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金利抑制の財務省・日銀と景気対策優先の経済産業省 ー 世論戦に勝つのはどっちだ?

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黒田日銀の「長期金利抑制策優先」が市場関係者に波紋を広げている。そろそろ「円安」をなんとかすべきだという議論がではじめた。

財務省は長期金利を抑制し日本の財政を支える立場だが経済産業省は経済政策優先である。安倍政権時代は両者の利害が一致していたのだが今はどちらかを選ばなければならない。つまり誰が書いているかを読まないと世論誘導戦に巻き込まれてしまうかもしれないと感じた。

ここで世論が「悪い円安をなんとかすべきだ」という論に傾けば財務省・日銀は対策を迫られることになる。一方で世論が「よくわからないがこのままでもいいのではないか?」と考えれば黒田総裁の任期切れまでこのままの政策が続くことになるだろう。つまり今後、利害が異なる両者の間での駆け引きが水面下で繰り広げられる可能性があるということになる。

ただしこれはまだほんの鍔(つば)ぜりあいである。参議院選挙が終われば本格的な経済路線の選択が行われる。この時世論がどこを向いているのかを自民党内の各陣営はかなり気にするのではないかと思う。

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まず共同通信の記事だ。「主要企業調査、「良い円安」ゼロ 半数弱は110円前半望む」というタイトルで多くの企業が110円台前半のレートを望んでいるという思いをにじませている。。為替水準というのは人々が「こうなって欲しい」からと言っても操作できるわけではない。となるとこの記事は一体何を目的にした記事なのだろうか?という疑問がわく。ただ円安のメカニズムに対しての議論は今の所それほど活発ではない。円安をニュースで知ってはいても自分の生活にどんな影響があるのかということはわからないという人がほとんどだからなのかもしれない。

では円安の議論が今後活発化した場合にはどのような議論が交わされることになるのだろうか。それが単純化である。

一部ではすでに単純化の動きが出ている。黒田総裁が悪いから円安になったというような論である。

現代ビジネスは「日銀に呆れ声…黒田総裁の“失言”を帳消しにする「神風」も、長くは続かないワケ」という記事を出している。著者は町田徹さんというジャーナリストの方だ。記事をざっと読むと円安は黒田さんの失言によって引き起こされたという印象が残る。

ちなみにこの「失言」とは長期金利抑制政策を続けるという発言である。IMFも妥当性があると言っており必ずしも失言とは言えない可能性が高いのだがおそらくそんな難しいことはよくわからないという人が多いのではないか。さらにこの文章は指し値オペの常態化を「傲慢だ」と断じている。つまり「円安の是非」ではなく黒田さんの良し悪しという話になっている。

共同通信の記事と合わせると「人々が110円台の前半を望んでいるのに黒田総裁の傲慢な態度と失言によって」悪い円安が進んだというような印象になる。これが世間一般の認識ということなのかもしれない。

だが、この文章が言うところの神風が吹いたおかげで、現在黒田バッシングはそれほど大きく広がっていない。折しもアメリカの株価が混乱状態にありアメリカの金融タカ派的な政策が一旦「おやすみ」になっている。これが黒田総裁にとっての神風だったと言っているのだ。

ただFOMCは長期金利を引き上げるであろうという見方が一般的だ、つまり、神風状態はそれほど長く続きそうにない。FOMCの会合は3日と4日に行われるので遅くとも日本の5日までにはなんらかの方向性が示されるだろう。

この問題を本質的に対処するならば政権が何らかの取捨選択をする必要がある。だが日本の政治はこの数十年この不利益分配があまり得意ではなかった。

  • 構造改革を進めて古い企業を潰すことにより日本経済を再活性化させる。
  • 国民に医療福祉を諦めてくれと説得し財政緊縮を進める。
  • このまま円安政策を容認し政府が経済を支え続ける。代わりに国民は「円安の痛みに耐える」

何か取捨選択をする代わりにその場その場で悪者を作りしのいできたのだ。

そんな中、「円安はさらに進み1ドル=150円も…日銀総裁交代を待つのではく4度目のサプライズを」というデイリー新潮の記事を読んだ。著者は藤和彦さんという方だ。経産官僚のエコノミスト2003年から内閣官房に出向しているという経歴なのだそうだ。

まず、150円という根拠はどの辺りにあるのだろうと注意して読んでみたが「みんながそう言っているよ」という言い方だ。

世界の主要な中央銀行がインフレ退治のために一斉に引き締めモードになっているのに日銀だけは量的緩和を続けていることから、「1ドル=150円程度の円安は十分にありうる」との見方が強まっている。

円安はさらに進み1ドル=150円も…日銀総裁交代を待つのではく4度目のサプライズを

それでも「政府の中の人」が何を言っているのかと期待して読んで行くと文章は「「君子豹変」ではないが、黒田氏が4度目のサプライズで円安を阻止するための大胆な政策を実施することを期待したい。」で終わっている。つまり今までと同じように日銀がなんとかしてくれないかと言っているだけの文章だった。

経産省サイドとしては景気対策を優先したい。だが仮にそれがうまくいかなくても財務省・日銀が悪いと言える。経産省にとっては非常に都合の良い展開である。

タイトルは「世論戦」としたのだが、現時点の「動機」はそれほど込み入ったものではないのだろうなと思う。自分たちのせいにはして欲しくないという気持ちにより結果的に世論が形成されて行くわけである。

藤和彦さんが黒田バッシングを煽っているとは全く思わないのだがどことなく「他人事」として扱っているように思える。つまり「政府」と言う一体になった何かがあるわけではなく、政府の財務省や日銀とか政府の経産省と言うような所属する官庁組織によって現在の状況に対する認識は変わるのだろう。

担当でない経産側の人たちは黒田総裁と日銀が魔法のように状況を「いいように収めてくれること」を期待している。だがそれが実現できなかったとしてもそれは日銀の責任であって経済を所管する人たちのあずかり知らぬところである。

ここから先も円安対策について様々な記事が出てくるのだろうが「誰が発言しているのか」と言うことは注意しておく必要があるのだと感じた。岸田総理が明確な意思を示さない限りこうした「マスコミ戦」がダラダラと続くことになるのだろう。

こういう状況に今のうちに慣れておく必要がある。おそらく参議院選挙が終わるとアベノミクスの継続か一部緊縮かという路線対立が出てくると思うからである。

今現在でも「財政再建を目指すべき」「現状の金融拡大を継続すべき」「改革を行うべき」という人たちが自民党の中に混在している。

岸田政権が財政再建に向けて歩み始めると仮定するならばかつて上げ潮派と呼ばれた人たちの反撃が始まる可能性がある。岸田総理は選挙前に経済対策を示すと言っているが実際の行動は人事など別のところに滲む可能性が高く「反撃」もほのめかすようなものになるのではないだろうか。

また菅元総理に近いグループも「選挙が終わるまで勉強会立ち上げは行わない」と言っている。党内が分裂しているとみられるのを避けるためにまずは選挙応援を優先する構えだ。つまり経済路線選択は選挙戦ではなく選挙後の世論を睨みながら進むことになりそうである。

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