ざっくり解説 時々深掘り

NATO加盟の意向がロシアに睨まれたウクライナと加盟しないと言いながらもNATOに協力してきたフィンランド

フィンランドがNATO加盟に向けて大きく前進した。これまでNATO加盟に後ろ向きだったプーチン大統領の「失点」の一つだ。フィンランドはヨーロッパ系の国ではないが加盟申請がなされれば加盟は比較的速やかに進むと考えられている。

NATO入りを熱望しつつも加盟が果たせなかったウクライナとNATO入りを避けてきたのに加盟申請があるとすぐに参加できそうなフィンランドでは境遇に大きな違いがある。この違いの原因は「フィンランド化」にある。実はフィンランドは現在ウクライナがロシアに要求されている「ロシアに都合がいい中立」を渋々ながら受け入れて来たという歴史がある。戦後の混乱で西側にあまり注目してもらえなかったことによる苦渋の決断だったそうだ。

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ウクライナはソ連から独立して30年しか経っていない。安全保障や経済投資を期待してヨーロッパに接近していたもののあまり貢献はしてこなかった。一方のフィンランドはソ連成立当時にロシアの勢力圏を抜け出しソ連に組み込まれることだけは避けることができた。しかし西側からはあまり注目してもらえず「ソ連の衛星国」と言われながら中立と民主主義を守ってきた。

フィンランドの軍事政策はかなり独特のものである。ソ連はヨーロッパが連帯してソ連に向かってくることを恐れておりフィンランドとの間に条約を結んだ。この条約によりフィンランドは軍事同盟に加入することはできなくなった。一方でソ連から警戒されることもなくなったため東・中央ヨーロッパと違い北ヨーロッパはソ連と西側という対立の影響を受けずに済んでいた。

しかし中央・東ヨーロッパとは違い共産主義の政権は作られず民主主義を維持し続けた。こうした体制をフィンランド化という。下手をしたら飲み込まれるかもしれないという緊張感から民主主義のレベルは高い。

色々な記述を読むと「フィランドでは反ソ連的な言動は自主規制されていた」という情報と「ソ連の言論的監視を受けていた」という情報がある。つまり具体的な規制もありそれがとにかく国境の向こう側を刺激してはいけないという心情につながっていたのだろう。

周辺国から対等に中立を認めてもらう「中立国宣言」と違いフィンランドの中立化は「相手の陣営に近づかないようにロシアが監視する」というものだった、相手が常に自分たちに逆らっていないのかということを常に監視していなければ気が済まないロシア人の疑り深さを示すエピソードである。単に軍事同盟が監視されるだけではなく言論についてもとにかくソ連を刺激しないことが優先されたのだ。いずれにせよこの政策の影響からフィンランドは本能的に反ロシア的な言動を避けるようになったと考えられているそうだ。

ソ連が崩壊すると「軍事同盟に入れない」という義務は履行する必要がなくなった。ロシアとの間の条約は改定されたもののフィンランドは「選択的に軍事同盟を受け入れない」という新しい路線に転換した。つまり長年フィンランド社会に根付いてきたフィンランド化政策を継続したのだ。だがNATOとの間に協力関係を結び普段から交流を積み重ねることにした。

ウクライナはロシアの影響から抜け出すためにNATOに頼ろうとした。一方、フィンランドはNATOに頼らず率先して協力することでNATO諸国の信頼を勝ち取ってきたことになる。さらにロシアに警戒されることがないようにロシアとの協力関係は維持し続けた。サンクトペテルブルグとヘルシンキの間には高速鉄道が作られ「ロシアとフィンランドの友好の証である」と考えられていた。

これが変わるきっかけになったのはロシアのクリミア半島併合である。

フィンランドはソ連からの独立後に宣戦布告なくソ連に侵攻された歴史がある。この時の戦争ではカレリア半島の割譲を余儀なくされた。ソ連やロシアとの間に領土問題を抱える国は一様にロシア人の貪欲な領土欲求に潜在的な恐れを抱いている。こうしてNATOとの関係を強化すべきであるという声は高まった。NATOとの関係を強化すべきであると主張するニーニスト大統領が再選されたがNATO加盟ににまでは踏み切らなかった。NATO入りがロシアを刺激するということをフィンランド国民が熟知しているからである。

だがロシアはウクライナに侵攻を始めた。フィンランドの世論は動揺しついにNATO加盟を数週間のうちに決断すると表明せざるを得ないところまで変わってしまった。フィンランド化政策によって「ロシアを怒らせることはやらない」という意識が徹底しているフィンランドにとってこれは大きな変化だと言える。こうしてプーチン大統領の軽率な決断はフィンランドを「壁の向こう側」に追いやることになってしまったのだ。

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