先日のエントリーではロシア国債デフォルトのXデーは5月25日だと書いた。だがそれが早まる可能性がある。ブチャでの残虐行為が明らかになり国際的包囲網がさらに制裁を強化させているからだ。制裁対象はあくまでも「アメリカの銀行口座にあるドル」を使った支払いの禁止なのでロシアが手持ちのドルをかき集めて支払いを進めることは可能なのだろうが5月25日に期限を迎える特例が延長される可能性はほぼなくなったことになる。当座をしのぐことができたとしてもロシア国債のデフォルトの可能性はいよいよ高まったものとみて良いだろう。ロシア国債がデフォルトすると保有者はしばらくの間資金が回収できなくなる。国際金融市場に今後ロシアが復帰できるかが全くわからなくなっているからだ。
きっかけになったのはキーウ(キエフ)近郊の町ブチャでの惨劇である。ゼレンスキー大統領は安保理で「拒否権を死ぬ権利に変えようとしている」と訴えた。国連に対する批判が高まれば国連安全保障理事会の権威が低下することは避けられそうにない。すでにフランスが拒否権の限定使用を提案しており自民党内からもこれに協力すべきだという声が聞かれるようになった。
こうしたゼレンスキー大統領の提案が即時に世界に広がるのはウクライナがIT技術を活用して世界世論に直接訴えを起こしているからである。いわばSNSに届く初めての戦争(立場によっては紛争)と言って良いだろう。ゼレンスキー大統領はヨーロッパにキャッチアップしEUへの加入をやりやすくする目的でIT立国を目指し準備を進めてきた。技術革新だけではなく金融・政治の透明化の実現もその目的の一つだったようだ。汚職がなくなれば政治的な加入要件を満たすことができるからである。
ゼレンスキー大統領の呼びかけに呼応する形でヨーロッパはロシアへの制裁を強めると当時にウクライナへの連帯の動きを加速させている。ドイツとフランスはロシアの外交官を追放した。和平にヨーロッパが参加することは難しくなるが事態がここまで進展するとこれもやむなしかと思える。イタリアなどヨーロッパの国ではロシアの外交官を追放する動きが加速している。
一方でEU委員長(EUの大統領と例えられることがある)がキーウ(キエフ)入りを表明したほかオーストリアのネハンマー首相もゼレンスキー大統領と会談することを表明した。
もちろん戦争犯罪の断定にはかなりの時間がかかることが予想されており直ちにロシアがやったことだと断定されるわけではない。ラブロフ外相は一貫してこれは「フェイクニュースだ」として真相解明に協力する姿勢を見せていない。さらに天然ガスの売り込みでプーチン大統領は自分たちの主張を一方的に繰り返しておりヨーロッパの世論と折り合おうとする姿勢を見せていない。いずれにせよヨーロッパではこうした惨劇は絶対にあってはならないことだと受け止められているのだから「ロシアだけでなく他の国がやっていた」としてもロシアの行動が正当化されることはないだろう。
ただ、このような制裁が激化すればいよいよ停戦や和平の進展に大きな障害となることは間違いがない。特に戦闘の激化が予想される東部地方の市民たちの安全が脅かされることが懸念される。
なおQuoraではロシアが金の購入を進めているという内容の投稿があった。投稿者は金本位制への回帰の兆候ではないかとみなしているようだ。価格が安いロシアのエネルギー資源に期待をする国もあり、デフォルトが直ちに国際金融市場からのロシアの追放につながるかはわからない。あるいは単一の市場がなくなりセグメント化してゆく兆候なのかもしれないと感じた。