オーストラリアの政権交代で「対中国政策」の揺り戻しは起こるのか?

オーストラリアで総選挙が行われる。「政権交代が起こると対中融和的になるだろう」という書き方をしているところもある。時事通信は「対中揺り戻し」という書き方をしている。

だが、海外のメディアの評価は違っている。最近の民主主義国家の選挙にはロシアや中国の影響を持ち出して内政から目をそらそうという動きがみられる。The Diplomatも「政争の一つとして対中関係が利用されている」というラインで記事をまとめている。

ただ何も変化がないというわけにはいかないかもしれない。例えば台湾有事の際の対応には温度差も見られるようだ。つまり、仮に政権交代が起きた後AUKUSやQUADのような枠組みの再構築や修正という動きは出てくるのかもしれない。

その意味では、5月下旬に行われる選挙の結果とその後の動向には注意をする必要がありそうだ。






中国の習近平国家主席がオーストラリア労働党に投票したというポスターを路上で見られるようになったそうだ。看板にはハンマーと鎌という共産主義を示すマークが使われており「中国共産党は労働党に投票する」と書かれている。このポスターで広報をしているのはAdvance Australiaというグループだそうだが、保守党とのつながりも疑われているようである。モリソン首相も労働党の「アンソニー・アルバネーゼ氏は中国政府が選んだ」と非難しているからである。つまり与党(連合)は労働党と中国共産党を結びつけるキャンペーンを行なっているのである。

A truck carrying a billboard of Chinese president Xi Jinping voting for Labor displayed on three sides has caused an early election controversy

ロシアのウクライナ侵攻もあり漠然とした「専制主義」への不安感が広がっている。政治家としてはそれを利用しない手はないということなのだろう。

具体的なやりとりをロイターがまとめている。モリソン首相はソロモン諸島と中国の協定を「オーストラリアの選挙を狙ったものだ」と指摘したようだ。モリソン首相が率いる連立与党は5月21日の選挙での苦戦が伝えられている。だから「敵対する労働党の躍進は中国にとって有利になる」と主張し危機感を醸成しようとしているのだ。

労働党側もソロモン諸島の協定は「モリソン首相の失策である」と非難のトーンを強めている。つまりどちらも「中国嫌い」を主張しているようだ。選挙戦で利用できる程度には反中国感情が広がっていることがわかる。

中国とどう付き合うかはオーストラリアにとっては重要な問題だ。最近はソロモン諸島に中国が接近しておりその懸念はさらに高まっている。

では実際に有権者はどう考えているのだろうか。オーストラリアのテレビ局ABCはVote Compassという調査結果を発表している。オンラインでのアンケートを随時取っていてその結果を発表しているのだ。中国との対応についてオーストラリアは強い姿勢で臨むべきだと考えている有権者は58%だった。

記事は拒絶反応の理由までは分析していないのだが、過去の親中国政策の揺り戻しとして中国に対する拒絶反応が強いことがわかる。政治家に働きかけてオーストラリア国政に浸透しようとした前歴が警戒されているものと思われる。

日本にしろアングロサクソン系の諸国にしろコンセンサス重視型の民主主義国家と中国のようなトップダウン型の専制主義国家では価値観が違いすぎる。このため限定的な貿易の枠を超えてしまうと「お互いに理解できないし共存したくない」という気持ちが働くのだろう。オーストラリア緑の党、オーストラリア労働党、保守連合(The Liberal–National Coalition)支持者ともにこの姿勢はある程度一貫しているようだ。

ただしオーストラリアABCによると外交姿勢が選挙の争点になる可能性は低いようである。つまりそれよりも教育、経済、医療福祉、社会問題などに関心を持っている人が多い。

このため「中国の脅威に対抗するために軍事費を増やすべきか」と聞くと「だいたい同じレベルを維持すれば良い」という現状維持派が33%になり、賛否は正規分布する。コンセンサスが取れているわけでもなさそうだ。つまり、ロシアのウクライナ侵攻により「現実的な脅威がある」という認識はあるものの、かといってすぐに軍事費を増やすべきか?と問われるとそれはよくわからないという程度の緊張具合だ。

この状況は日本とよく似ている。日本でも防衛費を二倍にすべきだという議論が始まった。念頭にあるのはロシアのウクライナ侵攻によって刺激された中国脅威論である。確かに心象的には否定しにくい。

ただし、財源として期待されているのはさらなる国債発行である。財務省はこれを警戒しており「フィンランドではタバコ税や酒税をあげて防衛費を捻出する議論をしている」と財政制度等審議会で訴えかけた。しかし政治家は選挙前に国民の負担が増えるようなことは言いたくない。この財政制度等審議会は財務省に諮問機関に過ぎないために財源議論は政治課題にとして議論のテーブルには上がっていない。財務省の諮問機関なのだから財務省寄りの意見が出るのは当然である。このためこうした議論があったことすら知らないという人がほとんどなのだろうし、選挙の後にこうした増税議論が出てきても「聞いていない」「知らなかった」と感じる人がほとんどだろう。

このように漠然とした中国脅威論が政局的に利用されるというのは何も日本だけの話ではない。では単に政争に利用されているだけなのだから「オーストラリアで政権交代が起こっても実質的にアジア太平洋地域の情勢は変わらないのか?」と言われると必ずしもそうではない。

まず時事通信は1月ごろに政権交代なら対中揺り戻しも コロナ対応で与党支持低迷―豪、5月までに総選挙という記事を出していた。

保守連合政権は政権の好感度を上げるために積極的に中国から離れアメリカに近づくという「AUKUS」「QUAD」などを打ち出してきた。だがそれでもあまり効果が出なかったので冒頭の習近平ポスターのようなものが登場したのだ。

なんとしてでも政権を維持する必要がある与党連合と違い労働党にはそこまでしてアメリカに近づく理由がない。これを時事通信は「労働党は親中国色を覗かせる」と表現している。親中色とは言っても「それほど敵対的な態度ではない」という程度で実はそれほど親中国というわけでもない。

ただし現実の対応には温度差もある「台湾有事に関わるのは国益ではない」という声も聞かれるようだ。つまり労働党政権は明確に打ち出しているわけではないかもしれないが「リスクを取ってまで中国を刺激するのはいかがなものか?」という姿勢に転換する可能性がある。

アメリカも日本もオーストラリアを巻き込んで対中国包囲網を作りたいという思惑がある。負担を分担すればそれだけ一国の負担は小さくなる。コストパフォーマンスの最大化を狙っているのだろう。オーストラリアで政権交代が起こるとこうした戦略は一部見直しが必要になる、あるいはオーストラリアを説得し直す必要があるということになる。

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“オーストラリアの政権交代で「対中国政策」の揺り戻しは起こるのか?” への2件の返信

  1. 右寄りでもなく、ましてや左でもない文章構成、読んでいてどの項目も参考になります。

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