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円安を受けた財務大臣と官房長官の「一歩踏み込んだ」発言

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4月13日に円が126円台に突入し20年ぶりと騒がれた。その後125円台に戻ったのだが予断を許さない状態である。そんな中、財務大臣と官房長官から「円安は好ましくない」という発言が出た。普段は為替相場について発言をしないのだから「これは踏み込んだな」と感じた。打ち手が限られる中で日本政府は難しい情報発信を迫られているようだ。

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普通政府の関係者は為替レートについて特別の言及をすることはない。この線に沿って教科書通りの発言をしたのが岸田総理だ。「為替の水準について私の立場からは申し上げない。それが常識だ」と言及している。理由はともかくこれが正解なのだろう。その意味からは財務大臣と官房長官の発言は「一歩踏み込んだ」もののように思える。

だが注意して読んで見るとほとんど何も言っていないというのも確かだ。

鈴木大臣は「大変問題がある」と言っている。現状認識を示したわけだが鈴木財務大臣の立場だと「ではどうするのですか?」と聞かれることになる。大臣は言及を避け「不用意な発言で為替相場に影響を与えてはいけない」と付け加えた。ここで常識の線に戻ってしまったのである。

松野官房長官も「円安は好ましくない」とした上で具体的な対策については触れず「注視してゆきたい」とのみ語った。

ただ、政治的には「問題があるのに何もしないのか」という反発も予想される。円安によりコストプッシュ型のインフレが起きかけているからである。燃料や小麦価格の高騰は国民生活の負担になることは間違いがない。目の前の物価高を何とかしろという声は野党から確実に上がるだろう。

ではなぜ岸田総理の「為替については発言しない」が常識なのだろうかと考えてみた。最初に思いついたのは、為替操作国認定という言葉だ。通商上は過度なドル高が好ましくないと考えるアメリカアメリカ合衆国は為替を低く抑えようとしている国を名指しして為替操作国に認定してきた。

日本は現在操作国認定は受けていないがアメリカ財務省の監視対象になっている。このため日本政府にとって為替発言はアメリカを刺激しかねないタブーの一つになっているのである。長く外務大臣だった岸田総理はこれがよくわかっているのだろう。

米財務省は3日、主要貿易相手国・地域の通貨政策を分析した半期為替報告書で、大幅な対米貿易黒字を抱える日本や中国を引き続き「監視対象」に指定した。意図的な通貨安誘導に厳しい制裁を発動できる「為替操作国」の認定はなかったが、該当する可能性のある台湾とベトナムに改めて是正を求めた。

米財務省、日中の監視継続 操作国の認定なし―為替報告

さらに「過度な円安は好ましくない」として何も行動を起こさなかった場合や何らかの行動を起こしたもののそれに効果がなかった場合、市場は「政府にも日銀にも打ち手はないのだ」と考えるようになる。戦争とまではいかないが政府の手の内を明かさないことで為替相場がゆきすぎた動きに走らないように牽制しているのである。

とはいえ政府の打ち手が限られていることも確かだ。先日も黒田日銀総裁が「金融緩和策の継続が正しい」と発言した。これがアメリカのCPIの発表と重なったことで20年ぶりに1ドルが126円台につけるという動きにつながっていった。

共同通信は日銀総裁「緩和続ける」発言後に円安ドル高加速という記事を書いている。あたかも黒田総裁が円安を引き起こしたかのような印象を与える記事である。政府が抜本的にこの状態を改善するためにはまず参議院選挙を終え経済対策を出した上で日銀総裁を交代させなければならない。つまり「即効性のある対策」を打ち出すことははできないのである。

国民には「政府は何もやっていないしこの問題には関心を持っていない」という印象を与えるのは困る。かといってアメリカ合衆国にも為替について積極的に関与しているとも思われたくない。さらに実際に何かをやろうとしても打ち手は限られている。

こういう諸事情がつみかさなり「問題は認識しているがじっと見つめている」という言い方になったのだろうと感じた。

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