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イギリス当局がロシアが5月9日に宣戦布告するのではないかと警告

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常任理事国のロシアが自ら隣にある主権国家に侵攻し国連事務総長が訪問しているキーウにミサイルを打ち込むという悪夢のような事態が起きた。ある意味「第二次世界大戦の戦勝国が戦後の国際秩序維持主導する体制」が崩壊したということを見せつけられるような事態だ。そればかりかイギリスの国防大臣が「ロシアが5月9日に宣戦布告するのではないか」という観測を出したと共同通信が伝えている。

今の所は単なる憶測を伝聞したものなのでこれで慌てる必要はないと思うのだが、仮にこんなことが起きてしまうと国際秩序は根底から大きく揺らぐことになる上に「全く可能性がない」とも断定できない。それくらい最近のロシアの行動は予測が難しい。

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共同通信の記事は短い伝聞記事で、内容もイギリスの国防大臣がラジオで「宣戦布告して総動員をかける可能性がある」という観測を述べたという単にそれだけだ。検索してもこれについて伝える記事はあまり見つからない。かろうじてINDEPENDENTの記事を見つけた。こちらは国防大臣ではなくofficials(当局)が警告したという書き方になっている。

In seeking “payback” for Moscow’s losses, top army officials are reportedly imploring the Russian leader to replace his “special military operation” tagline with a cry of all-out war, which would permit the Kremlin to drum up the mass-mobilisation of its population.

Putin ‘to declare all-out war on Ukraine on Russian Victory Day’, officials fear

内容を見ると「可能性がある」とか「当局者が恐れている」という書き方になっている。つまりこの時点ではまだ「事実」と呼ぶには程遠い内容である。ロシア軍が見返りがないことに苛立っておりロシアのリーダーに「特別軍事作戦」を「総動員(mass-mobiiisation)」に格上げしてほしいと懇願(imploring)したという内容になっている。

つまり、宣戦布告と総動員はそれぞれ別の事象であるということがわかる上に実際に宣戦布告があったとして「誰に対して」布告するのかという点はよくわからない。さらに国防大臣と当局という主語の違いもある。その意味で共同通信の報道内容には精査が必要だ。

だが「実際に宣戦布告」が行われた場合にはどうなるのかという問題は残る。まず、そもそも誰や何に対して何の宣言をするのかという問題がある。例えば、国際秩序を率先して維持する責任を負っているはずの安保理常任理事国が国際秩序に対して正面から異議を唱えるということになればこれはかなりの異常事態だろう。

ただし国際社会はこの異常事態を想定して動き始めている。

ブリンケン国務長官が上院の公聴会でオーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国がNATOの会議に出席すると証言したというニュースがあった。首脳会議なので総理大臣クラスの出席が検討されているということになる。松野官房長官は「話は聞いているが何も決まっていない」と言及した。日本にとっては重大な決断だ。話の進み具合によっては日本が置かれている国際的な立場がかなり変化する可能性がある。もちろん今の状態では「単なる頭の体操」でしかないのかもしれないが可能性としては考慮すべき時期に入りつつあるということなのかもしれない。

では国連が機能を失ってしまった世界や国際社会が関与しなくなった地域はどうなるのか。それがわかる事例がある。アフガニスタンだ。

イスラム圏は日本では断食月として知られるラマダン期間だった。今年は4月1日から30日までがラマダン期間に当たるのだが最近は過激派が攻撃を激化させる月になっている。当然アフガニスタンでも情勢が悪化した。ところがアフガニスタンには国際的に認められた政府がない。そうなると国内の過激派だけでなく周辺国の軍隊から攻撃を受けることになる。各勢力が入り乱れ自分の身は自分で守らざるを得ない状況だ。こんな国で落ち着いてビジネスなどできるはずはない。

BBCが4月22日にまとめたところ21日に相次いで爆発があり合わせて100人を超える死者が出たそうだ。

  • マザリシャリフのシーア派モスク:少なくとも31人が死亡し87人が負傷:ISが犯行声明を出した。
  • クンドゥズの警察署近くで車両一台が爆破:4人が死亡し18人が負傷:ISが犯行声明を出した。
  • ナンガハル州でタリバン車両が地雷と接触:メンバー4人が死亡し5名が負傷
  • カブールで地雷により子供2人が負傷

マザリシャリフで狙われたのはハザラ人だった。モンゴル系の顔立ちだがイラン系の言葉を話す。宗教もイラン寄りのシーア派だ。このため非イラン系のイラン語を話すアフガニスタンの主要民族からは差別の対象とみなされている。つまりISは主流派を攻撃する代わりにこうした差別の対象になっている人たちを攻撃している。

ところがこれとは別にパキスタンとアフガニスタンの間でもいざこざが起きている。アフガニスタンからの武装勢力がパキスタン側に攻め込んでいる。パキスタンはアフガニスタンになんとかするように対処を求めたのだがアフガニスタン側が対応しなかった。そこでパキスタン側が空爆を行い民間人41名が殺され22人が負傷した。

このようにアメリカ撤退後のアフガニスタンは無秩序な状態が定着している。国連安全保障理事会は3月に「アフガニスタンで正式な支援活動を継続する」という決議案を出した。採決は14カ国が賛成した。ロシアは拒否はしなかったが賛同もせず採決を棄権した。自らが紛争当事国担っているのだから他国の情勢に対して国連と協力しようという気にはならないのだろう。

ノルウェーの国連大使は「アフガニスタンの平和と安定にとってこの採決は極めて重要」と意義を強調したそうだがロシアとの対応を見ているとどれくらいの実効性があるのかはよくわからない。公式には国際的に認められた政府のないアフガニスタンだが国連はそれを無視することもできない。このため支援活動を継続せざるを得ない。しかし支援を継続すると言っても政権は承認されておらず常任理事国の一つであるロシアもこれに関与しない。

BBCが悲惨な状況をまとめた後でも事件は起きた。ラマダンの最後になって首都カブールのモスクが襲撃され50名以上がなくなった。こちらはスンニ派のモスクで自爆攻撃の可能性が高いそうだ。28日にはマザリシャリフでもミニバス2台が爆発し少なくとも11名が死亡し17名が負傷しているのだという。

これが「国連なき世界や地域」が行き着く状況である。国連はなんとか踏みとどまってはいるがこの状態がいつまで続けられるのかと考えると見通しはかなり暗いのかもしれない。

主権国家体制は諸国民が自由に通行し安全に商売ができるようにという願いの元に設計されている。つまり主権国家体制は単一市場化の大前提になっている。

日本に「単一市場」が実現したのは織田信長から豊臣秀吉を経て徳川家康ごろまでの時代である。戦国時代にはお互いの「国」を行き来するのも難しかったのだが徐々に共通の計量システムや通貨などが整備されてゆき貿易が盛んになった。

ヨーロッパも同じ時期に日本と似た様な環境整備が行われた。こちらは三十年戦争(1618年〜1648年)の結果ウエストファリア体制と呼ばれる主権国家体制が作られた。この総仕上げがEUだった。EUはヨーロッパでは国際紛争の原因となっていたフランス・ドイツの国境沿いの鉄鉱石や石炭を共同管理するという体制が元になっている。

ところがこうした体制は今や風前の灯だ。通商の自由が妨げられ軍隊や武装勢力が入り乱れて縄張りのために闘争を繰り広げる「単一市場についてゆけない部分」が世界には増えている。ついにその「部分」の一つに常任理事国の一つが加わりつつあるというのが現状だ。

これまでのように「世界は一つの市場であるべき」というグローバリズムを推進すべきなのか、それとも「戦国時代に戻りたい国はどうぞ戻ってください」とついてゆけない国や地域をグローバルな空間から切り離すのかという難しい選択を迫られている。切り離したとはいえ大きな壁が作られるわけではない。北海道から見える地域にもその「部分」が展開している。

建前上は軍隊を持っていないはずの日本が集団自衛の仕組みであるNATOに政治的なコミットをしてしまうと自動的に軍事的にどの枠組みでどういう貢献をするのかという議論が始まってしまう。すると当然「部分」からの反撃も予想されるのである。つまり「何も決めない」ことで大きな決断をしたことになってしまうかもしれないということになる。

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