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金融市場の評価は「パウエルFRB議長の発言はやはりあまり信頼できそうもない」だった

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FOMCの会合が開かれた。当初の予定通りの利上げが発表されたのだが「市場はすでに織り込み済み」になっており円安は進まなかった。日本にとっては「ゆきすぎた円安が阻止された」格好だ。ニューヨークの株価は行き過ぎたタカ派政策はないと判断し一度は値を戻した。

だが1日経つと短期金利も0.75%ポイントの利上げを75%織り込むという展開になり株価も急落した。結局前日に回復したものがほぼ全て帳消しになったそうである。

つまり市場は「一晩たって冷静に考えたところやはりパウエル議長の言葉を信頼していいかどうかわからない」と反応した。今後も発表のたびに株価や為替の動向が神経質に変わるという状態を覚悟しなければならないようだ。

日本の株価や為替もアメリカに連動して動く。日本の金融関係者や投資家にとっても気の抜けない状態が続くことになるだろう。

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まずはアメリカの発表である。雇用の最大化と長期的な2%のインフレ達成を目指すとしている。現在はインフレが行き過ぎているため「金融引き締めを継続する」という内容である。
米FOMC声明全文の邦訳をロイターで読むことができる。

続いてロイターの解説記事を読む。ポイントは22年ぶりの0.50%ポイントという大幅な金利引き上げによる積極的なインフレ対策と6月から始まる保有資産の縮小である。

継続的に0.50%の金利引き上げの用意があると予告したが0.75%ポイントまでの引き上げは積極的に検討しないとした。段階的に上げることで金融市場に準備期間を与えようとする配慮だとみなされている。影響はすでに織り込まれており為替に対する影響はそれほど大きくなかった。

インフレに対して議長は「極めて不快だ」と消費者への共感を寄せつつ、住宅ローンや自動車ローンの借入などの痛みにも言及した。

さらに原因については

  • 従来のコロナ禍からの回復・エネルギー価格の高騰
  • ロシアによるウクライナ侵攻の影響
  • 中国の新型コロナウイルスロックダウンの影響で供給網が混乱していること

の三つをあげた。どれもすぐに解決するような問題ではないため長期的に影響が持続することが示唆される。

この発表を受けて「株式市場を脅かすような行き過ぎたタカ派的政策は取られないだろう」と安堵した株式市場は値を戻した。パウエル議長が金融市場のみならず消費者やローンを抱える人たちに対しての配慮を見せたこともあり「現状をよく把握している」とみなされたのだろう。

さらに詳しく株式市場の動向を見てゆきたい。金融市場はFOMCのステートメントではなくその後のパウエル議長の発言によってようやく「安堵した」ようである。市場の動向がバランスよく理解されていると好感されたようだ。ただし、発言にあるように「地政学上のリスク(戦争や疫病対策)」は続くためボラティリティが高い状態は続くものとみられていた。

市場関係者の中にはよりタカ派的な政策が続くものと予測していた人がかなり多かったようである。

FRBがインフレ対策を優先させたことから「景気後退(リセッション)」を呼び込むのではないかという懸念はあるようだ。FRBが年内の収束(インフレ2%への収束と政策の中立化)を目指すために金利上昇に注力するとみられるからである。イエレン財務長官は「金融政策はかなり神経を使う展開になるだろうがFRBはうまくやるだろう」というような意味のことを言っている。イエレン流の言い方では「米金融当局は巧妙かつ幸運である必要があるが、これは可能な組み合わせだと思う」となるそうだ。多くのエコノミストが2023年はリセッションを予想しているそうだがイエレン氏は「ソフトランディングは可能」と言っている。

またゆきすぎたドル高がアメリカの製造業に影響を与えることは認識しているのだろう。「ドル高はアメリカ経済が高く評価されている証であり問題はない」という認識を示した。日本側から見ればアメリカの積極的な円安防止介入は期待できないことになる。記事の全文はブルームバーグのイエレン財務長官、底堅い成長を想定-米経済の軟着陸は可能で読むことができる。

さて少し長かったがここまでが発表直後の反応をまとめたものだ。色々心配はしたものの結果的には胸をなでおろすという展開になっていた。株式市場関係者も「できれば安心したい」と考えたい人が多かったのだろう。

日本はゴールデンウィークの真っ最中だ。投資のことを忘れて楽しもうという人も多かったかもしれない。

だが一夜開けてみると状況が一変していた。

ロイターが米短期金利先物、6月の75bp利上げ確率約75%という記事で「5日の米短期金利先物市場では、米連邦公開市場委員会(FOMC)が6月に0.75%ポイントの引き締めを決定する確率が約75%であることが織り込まれた」と伝えている。パウエル議長は「積極的には検討しない」と約束してくれたはずなのだが、この文章を読む限り短期金利先物市場はそれを信頼しなかったようだ。

では株価はどうなったのだろうか。共同通信が結果だけ伝えている。NY株、一時1000ドル超安だという。共同は短信なのでこの記事だけを読むと「よくわからないな」という印象しか残らない。パウエル議長が「積極的に検討しない」と約束し株価が一時高騰したのに警戒感が広がり帳消しになったという内容だからだ。

いずれにせよ周囲の動向を見ながら株式市場が神経質に乱高下している様子がわかる。これが金融引き締め時の市場の心理状態なのだろう。誰もが「この高音は続かない」ことを知っている中で資産運用に対して好成績を上げなければならない。つまり、誰がババを引くかという展開になっている。

イエレン議長の微妙な言い回しの意味がよくわかった。パウエル議長は暴れ馬のような投資家心理を過度に刺激しないように資産を回収し金利を収束させる必要がある。さらにインフレに対応するためにその難事業を今年中に行うことが求められている。確かに巧妙かつ幸運でなければ乗り切れそうにない。

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