ブルームバーグがアメリカ合衆国の経済がリセッション入りするのではないかという観測を流したのが2022年4月4日だった。実際の経済指標や株価の流れは極めて分かりにくくなっており経済ニュースを個別に読むとかえって混乱する場合がある。リセッションの「噂」についてロイターとブルームバーグの記事をいくつか当たって見た。
ブルームバーグが4月4日に「多くの投資家がアメリカのリセッション(不況・調整期)入りを予測している」という記事を出した。ブルームバーグは様々な提携先に同じ文章を配信しているのだがグラフがあったりなかったりするため同一の記事に見えない。そのためなんとなく複数のメディアが同じことを言っているような印象を持つことになる。今回はYahoo!ニュースと東洋経済で記事が配信されていたのを見つけた。
さらに「世界的リセッションの危険高まる、ロシア侵攻と中国鈍化で-PIIE」という記事が4月12日に流れた。これはロシアが国際経済から切り離され中国もゼロコロナ政策が行き詰っているということについて書いている。これが40年ぶりの物価高騰と重なったことでリセッションが来るのではないかと記事は書いている。
景気が加熱すれば金利を上げて対応し景気が落ち込めば金利を下げて対応するというのが教科書的な理解だ。だが経済紙の記事を落穂拾い的に読むと何だかよくわからないということになり不安な印象だけが残る。
次に見たニュースは「3月のCPIが8.5%上昇した」というものだった。ブルームバーグは日本時間の21時39分に記事を出しロイターは遅れて23時18分に記事を出している。この時点ではどちらも利上げを予想している。これがドル円が20年ぶりに126円をつけたというニュースに接続する。
ところがここで不思議なことが起こる。ブルームバーグが「短期債利回りが急低下した」というのだ。普通景気が加熱し物価が上がると物価を抑制するために利回りが上がるはずなのだからこれは変である。
「変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数の上昇率が市場予想を下回った」と書かれており、物価は上がっているのだが景気の加熱を示しそうな物品の価格は上がっていないという不思議な状態になっていることがわかる。だが普通に読んでいると読み飛ばしてしまう。
そこでロイターの方の記事を読むと物価高騰が細かく書かれている。なんとなく読み飛ばしてしまうところだが実はこれが重要だったということにやっと気がつくのだ。
- 燃料や食料=高騰している。
- 住宅価格=高騰している。
- 高級品・非日用品=高騰しているものはおそらく燃料や原材料としての石油価格の上昇が加味されている。それ以外のものはさほど高騰していない。
それでも二番目の住宅価格の高騰については何も触れられていない。うっすらと「住宅の金利が上昇していたな」ということを思い出した。最後の余剰資金が住宅価格を押し上げているのだがかつてのサブプライムのように低信用の人に貸し出されているわけではないのでリーマンショックの再来はないだろうというような論調になっていた。
だがいずれにせよ市場は「長期金利は上がるだろうから景気は減速するだろう」と予想しているということがわかる。4月13日の朝5時43分になって「アメリカの株価は下げている」という記事で終わった。
時系列で整理して初めてなんとなく何が起きているのかということはわかった。景気がよくなったから景気を冷やすのだが、別の難しい状況(つまりは戦争)が起きていて予想外の悪影響が広がりそうな懸念もあるということなのだろう。
ただこのニュースも実は話の一部だった。
実はこの半月前に「逆イールド」という現象が起きていた。これは短期金利が長期金利を上回るという状態である。3月30日にロイターとブルームバーグがそれぞれ「通常は景気後退のサインでありこれを予想と感じる人によって景気後退が自己実現する可能性がある」と書いている。ただしブルームバーグは逆イールドが起きてから景気が後退するまで2年かかる可能性もあると書いており、逆イールドが起きたからといって明日から不景気になるというものではないようだ。
日経新聞は「長期的なインフレが進行することが予想されるため金融緩和策が抑制されるだろうと予測した人が多かった」ことで逆イールドが解消したのではないかと書いている。つまり短期金利が下がったのは「正常化」の一環だったわけだ。
ただこれで景気後退の確率が低くなったということにはならない。3でないことは確かだが1ではなく2になる可能性は残されている。むしろ予想外・想定外の動きが起きたり解消したりというのは景気が不安定で読みにくくなっていることの現れと見るべきなのだろう。
- 景気の過熱:好景気・インフレ
- コストプッシュインフレ:不景気・インフレ
- 景気停滞による不景気:不景気
こうした入り混じった状態のため現在の経済ニュースはかなり読みにくいものになっている。時系列的に丹念に追ってゆかないとその意味をつかむのが難しいのである。