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韓国の与党共に民主党が「韓国の検察共和国化」を懸念

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韓国では5月10日に新しい大統領が就任する。文在寅政権も尹錫悦次期大統領も「平和裡の政権交代」を演出しようとしてきた。だがここにきて議会と次期大統領の対立が先鋭化している。

背景には文在寅政権が終わっても議会の与党であり続ける共に民主党と検察を背景にした尹錫悦次期大統領の対立がある。韓国の検察は「起訴権」だけでなく「捜査権」も持っている。権限が強いため文在寅大統領が大統領の地位を失った瞬間に報復があるのではないかと警戒しているのだろう。

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もちろん初めから怪しい動きはあった。もともと尹錫悦検察総長は任期途中で文在寅大統領に退任させられたと考えており政権に不満を持っている。さらに検察の中には依然「尹錫悦派」も残っているようだ。

最初の怪しい動きは尹錫悦次期大統領が検察時代の側近である韓東勳(ハン・ドンフン)氏を法務大臣(韓国では法務部長官と呼ぶそうだ)に指名したことから始まった。この韓東勳氏が誰を検察総長に任命するかに注目が集まっていた。

尹錫悦次期大統領は当然ながら検察の事情を熟知している。現在の検察総長に影響を与えないため人事に関する言及は避けてきた。ところが文在寅大統領側の共に民主党が「検察の捜査権と起訴権を分離する」法案を出したことで一気に緊張が加速した。金浯洙(キム・オス)検察総長が抗議の意思を示し検察総長を辞任してしまったのだ。

配慮する必要がなくなった尹錫悦次期大統領が人事について発表するのではないかということで注目が集まっている。人々の注目は自ずから「文在寅政権にどれだけ逆風が吹くのか」という点にあつまる。

韓国の政治は大統領が変わるたびに権力構造が大きく入れ替わるという点に特徴がある。これまで利権を持っていた人たちが権力の座を去ると強い権限を持った検察による捜査が始まる。政治からの妨害がなくなるからだ。そしてあたかも「王朝交代」のような粛清劇が繰り返されてきた。

ただ議会側の怯えはそれだけではないようだ。今回の政権交代は保守系与党の復権というより検察の内部について熟知した人物が大統領になり検察時代の側近を法務大臣に据えるという「検察権力の拡大」になってしまった。検察が政治に大ナタを振るっても誰も議会を守ってくれる人がいなくなってしまうのである。共に民主党が政権交代を目前にした4月に大慌てで検察改革の法案を通そうとしているところにその狼狽ぶりがうかがえる。

記事を読むと共に民主党の中にも「そこまでころつに牽制するのは如何なものか」という声があったようだ。後ろめたいことがなければ特に慌てる必要もない。

だが、韓東勳氏の法務部長官人事を「人事テロ」とまで言って反発しており「防衛のためにはやむを得ない」という声が大きくなっていった。韓東勳氏は法務大臣の権限に加えて民情首席と呼ばれる役職を兼務するものと言われている。もともと検察を熟知しているため「権力が集中する」とか「これでは小統領」だなどと批判する声があるそうだ。さらに今回検察総長人事が始まったことでさらにこの対立がエスカレートするものとみられる。

韓国は長年軍政が続いていたのだが検察権力が国民と結びつき民主化に成功したために「権力と戦う」という良いイメージを持たれている。今回検察総長出身者が大統領になることでその権力構造は大きく変わろうとしている。議会側は「人事テロ」とか「検察共和国だ」などと批判のトーンを強めている。だが政治家をあまり信頼しない国民の中にはおそらく検察には強い力を持って政治の腐敗を防止してほしいと考える人もいるはずである。そして次期大統領には前の政権に対する複雑な感情がある。

いずれにせよ、文在寅政権と検察権力が激しい対立を起こすだろうということはあらかじめ予測されていたのだから、その開始が早まっただけとも言えるのかもしれない。一度は検察総長を追われた男が大統領になって昔の恨みを晴らすというドラマのようなことが現実に起ころうとしている。

新しい大統領は5月10日に誕生する。尹錫悦陣営は朴槿恵元大統領も式典出席を打診したそうだ。尹錫悦新大統領を支える国民の力は依然少数野党だ。朴槿恵氏に同情的な人々の支持を集め議会のねじれを解消したいと考えているようだ。尹錫悦氏は元々の経緯以外にも「前政権批判を強めて共に民主党の勢力を削りたい」という動機があることになる。大統領選挙の後は議会選挙をにらんで議会と大統領との争いが激化することも予想される。

参考資料

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