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国民民主党と維新の連携はなぜ実現しなかったのか?

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紆余曲折があった国民民主党と維新の連携話が最終的に消えかけている。全体としては維新の松井代表に国民民主党が振り回されたという印象が強い。だがFNN(フジサンケイ系)は国民民主党の方にもかなり問題があったと報道している。一部の議員が先走り代表に重要な報告をしていなかったというのだ。

政党が選挙互助会になり政党としての成立・存続要件を満たしていないということがわかる、では「何が政党の成立存続要件なのか」という問題が出てくる。フランスの事例と比較してみたところ国民民主党は支持母体になる塊を作ることができなかったことがわかる。何らかの塊を作ることができないと持続的な政党を維持することは難しいのである。

ここから考えると、維新はしばらくは政党として存続することができるだろうがおそらく国民民主党は政党としては存続し得ないという結論になる。

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まず、今回の維新と国民民主党の連携の経緯について確認する。FNNが詳細に書いている。おそらく静岡の選挙区事情に危機感を募らせた榛葉賀津也(しんばかつや)さんが京都の前原誠司さんと連携して進めた話なのだろう。

前原さんが応援すべき京都の候補者は立憲民主党の福山哲郎さんだった。だが国民民主党は福山さんを応援せずに維新の新人を支持することに決めた。別に敵対するわけではなく勝手に頑張ってくれればいいと言っている。つまりこちらの連携は維新にとって都合の良い連携だ。一方前原さんも上り調子の維新に乗って「勝利」が狙えるのだから悪い話ではない。だが勝手に維新と組めば「選挙区事情で抜け駆けした」と思われかねない。

一方、静岡は前回立憲民主党新人と国民民主党の現職(これが2019年改選の榛葉さんなのだろう)が争い感情的なしこりが消えていないという事情があるそうだ。維新はここに独自候補を立てず国民民主党の候補を応援するという協定になるはずだった。だがこちらの話は維新にとってはトクにならない。勝手に国民民主党を応援しても見返りが得られない。

結局、今回の白紙化で京都の連携は残り静岡の連携は消えた。つまり維新にとって都合が良い展開だけが残った。つまりここまでを見ると前原誠司さんが立憲民主党を見限る口実を得ただけで維新が国民民主党を振り回したという感じにになる。

だがFNNは別の書き方をしている。前原さんと榛葉さんが玉木代表に大切な説明をしていなかったというのである。1は伝えたが2と3を伝えておらず、後でそれを聞いた玉木さんが慌てて再交渉しようとしたという話になっている。

  1. 国民民主党と日本維新の会は、夏の参議院選挙に向けて「静岡(選挙区)と京都(選挙区)の候補者を相互に推薦する」
  2. 企業団体献金の禁止などの身を切る改革の実行
  3. 政権交代を実現して日本再生のために尽力する

ここで重要なのは3を玉木さんが飲めないという事情だ。支持母体の連合は自民党・公明党の連立与党に接近している。企業献金は連合が自民党を支えるためには重要なツールになるだろう。つまり支持母体の事情で「全面的に政権交代を目指す」とか「企業献金を禁止する」などとは主張できなくなってしまう。

こうしたことは周知の事実だ。つまり、維新の側もこうした事情を織り込んでいたのだろう。つまりあらかじめ「相手が断ってくる」ことを期待していたのかもしれない。だがなぜか連携の話が進んだ。蓋を開けてみれば前原さんたちが玉木さんに報告をしていなかったことがわかった。

ではなぜ国民民主党はこのような厳しい状況に置かれてしまったのか。そもそも小選挙区制度なのだから小さな政党は成立しないのではないかと考えたくなる。だが、そうでない国がある。それがフランスだ。

フランスは小選挙区制度のもとで諸派が乱立する傾向にある。もともと右派が強かったのだが社会的な行き詰まりから人々は一旦左派に期待した。だが左派が新自由主義に走ったため既存の支持者たちが離反する。ここまでは社会党が自民党に接近したという事情に似ている。日本の場合は経済政策ではなく安全保障(特に自衛隊の存在の是非)が社会党を動揺させその後の崩壊につながった。

結果的に躍進したのは左派から分離した新自由主義者だった。EUの中核にありある程度経済成長しているという事情がある。日本はデフレとは言わないまでも低成長が続いたためこうした躍進がなく古い体質を持った自民党が温存された。またかつて改革派だった左派リベラルも溶解した。フランスと違って日本には経済成長がなかった。まず、ここが違っている。

しかし、フランスはその次の段階を進んでいる。2022年の大統領選挙では右派と左派から大勢の離反者が出た。これを踏まえて「次の国民議会選挙はどうなるのか?」というのが現在の展開になっている。新自由主義的な経済成長についてゆけていない層が現れたのである。ではそれはどんな人たちなのか。

まず、最初に読むのはWeb論座の記事である。フランスは今三極構造になっている。

フランス社会の「第三極」が大統領選のカギを握る~メランション派はルペンを支持するのか
というタイトルがついている。

フランスは1970年代末から保守と穏健左翼の対立を中心に政治が展開してきたのだがどちらも沈没したという分析になっている。この結果二極構造が三極に再編された。

  1. EU支持の新自由主義・進歩路線(現在の与党):富裕層、高齢者、高学歴層はここを支持している。富裕層の多い首都中心部とグローバル化の影響を受けていないフランス西部やブルターニュは現状維持という観点から却ってマクロン支持が強い。
  2. 民族主義的な自国中心主義者:中所得者・低所得者に支持が多い。中所得者といっても普通のサラリーマンがこの層に入っている。ルペンの支持基盤は「脱産業化」が進んだ東部だった。いわゆる「周縁部のフランス」だ。
  3. 多文化主義的な左翼:中所得者・低所得者に支持が多い。中所得者といっても普通のサラリーマンがこの層に入っている。メランション支持は大学のある地方都市と移民が多いパリ郊外での得票が高い。

ではなぜ経済成長についてゆけている人たちとついてゆけていない人たちという二極にならなかったのか。次に日本には存在しない欧州の新極左とは。(3) EUの本質や極右等、欧州の今はどうなっているかを読む。

グローバリズムについてゆけなかった人たちは「自国中心主義・自文化中心主義」を唱えたい。つまり回帰する何かが欲しい。だが移民の子孫たちは「フランス人中心主義」の枠に入ることができない。知識人たちも偏狭な自民族主義には賛成したくない。そこでメランション氏のような多文化主義の新左翼に流れることになる。つまりフランスには外から入ってきた移民や自民族中心主義に乗れない知識階級のフランス系がいる。日本にはこれもない。

つまりフランスで政党を形作っているのは経済成長に伴う変化とアイデンティティ(自己認識)だ。

維新は「日本の不調を東京のせいにしたい」という力が働きかろうじてアイデンティティが維持されている。「関西はうまくやっているが東京がモタモタしているせいで日本はジリ貧である」といえる。つまり不利益の分配を逃れることができるという動機がある。

だが国民民主党を支える連合は労働者のごく一部の利益代表であって地域の労働者の代表ではない。そもそもアイデンティティ分化がなく経済成長によってもたらされた経済的変化もない上に連合は単に生き残りを図っているだけの存在で誰の代表でもないのだから国民民主党は政党として存続し得ない。残るのは議員たちの選挙互助組織としての役割なのだがこれは有権者には何の関係もない。

そう考えると実は「国民民主党には最初から政治的ニッチはなかった」ということになる。

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