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FRBパウエル議長のタカ派砲はなぜ不発だったのか?

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日本の円安について考えるとどうしても「アメリカは日本の立場に共鳴してくれるのだろうか」と考えてしまう。だがアメリカの当局者の頭の中は過熱するインフレ対策でいっぱいのようだ。秋に予定されている中間選挙に直結する重大な課題だからである。パウエル議長はこのインフレのペースを抑えようとタカ派発言を繰り返しているが効果が出ていない。金融関係者があまりパウエル議長の発言を信用していないからである。なぜパウエル議長が信頼されていないのかを調べてると意外なことがわかった。実は去年は「インフレ対策など必要ない」と言い続けていた。対応が180度変わったことになり「これでは信頼されないだろうな」と感じた。

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タカ派発言とは必要以上に金融引き締めを誘導する発言を意味する。中央銀行がタカ派発言を繰り返すようになると、資金を持っている人たちはボラティリティの高い投資を諦めて安全な資産に移る。つまり株や新興国への投資が手控えられることになる。投資家にとって好ましい動きとは言えない敵対的な発言のため「タカ派」と呼ばれるようだ。つまりタカ派発言の狙いは「経済界・金融界」を脅かしてマインドを変えることにあると言って良い。

今回のパウエル議長のタカ派発言は株式市場に警戒感は与えているものの実際のインフレ抑制にはつながっていない。発言が曖昧な上に「これまでも何もやってこなかった」という批判があるためであると経済紙の記事は伝えている。

先日パウエル議長は「政策金利を0.5ポイント引き上げることも選択肢の一つにする」と発言しその真意が憶測されてきた。仮にすぐに長期金利が上昇すれば円安はますます加速し株式市場からは資金が逃避することになるだろう。円は最近の金利差を織り込んでいるため動かなかったがニューヨークダウは一時1,000ドル以上も値を下げたそうだ。

ところがパウエル議長がタカ派発言を繰り返しても経済界はインフレを予測し続けている。つまり経済界はパウエル議長の発言を信用していない。

ブルームバーグの記事は「パウエル議長が発言してもインフレが収まらないのはアメリカの金融業界がこれまで何もしてこなかったからである」という関係者の声を伝えている。

確かにパウエル議長の曖昧な発言の背景は理解できる。インフレがピークアウトしているという予測があるからだ。フォーブスは3月の食品とエネルギー価格を除いたコアCPIが低下したことから「インフレは徐々にしぼみつつある」という観測がある。ただし原油価格高騰と食品価格高騰による物価上昇は続いている。これらは金融政策の帰結ではなく活発な経済活動の結果でもない。このため区別をして考えなければならないのだが一般の生活者にとっては単に値上げと認識される。アメリカは急速な景気過熱がウクライナ危機による物価高に置き換わるという状態になっているようだ。

ではなぜ経済界はパウエル議長の発言を信頼しないのか。これを考えるためには時計を少し巻き戻す必要がありそうだ。

2021年2月に朝日新聞が「米FRBパウエル議長、サマーズ氏のインフレ懸念に防戦」という記事を書いている。サマーズ元財務長官が「バイデン政権での経済刺激には高いインフレのリスクがある」と批判したがパウエル議長は「その批判は当たらない」と防衛していたのである。

確かに当時のアメリカでは1000万人程度の失業者がおり景気対策は喫緊の課題だった。だがパウエル議長の見立ては「確かに好景気への期待はあるが力強さに欠く一時的なものだ」と評価していた。これは今の黒田日銀総裁と同じような観測である。4月にはブルームバーグが「パウエル議長、米経済の再建誓う-インフレ懸念はあらためて否定」という記事を出している。ロイターの別の記事では「テーパリングを開始するにはそれ相応の時間がかかる」と表明していたと書かれている。この頃から経済界・金融界はパウエル議長の現状分析を疑い始めていたようだ。景気回復の兆しがそこここに見られるようになったからである。

アメリカの景気が急速に停滞から過熱へと転じたことがわかる。だがパウエル議長は発言を展開するきっかけを失っていた。

10月になってもパウエル議長は「早期利上げには否定的」であった。この頃にはすでにインフレが顕在化しており「バイデン大統領は何もしていない」という悪評が立ち始めていた。2021年10月の日経の記事は「物価高「22年にかけて続く」 FRB議長、即時利上げ否定」となっている。この物価高は一時的なものであり好景気の継続には至らないだろうとの立場を変えていなかった。

これが変わったきっかけがロシアのウクライナ侵攻だった。2022年3月14日の記事では「「利上げのライセンス」手にしたパウエル議長、0.25ポイントで開始へ」とトーンが変わっている。すでに金融引き締めに転じていたと書かれているのだが、ロシアというわかりやすい「原因」ができたことで政策変換が容易になったのである。

ではパウエル議長は一体何を守ろうとしていたのか。経済紙の記事をつまみ食いしただけではよくわからないのだが、バイデン大統領の一般教書演説にそのヒントがありそうだ。

バイデン大統領は一般教書演説ではウクライナ侵攻で声高にロシアを非難し続けた。一方でインフレ対策については「高騰する消費者物価の抑制」に重点を置くと表明したものの、最低賃金抑制ではなく企業にコスト削減を求めると表現した。さらに具体的なインフレ抑制策は示さなかった。

サマーズ元財務長官らが指摘するように今回のインフレの原因の一つはビルドバックベターなどの積極的な経済刺激策と最低賃金引き上げに見られる賃上げ政策である可能性が高い。つまりバイデン大統領はインフレ期待を煽り過ぎてしまったのである。

一度方向性が見つかると火はひとりでに燃え広がった。パウエル議長はバイデン政権を擁護するために目下のインフレを否定し続けるしかなかった。政権もFRBも「このままではまずい」ということがわかっていたところにウクライナ危機がやってきたためこれを利用することにしたのかもしれないという。

だが人々はすっかりバイデン政権を信頼しなくなってしまっている。このため政権の支持率は比較的低い水準で推移しており好転の兆しが見えていない。

ロイターによる直近のバイデン政権の支持率に対する分析は次の通りだ。

  • 火曜日に完了したロイター/イプソスの世論調査によるとジョー・バイデン米大統領の国民支持率は今週2ポイント上昇し43%になった。
  • 高いインフレとロシアのウクライナ侵攻に苦しむバイデン氏の職務遂行に51%のアメリカ人が不支持を表明している。
  • バイデン氏の支持率は(2021年)8月以降50%を下回っている。
  • 11月8日の中間選挙で共和党が1つまたは両方の議会を制するとバイデン大統領の法案が議会を通らなくなり政策実現が難しくなる。

日本は岸田総理が「新しい資本主義」を訴えても誰も経済を動かそうとはしない。人々はその場しのぎとも言える経済対策にしか期待しなくなっている。だがアメリカはバイデン大統領の刺激策にやや過剰に反応し景気が過熱している。つまり日本とアメリカでは政策に対する反応が真逆になっているといえる。

いずれにせよ日本でもアメリカでも金融対策はあくまでも側面支援に過ぎない。政策と連携が取れていなければ薬になるはずだったものが毒に変わってしまう。さらにタイミングを間違えると市場は金融政策の声を無視するようになり独自に動き始める。飼いならされた馬のように見えていたものは実は野生馬だったということになってしまうのだ。

参考文献

直近

パウエル議長がインフレを否定していた頃の記事

バイデン大統領

バイデン米大統領、初の一般教書演説 プーチン氏は大きく誤算と

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