるかというゲームをやっている。指標に気がついた人は押し付ける側に回り、遅れてやってきた人たちは希望的観測を抱きつつまだ踊り続けている。
岸田総理はこうした危ない状況を知ってか知らずかロンドンで投資家に対して「インベスト・イン・キシダ」と宣言した。なかなか趣の深いものを感じる。さらに松野官房長官は記者たちに「金融課税については引き続き検討してゆく」と答えたそうだ。株式市場には割高感が出ておりカジノ化も進んでいるのに、まだ認識が切り替わっていないようだ。
日本人の多くは「やはり円の預貯金こそが最も安全な資産管理である」と信じている。岸田総理の投資活性化案もそれほど奇抜なものではないため、日本ではこうしたカジノ化がかろうじて防がれている。
高い支持率を維持している岸田政権だがこと金融政策に関してはかなり不安定な発言と一貫しない政策が目立っている。
バフェット氏はSNSの利用にもかなり懐疑的なようだ。「ウォーレン・バフェットがTwitterを使わない理由…「いつでも誰かに、地獄へ落ちろと言える」」というビジネスインサイダーの記事を見つけた。
我々は情報がより多ければ的確に未来が予想できると我々は考えがちなのだが、実は情報を取捨選択することの方が重要なのかもしれない。少なくともバフェット氏はTwitterに頼ることなく現状を正確に把握し未来を予想することに成功し続けている。