合衆国最高裁判所からの文書流出でPro-ChoiceとPro-Lifeの対立的議論が再燃

政治のニュースを流し読みしていたら「最高裁判所がリークを事実と認めた」という記事が目に入った。一瞬何のことだかわからなかったのだが中絶問題に関するもののようだ。アメリカでは中絶問題はキリスト教の価値観に関わるイデオロギー論争になっており共和党支持者と民主党支持者に対立がある。

発火点が「リーク」だったことで、再び問題が拡大しかねない状況になっている。すでに中絶容認派の間ではデモが起きているようだが、今後再び大きな対立が起きるのかもしれない。






キリスト教は「中絶を殺人だ」と定義している。このため伝統的なキリスト教的価値観を重んじる共和党支持者の多くにとって中絶の容認は極めて許しがたい行為だ。一方で望まない妊娠に対して選択権を持ちたい人権派にとっては中絶の容認は長年の闘争で勝ち取った権利である。

この問題は1970年代にロー対ウェイド事件の裁判で解決したことになっていたが、共和党とトランプ政権が積極的にこの問題を煽った。アメリカの価値観を取り戻すためには是非とも中絶を禁止すべきだというのである。トランプ大統領は保守派の最高裁判事を多く任命したため現在ではPro-Life(生命派)が多数を占める。

今回の「事件」は何らかの理由で初稿が流出したことで起きた。初稿は過去の最高裁判決を覆し問題を議会で再討議すべきだと主張している。ポリティコが報じたことで確からしいという話にはなっていたのだが最高裁判所長官が事実であると認めたため「リークがあった」ことまでは確定した。

漏れたリークの内容は次のようなものだ。つまり議会に差戻すべきだということになっている。つまりPro-Lifeの人たちがこの問題を解決したいと考えるならば「共和党に入れてください」ということになるのだろう。

アリート判事は「第1稿」と書かれた草案でさらに、「憲法の定めを守り、人工中絶の問題を、国民に選ばれた代表たちの手に戻すべき時が来ている」と書き、中絶権の是非は議会が審議すべきだと書いているという。

アメリカで中絶権認めた判例覆す最高裁の多数意見草案、異例のリーク

当然、バイデン大統領と民主党支持者はかなりの怒りを覚えているようだ。行政のトップである大統領が司法に対して「約50年にわたり判断は定着しており、覆されるべきではない」と反応するという異例の事態になっている。三権分立をないがしろにすると取られかねない動きである。中間選挙への影響を考えると、民主党の勝利で政策を信任してもらいたいと考えているバイデン大統領の立場はかなり不利である。

民主党支持者によく読まれているであろうCNNも人権運動家たちの動揺ぶりを伝えている。長年の運動で勝ち取った権利なのだから彼らの動揺は理解できる。

現場ではデモの参加者らが怒りをあらわにしたり、互いに慰め合ったりする姿がみられた。「運動に全力を尽くしてきたのに」と、無力感を口にする活動家もいた。

米最高裁、「中絶合憲」判例覆す意見起草か 報道受け抗議デモ

ここまでを読み「形成が不利な人権派(つまり民主党サイド)」が世論の沸騰を期待して情報をリークしたのではないか?と感じた。つまり民主党サイドの「暴挙である」と感じたのだ。

これをQuoraに書いたところ全く別の意見がついた。「初稿は確定でないために覆る可能性がある」とした上で「それを監視するために初稿を既成事実化しようとしたのではないか」というのだ。Quoraの政治スペースは日本語に堪能なアメリカ人も読んでいるのでこうした意見がダイレクトに付くことがある。

「予断を持ってうっかりしたことは書かないほうがいいのだな」と思わせられるのだが、可能性としてはどちらもあるというのもまた確かなことだろう。

  • 数の上での不利なPro-Choiceが世論の支持を背景に巻き返しを図っている。
  • 最高裁判所の中ではまだ不確定要素があるために「寝返ったら世論から反発されるからな」という脅しの意味でPro-Lifeがリークを行なった。

アメリカ合衆国は民主的な手続きを重んじる人が多い。このためどちらも「自分の陣営がやったこと」とは思いたくない。ただしリークが行われたというのは事実なのだから誰かが民主主義のプロセスを無視してでも自分たちの意見を押し通したいと考えていることは確かである。今後調査が行われ「誰が何の目的でやったのか」の解明が進むことになるが、アメリカの民主主義がかなり痛んでいるという事実は隠しようがない。

確かにアメリカ合衆国の民主主義の分断は今に始まった問題ではないが人々は何とかこれを修復しようと努力してきた。

議会襲撃を頂点にバイデン大統領の登場でいったんおさまったかに見えたのだが実はまだ燃え続けているということがわかる。今後直線的に対立が激化するかどうかはわからないのだが中間選挙に向けて対立が先鋭化するのだろうなということは容易に予想できる。対立に夢中になる人がいる一方でもう対立はうんざりだと考える人も出てくるだろう。

この中絶の問題が日本に直接の影響を与えるということはないだろうが、アメリカ政治の動揺は日本の経済や安全保障にかなり大きな影響を与えるだろう。その意味では日本にとって全く他人事とは言えないニュースではある。

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