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岸田総理が世界に向けて「資産所得倍増プラン」を力強く宣言

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岸田総理のヨーロッパ歴訪が終わった。あらかたウクライナ情勢について歩調を合わせるだけなのだろうとあまり注目していなかったのだが、Twitterで「資産所得倍増」というタイトルを見てついクリックしてしまった。やはり強烈なタイトルをつけないと注目されないんだろうなということを改めて感じた。

銀行の勤務経験があり外務大臣としての経験も豊富な岸田総理が世界に向けて日本をトップセールスしてくれるのは心強い限りだ。だが、総裁選以来発言がかなり修正されているうえに具体策に欠ける印象もある。

野党も攻め手に欠けると考えたのか「それは普通に株式投資を促進しようとしているオーソドックスな資本主義なのでは?」との感想を述べるにとどまっている。今後何らかの具体的なサプライズがない限り「投資促進策に派手なネーミングをつけただけ」という評価に終わりそうだ。政府日銀が金融市場に対してメッセージを送っていないため日本の株価はむしろアメリカの市場に連動するようになっているそうだ。

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まず読売新聞は確かに「首相、資産所得倍増プラン」推進を表明…ロンドン金融街で講演「岸田に投資を」というタイトルで記事を書いている。NISAの利用者拡大など今あるプランをさらに充実させるという内容でサプライズはない。カーボン・ニュートラルを実現するために150兆円の関連投資を目指すという考えも示されていると書かれている。こちらは具体的な投資額が提示されているためロイターでも取り上げられていた。

共同通信も「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」というキャッチーなフレーズを伝えている。

ブルームバーグもこの線で伝えている。日本の金融資産は半分以上が預貯金で保有されているのだから株式市場にはポテンシャルがあると説明する。確かにそれはそうなのだが「具体的にはどうするのだろうか」という疑問は残る。これまでも投資促進策は取られてきたわけだから「資産所得を倍」にするためにはそれなりのサプライズが必要だ。

失敗がなかったという点は評価されて良いのだろうが、どこに期待して良いかはよくわからないという感じである。良くも悪くも安全運転なのだ。野党も攻め手に欠けると考えたようだ。玉木雄一郎国民民主党代表は「伝統的資本主義だ」と評価している。また「この際、思い切って若者に株式投資の良さをアピールしてみては」と言っている。当たり前の提案をしているだけなので当たり前の反応しかできないと言ったところだろうか。

他の媒体やTwitterの反応を読むとポイントが二つあることがわかる。

まず一般のレベルでは岸田政権の再分配政策は「岸り人(岸田相場で損をした人)」を大量に作っただけというイメージがある。今後アメリカの金融政策は引き締めに転じることが予想されており株価にはおそらくマイナスの影響が出る。インパクトに欠ける今回の声明でこの「岸り人」のネガティブなイメージや相場のトレンドを払拭することはなさそうだ。

TBSは「ロンドンで岸り人のイメージを払拭しようとした」というトーンで一つ記事を出している。またリベラル系の人はTwitterで見る限り「相場になけなしの資金をつぎ込めというのか?」と反発していた。株式市場=ギャンブルという認識が形成されているようである。

日経新聞が気にするのは金融所得課税だ。日経の警戒心がタイトルに現れている。首相「資本主義バージョンアップ」 日本の成長持続訴え 英シティーで講演、金融所得課税触れずというタイトルになっている。わざわざこれをサブの見出しに持ってきている。触れずということは「疑念は払拭されていない」ということである。つまり金融関係者は「サプライズ」の懸念がなくなるまで必ずしも安心とは言えないと警戒しているようだ。

  • まず新しい資本主義とは「資本主義のバージョンアップである」というこれまでの主張を繰り返した。
  • 次にロシアのウクライナ侵攻について経済制裁や人道支援を続けると主張した。
  • その後はロンドンの投資家への説明会のような内容になったそうだ。つまりトップセールスを繰り返したのである。まず自らが金融業界の出身であると主張し「自由放任もでも福祉国家でもない第三の道を目指すべきである」との持論を展開する。
  • だが、市場が警戒した金融所得課税の引き上げ、自社株買いのガイドライン策定、四半期開示の廃止(透明性の低下につながる)には触れなかった。

岸田総理は総裁選の最中は金融課税について検討すると約束していた。ところが総裁選に勝利するとこの発言を封じてしまう。NHKは当時の状況を「金融所得課税 見直しで波紋 発言は後退したのか?」という記事にまとめている。

もともと岸田総理のビジョンはアベノミクスのトリクルダウン仮説を修正し地方への再分配を強化するというものだった。池田総理の所得倍増計画が経済成長の果実を国家管理しインフラへの集中投資や特定産業の支援に振り向けた前例に倣ったものである。地方は「これでまた分配が増える」と感じ岸田総裁は無事に勝利することができたのである。ただ金融市場はこれをネガティブに捉え「岸り人」のイメージが生まれた。

日経新聞は依然「そういえばあの金融所得課税の話はどうなったのだろう?」と考えているのだろう。検索するとロイターが2022年2月の共産党議員への答弁を伝えている。「引き続き議論してゆく」となっており撤回したわけでもなさそうなのである。引き続き議論しているのであれば確かに後退はしていない。だから懸念は払拭されないまま残っているのだ。

これがいいことなのか悪いことなのかということになる。大した失点がないことから有権者は軒並み政権運営に満足しているようだ。ただし消費者に直接影響がある為替のコントロールができなくなっている。為替は(おそらく総裁が変わらない限りは)日銀ではなくアメリカの金利によって上下することになるのだろう。

これは株価にも言えることなのだそうだ。ロイターによると現在のドル円相場と日本の株価は全く連動していないのだという。むしろアメリカの株価と日本の株価が大きく相関している。つまり日本の経済は為替市場にしろ株式市場にしろアメリカのパウエル議長の発言とその解釈を含めたアメリカの金融政策に大きく依存している。FOMCの発表のあとアメリカの株価は回復したがその後に別の側面に注目が集まり再び下落したと時事通信が伝えている。

つまりその意味では日本の金融市場は必ずしも安定した市場ではなくなっていると言える。少なくとも岸田総理が安定性を保障することはできなくなっているのである。

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