イエメンをめぐる混乱はラマダン停戦で落ち着きを見せている。イエメンは大統領が大統領評議会に権限を委任し集団指導体制に移行した。後ろ盾となるサウジアラビアなどの連合国の意向があったものと考えられている。記事には「事態の打開に向けて大きく前進した」と書かれている。だが集団指導体制に移行したところで根本にあるシーア対スンニという対立構造が解消するわけではない。今後イエメン内戦が終結に向かうのか先行きは見通せない状況だ。
まずニュースから確認する。CNNは「2012年にサレハ前大統領を追放して以来10年間大統領を務めてきたハディ氏とアフマル副大統領に代わり、8人のメンバーで構成される評議会が発足した。」と紹介している。つまりかなり大きな権力の移譲が行われたということはわかる。NHKもAFPも大体似たようなことを書いている。NHKはこの移行によりサウジアラビアなどが巨額の財政援助を決めたとも書いている。援助と引き換えに問題解決ができない大統領にから権力を移譲させたのだろうということはわかる。
イエメン情勢の構造を解析した記事は少ない。かろうじて「イエメン紛争がいまいちわからない理由」という記事を見つけた。もともとイエメンはシーア派(ザイド派)が支配していた国だそうだが、サレハという軍人が頭角を現し1978年から2012年までの間34年間も政治権力を握り続けた。
ただイエメンにはスンニ派も多く暮らしている。サレハ大統領が退任するとスンニ派の湾岸諸国がバックアップするハーディ大統領が権力を握ることになった。ところがサレハ大統領の側近たちも温存されため同じフーシ派などと協力した。結果的に政治が混乱し始める。
- 湾岸諸国と協力して豊富な資金を持つが実効支配力があまりないハーディ大統領
- もともとイエメンの支配者で同じシーア派のイランに支援を頼ったシーア派のフーシ
- 南部の分離勢力
という複雑な構図が作られた。つまり両派閥とも外国を頼ったため内戦が拡大したのである。
日本ではサウジアラビアはアメリカとの関係が深いためサウジアラビア視点の見方が西側諸国に持ち込まれ「イランに支援されるフーシ派=過激派」というレッテルが作られてゆく。今でも日本の報道はフーシ派はイランに支援されたテロリストであるとしたものが多い。
イエメンは地図で見るとそれほど大きそうな国でもない。世界経済への影響力は限定的なのではないかと思った。ところが人口を調べて見ると3,000万人ほどが住んでいるそうである。実はかなり大きな国なのだ。
面積だけで見ると日本よりも大きい国土を持っている。サウジアラビアというさらに大きな国に隣接している上に赤道近くにあるために大きさの実感が湧きにくい。
- イエメン:555,000㎢(人口3000万人)
- ウクライナ:603,500㎢(人口4400万人)
- 日本:378,000㎢(人口1億2500万人)
内戦が続くイエメンはウクライナ産の小麦が供給されなくなると1900万人が最低限の食料ニーズすら満たせない最悪の飢餓状態に陥るであろうと予想されている。連合国の非人道的な空爆も問題だ。大統領制度が集団指導体制になったとしても根本的な対立構図が和らいだわけではない。このような状態はしばらく継続するものと思われる。とはいえアメリカもヨーロッパもこの地域の情勢にはあまり関心を持たない。サウジアラビアの石油精製施設や積み出し施設が破壊されると「原油価格の高騰が懸念される」としてニュースになるのだがやがて忘れ去られるという具合である。
現在はラマダン停戦中なのだがおそらくラマダンが明けると再び闘争が活発化してゆくものと思われる。