ざっくり解説 時々深掘り

フロリダ州の小学校で「性自認」についての議論が禁止される

カテゴリー:

アメリカ合衆国というと「表現の自由」が保障され誰でも好きなことが議論できるという印象がある。だがそれは昔の話のようだ。フロリダ州では「小学校では性的指向について話し合ってはいけない」という法律が作られた。多様性を抑圧する動きに全米から批判が高まっているがデサンティス知事は考えを改めるつもりはないようだ。教育現場や子供達がイデオロギー闘争に巻き込まれるだけでなくこれに抗議したディズニー社が「特権」を取り消されるという事態にまで発展している。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






フロリダ州で小学校での「性的指向の議論禁止」法案が可決されるらしいとニュースになったのは2022年2月のことだった。BBCが伝えている。民主党が政権を取る連邦政府が批判しているところから共和党と民主党の分断が背景にあることがわかる。つまり大人のイデオロギー闘争の一環だ。記事によるとデサンティス知事は「こんなことを教える代わりに科学、歴史、公民」など役に立つことを教えるべきであると主張したそうだ。

ただ記事は「学校で教えてはいけない」と表現されておらず「話題を避けるべき」となっている。つまり小学校で自分の性指向について聞いたり話し合ったりしてはいけないというように読み取れる。つまり、法案は性的な多様性を否定する内容になっている。多様性への批判が小学校を標的にしたと言える法律である。

おそらく共和党を支持する人たちは「世の中でおおっぴらに性的指向を話し合うことで同性愛が推進される」と考えているのだろう。「同性愛社推進禁止」法案として過去に導入された実績もあるという。

ディサンテス知事の狙いは単なる性的多様性の抑圧にとどまらない。

リベラルなCNNが算数の教科書の41%が不採択だったという記事を書いている。教科書の数は50種類以上になるという。知事は「様々な理由で採択されなかった」と主張するがCNNが注目したのは批判的人種理論に対する抑圧である。日本では聞きなれない言葉である。

人種差別は社会や法律などに組み込まれており人種差別の反対する人はそれを批判的に見つめなければならないという教育理念だ。ヨーロッパ系(いわゆる白人)たちの中には「アメリカ合衆国は潜在的な人種差別国家である」という非難だと受け取る人がいるのだろう。だが普通に考えて「算数を教えるのになぜ人種の問題が出てくるのだろうか?」という疑問が湧く。

さらに41%もの教科書が「間違っていた」と判断されるということは実は間違っているのは検定をしている側なのではないかとも思える。

いずれにせよアメリカの多様性をめぐる議論はこのレベルで過熱しており収まる気配がない。性的自認や人種などについて様々な意見を戦わせ自分らしく生きる権利を主張したい人たちと安定的だったかつてのアメリカ社会を取り戻したい人の間に大きな亀裂が生じているのである。

小学校の教育というのはそのためのシンボルだとみなされており教育が大人たちの争いの道具になっていることがわかる。つまり教育そっちのけで大人たちがイデオロギー闘争をしているというのが現在のフロリダ州の現実なのだ。

いずれにせよこの性的指向などを話題にしてはいけないという法律は3月29日に可決された。フロリダ州では人種や性的マイノリティに対する逆風が吹き荒れているということがわかる。NHKの記事には「子供達がなりたいものになれるなどと教えるのは間違い」だという知事の発言を伝えている。性というのは神様が事前に決めるものであって「自分でなんとかできるものではない」と言いたいのだろう。日経新聞はバイデン政権側の批判を書いている。性的マイノリティの子供達を傷つける法案だという。

だが、冷静に考えてみれば「大人たちのイデオロギー闘争」の犠牲になるのは「自分は他の人と違っているかもしれない」と考える子供達である。すでに政治的に加熱しているのだからうっかりそんなことを話そうものなら「お前は異常者なのだ」などと言われかねない。正解がわからない中で様々に思い悩む子が増えるのだろうと考えると胸が痛む。

フロリダ州といえばディズニーのテーマパークが有名である。ウォルトディズニー社はしばらくこの問題について触れてこなかったのだが「なぜ黙っているのだ」と批判が殺到した。

ついに「フロリダ州の議員への献金をやめます」と宣言するとフロリダ州は優遇税制を取り消すという「特別区制度廃止」法案に署名してしまう。つまりウォルトディズニー社に報復したのである。

ただ、ディズニーはパーク内のゴミ収集・水道などの公共サービスを自前でまかなっていた。こうした資産や負債は全て周辺自治体が継承することになるそうだ。水道などの資産が自治体に戻ってくるのはいいことのような気がするのだが「運営費も負担してください」ということになりかねない。AFPは次のように書いている。

同州のリンダ・スチュワート(Linda Stewart)上院議員(民主党)は20日、「特別区を廃止すれば、20億ドル(約2600億円)のディズニーの負債を納税者が負担することになるかもしれない」と警告していた。

フロリダ州では加熱するイデオロギー闘争に教育だけでなく夢の国も巻き込まれてしまったということになるわけだが、その負担をさせられるのは地域住民である。おそらくフロリダの有権者にとっては重要なことなのだろうが外から見ていると「一体何をやっているのだろう?」とどうしても考えてしまう。

参考文献

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です