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日本政府の口先介入の効果は限定的になりつつある

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日本政府は口先介入によってゆきすぎた円安を制御しようとしてきた。当然行動が伴わない動きに効果はなく一時129円台まで円が下落した。日銀はそれでも指し値オペをやると宣言したためさらに円安が進むのではないかと考えられたのだが129円を境に円が買われる動きは出た。円の下落が止まってよかったと思ったのだが肝心の「指し値オペ」の効果が出ていない。つまり市場における長期金利が上がりつつある。こうして「口先介入」を繰り返しているうちに市場は独自の動きを取るようになり先が全く読めない状態に突入しつつある。

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チャートを改めてみると2022年3月初旬のドル円相場は114円台だった。これが3月から徐々に上がり始め一時129円まで下落した。この記事を書いている時点では127円後半といったところだ。

人々は口々にもう150円だとか日本円の紙くず化だなどと騒ぎ出す。実際には金利差が開いているからこういう動きになっているだけなのだがかなりの危機感を持っている人たちもいることがわかる。

円が売られ過ぎてゆくうちに「これはさすがに行き過ぎなのではないか?」とか「自分は高く書い過ぎたのでは?」とババ抜きのような状態になる。今回の円安沈静化の理由はよくわかっていないようなのでとりあえず心理的な壁が130円のあたりにあるということはわかる。

金利があげられない原因は膨らむ日銀のバランスシートなのだそうだ。2018年ごろから関連した記事が見つかる。現在の日銀の資産は700兆円を超えておりそのうち500兆円以上は国債である。日銀はこうした資産からの収入を儲けにしている。ただし収入を得るためには費用が必要だ。銀行が日銀に預けている当座預金の金利は銀行から見れば収入だか日銀にとっては費用ということになる。現在500兆円以上が銀行から預けられているがその金利は低く抑えられている。

2018年ごろからの記事を見ると「インフレが起きると日銀は対策のために当座金利の利息を上げざるを得なくなる」などと書かれている。国債の金利は簡単にあげられないためしばらくの間は「逆ザヤ」が起きるとされている。

例えば当座預金の金利を1%にすると378兆円の当座預金でで3.7兆円の金利となると2018年の記事には書かれている。現在は500兆円以上の負債を持っているのだからその金利は5兆円以上ということになる。2018年の日経新聞の記事は2022年度に2%の物価上昇が起これば24年度からの損出は7年間で19兆円になると試算されておりこの流れは以前から予測されていた。日銀には自己資金は8兆円しかないので誰かがそれを補填しなければならなくなる。つまりこれをどうするのかを考えるのが「日銀の出口戦略」なのである。

現在議会も政府も出口戦略の議論をしていない。だから日銀はなんとかしてデフレ抑制策を続けなければならない。そのため目の前でインフレが起きても「これは悪性のインフレであって黒田総裁が望んできたインフレではないのだ」と言いつづけるしかないという状態になっている。

出口戦略さえ出せれば悲観する必要はないのだが、この議論がいつまでたっても始められない。それが「日本は終わりだ」論の根拠になっている。このため「もう日本にはハイパーインフレしかない」という声がTwitterなどでは聞かれる。例えば元参議院議員の藤巻健史さんは「日本円暴落論」を唱えてきたが、最近では円安とインフレはXデーの引き金になると警戒のトーンを上げている。

ところが識者の中には日銀と政府は一体であり国債というのは家の中の貸し借りに過ぎないのだから国債のことは考えなくていいと主張する人もいる。一体なのだから「いざとなれば税金を使って補填すればいい」と言うのだ。これを統合政府論という。山崎元さんはこの統合政府論を理由に日本政府はもっと財政支出を増やすべきであると主張する。つまり税金が取れるようになればいくらでも補填ができるのだからそれまで頑張れといっていることになる。山崎さんにとって見れば「今出口が見つからないのはアクセルの踏み方が足りないからだ」ということになるのだろう。確かに中途半端な政府支出はゾンビ企業への輸血という意味合いしか持たないため日本はいつまでたっても再活性化できない。こうして使い所を逡巡しているうちに自体は藤巻さんが「Xデーはいつか」というほど緊迫してきてしまった。

彼らの議論のどちらが正しいのかはよくわからないがとりあえず問題は起きていない。現実的には日本の金利は低く抑えられているからだ。つまり現状が低いままであれば「利子」という面倒なことは考えなくてもいいわけである。このため政府も日銀も「現状解釈」を繰り返し政策転換を行って来なかった。戦争や疫病といった特殊な状況も彼らに解釈する余地を与える。

実際に与党も野党もこの「何もしない路線」を選択しているので日本の有権者には選択肢がない。財務大臣は「このインフレは見方によっては悪いインフレであるが実際にどんなインフレなのかは日銀が決める」という。日銀総裁は任期が切れるまでの間「自分が考えているインフレとは違うインフレであるから問題ない」と主張する。

野党も「急激なインフレは問題なのだから本格的な補正予算を」と言い続けることになるだろう。どっちみち本格的な補正予算が組まれることはないのだがそれは野党の責任ではない。

ただし公明党の中からも「補正予算をきちんと組むべきだ」という強硬な声が聞かれるようになった。岸田総理は22日に経済対策案を発表する予定だが直前のすり合わせでも公明党の理解を得ることができていない。おそらく「財源の限界」を念頭にしつつも公明党との関係を壊すわけにはいかにというジレンマを抱えているのだろうがそれを口に出すことはできない。

ところがここにきて別の動きが起きている。アメリカもヨーロッパも金利が上がることが予想されている。そこで市中長期金利の上昇が起きている。日銀は円安でなく長期金利の上昇を抑えることを優先し異例とされてきた指し値オペをやったがあまり効果がなかったので「連続指し値オペ」を実行するそうだ。現在は4月21日から26日の間連続して実施すると宣言されている。指し値オペによって円が下落しなかったのは「指し値オペの効果は限定的で3月にほぼ全てでつつくしてしまった」と市場が読んだからだろう。

2022年4月19日のロイターは松野博一官房長官の「急激な円安は好ましくない」という発言を伝えつつ「ただ、こうした政府の方針はすでに何回も表明されてきたにもかかわらず、円安の進行は今週に入っても止まっていない」と言っている。つまり政府は単に好ましくないというだけで特に何もやってきていないし金融市場も特に気にしていないようであると分析しているのである。さらにアメリカ側も協調の動きは見せていないので「日本政府の口先介入の効果が薄れつつある」という記事も配信している。さらに日銀の指し値オペも3月ほどの効果はなかった。国際的につながっている市場は政府や日銀の思惑とは違った方向に動き始めていることになる。

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