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パキスタンでイムラン・カーン首相が失職しIMF救済の道を探る

パキスタンで政変があった。元クリケットプレイヤーという異色の経歴を持つイムラン・カーン首相が議会から不信任を突きつけられて失職した。背景にあるのはまたしても外貨不足と物価高である。民主主義と国民経済が脆弱な国が新型コロナとウクライナ情勢のあおりを受けて次々と政情不安に落ちっている。パキスタンは今後IMFに助けを求めるものと思われる。

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パキスタン議会はイムラン・カーン首相に不信任を突きつけた。議席は342議席あり過半数の171票に1票を足した172票が不信任ラインだった。結果的に174票という僅差での不信任決議が可決された。イムラン・カーン首相は「野党とアメリカが結託している」という根拠なき主張を展開し最高裁にも不信任案無効を訴えたのだが、その試みも虚しく不信任が確定し失職となった。カーン首相率いるパキスタン正義運動は「外国に扇動された議会にはまともな決定はできない」として議場を去ったそうだ。

イムラン・カーン首相は国民的スポーツであるクリケットの名選手という知名度を生かしパキスタン正義運動の議席を徐々に増やし首相に上り詰めた。また軍部との間にも良好な関係を築いていたという。

ところがこの良好な関係は軍への利益分配に支えられていたものと思われる。

パキスタンルピーの価格は徐々に下げてゆき2021年5月ごろを境に「タガを外したように」下げていったと日経新聞が書いている。稼ぎ頭だった産業が新型コロナの影響で稼げなくなったからだろう。その後、資源・食料価格が高騰するとルピー安の影響もあり国民生活は苦しくなっていった。こうなると軍部に利益配分をするのは難しくなる。軍との関係は次第に悪化していったと言われている。金の切れ目が縁の切れ目だったことになる。

日経新聞が次のようにまとめている。貿易で稼げなくなると交易条件の悪化を食い止めようと通貨防衛に走り政策オプションがなくなり追い詰められてゆくと言う順番だ。

  • 経常収支は20年7~9月期では8億6500万ドル(約1070億円)の黒字だった。それが、21年10~12月期には55億6600万ドルの赤字になった。
  • 通貨防衛に要した資産も大きく、外貨準備は21年8月末に270億ドルだったのが半年で16%減った。
  • 政策金利を従来の9.75%から2.5%引き上げ、12.25%にすると宣言していた。

もちろん法外な借金を返しきれず首が回らなくなったスリランカよりも情勢は良いといえるのだが構造は驚くほど似ている。通貨を支えるために金利を引き上げると国会財政は圧迫され国民サービスに資金を回すことはできなくなる。だがそうしないと経常赤字がさらに拡大し国富が流出するという構図になっている。

日経新聞はインドも加えた「3ルピー」はかなり危ない状況にあるのではないかと書いている。スリランカのデフォルトは間違いがない。インドは安定しているがロシアと西側の間の「綱渡り」による外交が経済に影響を与える可能性を否定できないからである。

Bloombergはシャハズ・シャリフ元首相の弟であるナワズ・シャリフ氏が新しい首相になりIMFとの協議を始めるのではないかと書いている。厳しい経済状況にも関わらずシャリフ新首相はさらなる利益分配を国民に約束したそうだ。シャリフ氏は選出後直ちに、月給2万5000ルピー(約1万7000円)の最低賃金の設定や、公務員の賃上げ、農村開発計画など、一連のポピュリスト的施策を発表したとAFPが伝えている。

兄シャハズ・シャリフ元首相はパナマ文書で海外の資産蓄積疑惑が持ち上がり現在は汚職の罪で収監中なのだそうである。議会追放が決まると弟を傀儡に立てて院政を敷くつもりだったようだ。

民主主義が発達していない国で起きた出来事でありパキスタンやスリランカが陥ったような状況に日本が転落することはないだろう。日本には過去に蓄積した海外債権が豊富にあり貿易赤字を補っているからである。だが、放漫財政を放置すると最終的には政府も中央銀行も打ち手を失うというのも厳然たる事実である。

日本も2021年12月と2022年1月に二ヶ月連続で経常赤字を記録したばかりである。2022年2月には黒字に戻り関係者を安心させたのだが中には慢性化するのではないかと指摘するエコノミストも出始めている。

パキススタンやスリランカ規模の国であればIMFが救済することはできるのだろうが経済規模が大きくなればそれも難しくなる。

いずれにせよスリランカに続きパキスタンもIMF救済計画を受け入れ厳しい緊縮策を実施することになるだろう。「最低賃金、賃上げ、地方の開発計画」などのポピュリズム政策を打ち出しているシャリフ新首相がどのような表現でIMFの財政建て直し計画を説明するつもりなのか注目したいと思う。

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