ハンガリー首相がEUの中で造反を始める

かねてよりロシアとの関係が近かったハンガリーが「EUはレッドライン(最後の一線)を超えた)」と主張している。表向きはロシア産石油禁輸案に反発したものだが、背景にはEUとハンガリーの間の緊張関係がある。






AFPが伝えるところによると、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相はフォンデアライエン委員長が発表したロシアへの追加制裁としての同国産石油禁輸案について「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えるものでありEUの結束に対する「攻撃」だと非難したそうだ。

EUが対ロシア制裁で足並みを揃えようとする中「結束を乱しているのはハンガリーなのではないか」と思えるのだが、オルバン首相は考えを変えるつもりはないのだろう。地元ラジオで「ハンガリー経済に落とされた核爆弾だ」と発言したと伝えている。つまりかなり大げさな口調でフォンデアライエン委員長とEUの決定について憤りを表現している。

確かにハンガリーとスロバキアはロシア産原油への依存度が強いようだ。EUもこの点はわかっていて時間的猶予を与えている。おそらくオルバン首相の発言の背景には別の思惑があるのだろう。

現在3期目に入ったばかりのオルバン政権は再選前から汚職が懸念されていた。BBCによると国内の人権派・反汚職を訴える市民グループなどから反発を受けていたのだ。こうした政権はEUの監視が強まるとロシアに接近する傾向があり、オルバン政権も例外ではない。プーチン大統領を賞賛しEUの統合に反対していた。

今回フランスの大統領選挙で最終選考に残りながら敗退したルペン候補との親和性も高い。つまりグローバリズムについてゆけない人々はEUの「ブリュッセル支配」に反発を覚えるのだ。

オルバン政権とEUの間の緊張関係はかなり高まっている。4月28日に「EUがハンガリーに配分する予算の執行を止める手続きを開始した」というニュースがあったばかりである。こうした対立があるためオルバン首相は結束が必要な場面で意趣返しをしたことになる。石油禁輸を行うためには全ての加盟国が一致していなければならないため禁輸が決定されるまでには時間がかかりそうだ。

EU/NATOブロック対ロシアという構造が語られることが多いのだがEUも必ずしも一枚岩ではない。民主主義と透明性を確保したいと考える国もあれば経済的な恩恵は受けたいが汚職体質を温存したいというハンガリーのような国もある。

ベラルーシのように一時EUに接近したものの汚職体質を非難されロシアに寝返ったところ取り込まれてしまったという国やルペン候補の躍進でハンガリーのような状態になりかけたフランスのような国もある。

では、ロシアに接近する国とそうでない国の違いはどこにあるのだろうか。それは、おそらくロシアとの物理的な距離である。

例えばバルト三国はいち早くロシア産のエネルギーからの脱却を図っている。エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国は共同してロシア産天然ガスの購入を停止したとこと発表した。ともにソ連に組み込まれていた国であり再び飲み込まれてしまうことに対する懸念があるのだろう。「フィンランド化」が揶揄されてきた「親ソ連・親ロシア」のフィンランドのように透明な民主主義こそがロシアからの安全保障になると考えてきた国もある。危ないバランスをとりながら長期政権の汚職という状態だけは避けてきた。

ポーランドもEUの法律よりもポーランドの憲法が優先されるという国内の判断が反発されて対立が起きている。2021年12月にはEU委員会が法的手続きを検討しているという報道があったのだが、その続報は聞かれない。ベラルーシと長い国境を持ちウクライナとも一部国境を接しているポーランドはロシア情勢を喫緊の課題と考えているのだろう。今後の見通しは不透明だが「今は争っている場合ではない」ということなのかもしれない。

ハンガリーは一部国境をウクライナと接しているだけである。つまりバルト三国やポーランドと比べるとロシアの脅威を低く見積もることができる。オルバン政権はロシアに飲み込まれる脅威よりも自分たちの利権が脅かされることの方が喫緊の課題だと考えているのかもしれない。

もちろんこれがすぐさま「EU崩壊」という極端な展開に繋がることはないのだろう。だが2015年ごろの移民機器からイギリスのEU離脱のあたりまでEUの統合は難しい局面に入っていた。今回の石油禁輸をめぐるハンガリーの造反はその難しい局面の一事象なのだと考えることができる。

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