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日経新聞は今回の「悪い円安」をどう見ているのか?

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前回は日銀が長期金利抑制を優先し円安対策をしなかったことで円安が進んだという記事を書いた。この時に「どれくらい批判的なトーンにしようか」と考えたのだが、結局あまり非難しないことにした。

だが、これはどうなのだろうと考え「答えあわせ」として日経新聞のまとめを読んでみることにした。日経新聞は全般的に「何もしない政府・日銀」という姿勢をにじませている。個人批判・組織批判を避けつつ問題を滲ませるという独特のトーンだ。専門紙だからわかりにくいのかと考えTBSの解説も当たってみたのだが「市場に任せて漂う姿勢の怖さ」には言及してはいるものの「誰がそういう状況を作ったのか」については書いていない。

日経新聞もTBSも「この悪い円安」には対処が必要だとは感じているようだが、誰が何をやるべきか、誰がどういう責任を取るべきなのかについての言及は避けている。

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まず経済部長高橋哲史さんという人の解説記事である。購読には登録が必要だ。まず前段で鈴木財務大臣がイエレン財務長官に「何とかしてくれるように期待した」がイエレン財務大臣は何もしてくれなかったと書いている。

それに続いて次のような説明がある。内容はかなり要約した。

  • 28日の金融政策決定会合で指し値オペを毎日実施すると決めた。円相場は下落し一時20年ぶりに1ドル=130円台の安値水準に沈んだ。
  • 背景には財政への配慮がある。日銀が金融緩和を縮小すれば政府の金利負担が一気に増える。財務省の試算では、国債の元利払いにあてる国債費は金利が1%上がれば3.7兆円膨らむ。
  • 鈴木氏(財務大臣)が「悪い円安」を口にしても金利の上昇は日銀に封じ込めてもらいたいのが本音だ。財政を健全化する努力を怠ってきたツケが悪い円安となって噴き出してきた。

財政拡大と円安対策は両立しないことはわかっているが両方を日銀にやってもらいたいのが本音だというようなことが書かれている。

ではアメリカが何もしてくれないのがいけないのか?ということになるのだが日経新聞はそうは書いていない。鈴木財務大臣が決めないのが問題だというほのめかしまではやっている。だが政府批判は避けたいと考えたのが日経新聞はこれを自分たちの主観としては書いていない。そこで「イエレンさんの気持ち」になって「日本が積極的に何かしているとアメリカは思っていないだろうから」「円安が止まらないのだろう」と観測するという体裁になっている。推測なのでイエレンさんへの取材はしていないのだろう。

イエレン氏は先輩のコナリー氏にならって「問題はあなたたちにある」と言いたいのではないだろうかという文章で終わるのだが「問題は日銀と政府にある」と言いたいのは日経新聞だろう。

なかなか政府批判は難しいのだろうなということがわかる。

別の記事を読んでみよう。鈴木財務大臣・財務省は何もしていないということを際立たせている記事が見つかった。こちらは助詞を使って文学的に思いを滲ませている。「4月26日までの円買い介入ゼロ、財務省発表」というタイトルがついている。円安介入が最後に行われたのは1998年だそうだが最後は「鈴木俊一財務相が「どちらかと言えば悪い円安」と発言するなど、口先介入は強めている。」とまとまっている。口先介入「を」強めているではなく口先介入「は」強めているとなっているのだ。反語的に「口先だけで財務省は何もしていないではないか」と言いたいのだろう。

ではこの円安はそのまま放置すべきなのか。もちろん日経新聞はそうは思っていない。「円安はデメリット」中小の5割超 日商調査という記事があり、徐々に「円安の影響があるかわからない」と言っていた会社より「デメリットがある」という企業が増えていることがわかる。

デメリットが大きいと答えた企業があげた具体的な影響は「原材料、部品、商品等の仕入れ価格の上昇に伴う負担増」が80.7%で最多だった。「燃料・エネルギー価格の上昇に伴う負担増」が73.6%、「仕入れコスト上昇分を販売・受注価格へ転嫁できず収益悪化」が48.5%などと続いた。

このようにいくつか記事を読んでみても一体誰が何をどうすべきかと考えているのかが掴みにくい。これは日経新聞という専門紙を読んでいるのが悪いのかもしれないと考えてTBSの解説を探して読んでみた。結論からいうとTBSも政府財政の問題についてまでは触れているのだが誰がどんな責任を取るのかという点については言及を避けている。

記事は「ついに130円台まで円安加速、なぜ日銀は政策変更しないのか」というタイトルである。反語表現になっているので「日銀は政策変更すべきだ」ということなのだろう。

  • 日銀の政策決定会合の後で円安が加速した。円安が進んでも政策は変えないという宣言だったからだ。
  • 念願の物価2%上昇にほぼ近づくにも関わらず、頑なにまで政策を変えず、金利を抑制し続けている。
  • 日銀の説明によると政策を変えなかった理由は二つある。賃金上昇の伴わない一時的な物価高でありコロナ前と比べると需給ギャップも存在する。
  • ただ日銀は本音では長期金利の上昇を認めると歯止めがかからなくなると恐れているようだ。
  • 今や最終兵器の指し値オペで無理矢理に金利上昇を押しとどめている。ここで金利政策を変更すると市場から催促されるままに金利を上げなければならなくなってしまう。

つまり「日銀が追い込まれており」長期金利を抑えるために悪い円安を含むあらゆる副作用を甘受しなければならなくなっているのではないかとの取材の基づいた確かさのある観測が書かれている。

ただしここでも「最終的にこれが誰の判断であり誰が責任を持つべきなのか」という点はぼやかされている。このため最後の文章が非常にわかりにくい。

長期金利が上がって一番影響を受けるのは、最大の債務者である政府です。国債の金利負担が急増すれば、財政が持たなくなってしまいます。もちろん、そうしたリスクが目先の政策変更で直ちに現実になるわけではありませんが、日銀は市場に委ねる怖さを感じていることでしょう。黒田総裁の就任以来9年、大規模緩和政策で「国債市場は死んだ」と言われるほどに、市場が自律的に価格(=金利)を決定する機能は著しく弱められました。市場機能を失わせたツケが、日銀に回ってきていると言えるかもしれません。

ついに130円台まで円安加速、なぜ日銀は政策変更しないのか

今直ちに問題が起こるわけではないが「怖い」と書いている。だが怖さを感じているのはおそらく日銀ではなくこれを書いている記者だろう。外的環境が変われば日本の金融政策が成り立たなくなり政府財政が影響を受けるからである。

おそらくこれを書いた人は長期金利の上昇が管理不能になると日本の財政がかなり難しい状況に置かれるであろうことまでは想像している。具体的には医療や福祉などが影響を受けることになるだろう。ところが選挙が間近に迫っていることから政府批判は展開しにくい。このため日経新聞だけでなくTBSも「これは政府の判断の結果である」と言及することを避けている。

これがこの手の経済ニュースの「わかりにくさ」の理由になっているのだろうと思う。

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